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曇天を晴らす清廉な君









「ふーっ」



服の袖で額の汗を拭う。こんなに動いたのは部活以来か。引退してからあんまり体を動かすことがなかったから、少し疲れてきた。慣れない労働と言うのが疲れの一番の原因だと思うけど。六年前はよく働いてたな、あたし。



「やっと終わったかな」



部屋を見回せば一応綺麗になった部屋。あたしの部屋より何倍もありそうな、豪華な部屋。何故そんな所にあたしがいるかというと……



「空良」



コンコンとノックの後に入ってきたのはフレン。にっこりといつもの爽やかな笑みを浮かべてあたしの側に歩き寄ってくる。



「どうだい?」
「うーん、さすがに疲れた」



ここはザーフィアスの一番上にあるお城の一室。住むところと職に困っていたらフレンがメイドが足らないんだ。と仕事を紹介してくれたのだ。メイドにちょっと抵抗はあったけど働かないことには生活が出来ない。何とかなるだろうとフレンにお願いしてもらって働くことになった。とりあえずは掃除から。



「ユーリはどうしてる?」



その問いに溜息しか吐けない。それだけで何かを察したのか苦笑いを浮かべるフレン。



「むくれてるよ」
「やっぱり」



住むところもいつまでもユーリと同じ部屋というわけにはいかない。六年前とは違うのだ。その事はフレンも懸念していた。とその結果、フレンはどこからそのお金を用意したのか下町のアパートの一室を借りてくれたのだ。お金はちゃんと返すと約束はして。きっと貯金を使ってくれたと思うと申し訳ない。一生懸命に働かないと。



「2、3日もすれば機嫌も直るんじゃない?」



んでユーリは毎日一緒に暮らせると思っていたらしく、あたしが一人暮らしを始めることになるや否や機嫌が悪くなった。わかりやすい。何を期待してたかはあえて考えない。



「ユーリにも困ったね。でも空良もあまり無理はしないでくれ」
「うん、ありがと」



フレンは優しい。まだ子供の時と扱いが変わらないこともあるけど、それでもあたしのことを思って色々手助けをしてくれる。ユーリの場合、子供のまま大人になったみたいで気にくわないと駄々をこねて不機嫌になる。



「空良ー。今日はもう上がっていいって……あ、お話中?」
「いえ、大丈夫です」



ノック音と共に部屋の中に入ってきたのは先輩メイドのアリスさん。新米のあたしの教育係。すごく綺麗な銀髪の美人なお姉さん。女のあたしでも口説きたくなるくらいめちゃ美人。



「それじゃあ空良。頑張ってね」
「ありがとう、フレン」



一瞬『様』と付けそうになったけどたぶんフレンが拒否しそうだからあえて付けなかった。



「……フレン様と知り合いなの?」
「えっと、命の恩人の一人です」



聞かれると思ってたけどこれなら差し支えないよね。ユーリのことを言うのはどうかと迷った挙げ句言わないことにした。うん、言わないしよう。ユーリってばザーフィアス内ではある意味有名だもんね。



「じゃあ、また明日」
「ええ」



余計なことを聞かれる前に退散しよう。定時には早いけどいいって言われたからいいんだよね。ともかく、早く終わったならユーリんとこでも寄るかな?まだむくれてるのかな……だとしたら面倒だ。



「……あ」


メイド服から着替えて城を出ると暇そうに座っているユーリの姿があった。ありゃ今さっき来たって風じゃない。まったく、素直じゃないなぁ。



「ただいま」



込み上げてくる笑いに耐え、明後日の方向を見ている彼に声を掛ける。特に驚く様子もなく、おうと片手を挙げた。



「で、初出勤はどうだったんだ?」
「足腰に来るね」



休憩中以外はほぼ立ちっぱなしだし広い部屋をぐるぐる回ったり、部屋の天井が高いから窓の位置も高くて拭くのに一苦労。こりゃあ明日は筋肉痛かな?



「ま、頑張れよ」
「頑張りますよー」



世話になりっぱなしはイヤだ。それじゃああの頃と何も変わらない。もう子供じゃない。



「ユーリ。お腹空いた!なんか食べにいこう!」
「ああ?」



急に思い立ち手をパンッと打つ。早めに上がれたからちょっと寄り道もいいかも、と思ったけどユーリは眉を顰める。



「あたし、パフェがいい!」
「よし行くぞ」



ガシッと腕に抱きつけばユーリはそのまま店へと歩き出す。ちょっと単純。でもそこがいい。





(『甘い』のが好きなんだよ)



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