変わらぬ世界の夕闇
「……もう、いい加減泣き止まない?」
あたしの腰掛けるベッドで大の大人がわんわん泣いている。喜んでくれてるんだろうなとは思うけど、ちょっと引く。あたしがテルカ・リュミレースに戻って一夜。時刻はもうすぐ日の暮れる頃。仕事終わりの金色の彼がたまたまこの部屋の主に会いに来たのが事の始まり。
「ったく、いつまで泣いてんだよ」
「だって!ユーリ!何で教えてくれなかったんだ!?」
呆れた眼差しを幼なじみに向けるユーリ。向けられた相手、フレンは涙目でそのユーリを睨みつける。
「仕方ないだろ?お前仕事中なんだから」
明日が非番って聞いてたからそん時でいいかと思ってよ。とあっけらかんとした態度で言うユーリにうっ、と言葉を詰まらせるフレン。真面目なフレンがあたしが戻ってきたからと言って職務を放棄するはずもない。間違ってないけど、絶対にこうなるのをわかってたな。その証拠に顔、笑ってるもん。
「あたしとしてはフレンと再会できたのは嬉しいよ。それに、こんな姿になったのに受け入れてくれたし」
あたしとしてはそこが重要。もちろんフレンに限った事じゃない。何が凄いって、宿屋の女将さんやそこにいた人たちまで妙な納得をされた。人がいいってレベルじゃない。いいのか、それで?と聞けば「空良だから」と返された。てかあたしって何よ?
「空良、僕も再会できて嬉しいよ」
この爽やかな笑顔も変わんないな。こっちで三ヶ月しか経ってないんじゃ変わらないだろうけど。
「それで、空良は今後どうするんだい?」
「どうするって?」
ベッドに腰掛け直し、そう訊ねられる。今後は当然このザーフィアスで暮らしていくつもりだけど、どういうことだろう?何か不都合でもあるのかな?
「住む場所とか生活に関してだよ」
なるほど。ぽんっと手を打つ。働かなきゃ食べていけないもんね。元の世界だと大学生になる〜って思ってたから働くことなんて何にも考えてなかった。まあ、バイトくらいは考えてたけど。
「仕事はともかく、住むのはここでいいだろ?」
空気を読んでか読まなくては、はたまたワザとか。この部屋の床を指さして言ったのはユーリ。
「ゆゆゆユーリ!?ななな何を言ってるんだ!」
「っても昨日はここに泊まったんだしな」
顔を真っ赤にするフレンとしれっとした態度のユーリ。ある意味問題発言をしたユーリにフレンは、泊まったぁ!?と大声を上げる。茹で蛸になってるよ。
「言っとくけどフレンが思ってるような事は何もないよ」
これ以上放っておくとユーリのいい玩具にされちゃうし助け船だした方がいいよね。と言うかあたしの方にまでとばっちりが来そうで怖い。
「あたしがベッドでラピードと寝て、ユーリは床で寝たの」
ユーリとまあ、付き合い始めたのは間違いないんだけど、さすがにまだそこまでの関係じゃないし。てかフレンってかなり思いこみが激しいよ。
「なんだバラしちまうのか」
ちぇっとそっぽを向く。ユーリの場合どこまでが冗談でどこまでが本気かがわからない。だからかな、真面目なフレンはいいように遊ばれるんだろうな。
「え、空良。じゃあ……」
「フレンは心配しすぎ。ユーリが何かしてこようとラピードがいるんだよ?」
これ以上にないボティガードじゃんとラピードを見ればラピードは当然とでも言いたそうに銜えているキセルを立てる。フレンもぱちぱちと瞬きをしながらラピードを見る。
「本当に残念ながら何もなかったぞ」
自慢することでもないのに腰に手を当てて満面の笑みを浮かべる。内心何を思ってるんだか。ユーリって、わかっていたけど不良って言うか。あえて口にはしないでおこう。選んだのはあたしなんだけどさ。
「仕事終わりになんかご苦労様だね」
あたしのことは昼間の巡回中にテッドから聞いたらしく、日が暮れ始めた頃、ノックもなしに宿の扉が勢いよく開いた。いつもの爽やかさはどこ行ったってくらいの形相で現れた。ベッドに腰か掛けるあたしの顔を見るなりベッドにうつ伏して泣き出した時はさすがにびっくりしたけど。
「再会を祝して飯でも食いに行くか?」
「さんせー!」
もう日が殆ど暮れて暗くなってきた。フレンも仕事が終わったなら下で夕飯を食べようと誘えば彼は、うんと二つ返事。
(改めてよろしくね!)
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