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青空を突き抜ける一筋の雲






「今日はのんびりするぞー!」



体を思い切り伸ばす。いつもよりゆっくり寝たから。軽く散歩して食材買って、なんて予定も立てて。



「の割には出かけんだな」
「自由にするんだから十分のんびりじゃん」



仕事じゃ立ちっぱなしで足腰が痛い。朝が早いのは部活で慣れてるから構わないけど、たまに朝四時おきは少しだけツラい。今日はそれより三時間は多く寝たから結構すっきりしてる。



「ユーリって年の割におっさんっぽいよね」
「ほっとけ」



毎日ダラダラして、ちゃんと仕事をしてるわけでもないのに生活が出来てるし。下町人情なんだろうけど、堕落しすぎてる気がしないでもない。ふと思ったけど彼氏がプー太郎って……どうなんだろう。そもそもお金を稼ぐような仕事をしてるようには見えないんだよね。



「なんだよ」



まじまじとユーリを見てれば訝しげに眉を顰める。べーつにー、と顔を背けるとユーリはあたしの肩を掴んで自分の方へと寄せる。勢いで倒れそうになるけど、そこは支えてくれる。



「ちょっと!」「そんなに見つめるほどいい男か?」



いきなり何すんのよ!と怒鳴ってやろうかと思えば、あたしの耳元でそう言うユーリ。わざと耳元で囁くように。直接耳に掛かる吐息に体中が一気に熱くなる。確信犯だ、絶対に。そうしたらあたしがどうなるかわかっててやってるんだ。その証拠に口角はしっかりと上がっていて、楽しそうな表情を浮かべてるし。



「そうだねぇ……でも、フレンの方が紳士かな」
「……なんでアイツが出くんだ」



このままやられっぱなしも癪に障る。少しくらい意地悪したっていいよね。ねーっとラピードにも同意を求めれば、わんっ!とひと吠え。



「ラピード……てめぇ……」



あたしに味方したラピードを横目で見れば、ラピードはふいっと顔を背ける。



「ダンディーなのはラピードかなぁ?」



もしラピードが人間だったら渋いおじさまって感じかも。硬派な感じで。あ、見てみたい。



「ユーリは意地悪で優しさに欠けてるんだよ」



そういところも嫌いじゃない。とは言えない。じゃなくて言えない……恥ずかしいし。



「優しくされたいのか?」
「――っ!?」



顎に手を添えられて持ち上げられる。結構近い距離にユーリの鼻先があって、端から見ればキスすんぞ!って距離で。や、ヤバい!またユーリのペースになっちゃう。



「せいっ!」
「うぉっ!?」



流されちゃならん。咄嗟にそう思ってユーリに足払いを掛ける。体制の崩れたユーリの服を掴んで流れに任せて投げつける。ユーリなら受け身を取れるだろうと踏んで。まあちゃんと取ってくれたけど。



「何すんだ!」
「それはこっちのセリフだ!」



往来で何て事しやがる!と。周りにはユーリだけじゃなくあたしも知ってる人たちばかり。ここが下町で一番の通りとわかっててやるんだから質が悪い。



「……お前、こんなんどこで覚えた?」



城のメイドは投げ技までこなすのかと腰をさすりながら立ち上がるユーリ。



「元の世界の友達に護身術に教わった」



痴漢撃退法だよ。おい、俺が痴漢かよ。と会話してれば子供たちがてけてけと寄ってくる。



「やーい、ユーリ。投げられたー」
「空良に投げられたー」



楽しそうに笑う子供たちを、コノヤローと追いかけるユーリ。なんだか微笑ましくてあたしまで笑い出してしまう。ほんとユーリって愛されてるよ。あんなに人が彼を囲うんだもん。



「空良」



子供だけじゃなく商店街のみんなにまで囲まれてるユーリを少し離れたところから眺めてると名を呼ばれた。誰と聞くまでもない、声でわかる。



「見回り、フレン?」



そちらへと顔を向ければフレンが近寄ってくる。あたしの隣に立って遊ばれてるユーリを見てクスッと笑みを浮かべて。



「相変わらずだね」
「うん」



捕まえた子供を肩に抱えてクルクルと回ってる姿は何だか微笑ましい。見てるこっちまで楽しくなるくらい。



「いいな、ユーリ」



ぽつり、と出た言葉。



「空良?」
「あ、うん……羨ましいくらい愛されてるなって」



小言を言ってもユーリを本気で嫌う人なんてこの下町にはいない。だから羨ましい。あたしの言葉にフレンは、そうだね。と笑った。





(皆から愛される君が好き)




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