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両手いっぱいに抱く大空






早いものであたしがテルカ・リュミレースに来てもう三ヶ月も経った。生活にも仕事にも慣れて、これが当たり前になっていた。以前のようにテレビとかケータイとかが当たり前だった生活はなくなって、暇なときは本を読んだりとかユーリやフレンと遊んだりとかそんな生活になっていた。



「で、ユーリはいつまでニートでいるの?」
「何だよ、いきなり」



いきなりでもないでしょ?もう、と腰に手を当てて呆れてしまう。散々フレンにも言われてるから耳にタコができるとか言いたいんだろうけど、それろそろちゃんと働いて欲しい。



「やりたいことがあるなら別にいいけどそう見えない」
「やりたいことねぇ……」



知らないわけじゃない。前にフレンに聞いた。昔ユーリは騎士団に所属していたと。ある街で起こったある事件を後に騎士を辞めてしまったと。ユーリが手首にしている魔導器はその事件で亡くなった人の形見だという。



「空良」



名前を呼ばれて、なに?と返事をすれば手首を掴まれて引っ張られる。以外に力強く引かれ、その勢いに任せるとぽすっと柔らかい何かの上に乗る。



「ちょ、ちょっと!」



あたしが乗ったのはユーリの膝の上。ベッドに腰掛けるユーリの膝にあたしが座らさせている。慌てて立ち上がろうにも腰に手を回されていて立ち上がれない。



「案外細いな」
「失礼だ!」



バシッとユーリの頭にチョップする。女の子に言う言葉ではない。あたしだってこれでも女なんだから。



「ユーリ?」



抱きつくような体勢を取って急に黙る。どうしたんだろうと、顔を覗き込もうにも長い黒い髪で表情は伺えない。あたしをからかってるのか、それとも何かあったのか。一瞬抱く力が強くなって、あたしはユーリの髪の毛を梳くように撫でる。女のあたしより綺麗な髪が羨ましいなんて口が裂けても言えない。



「もう、どこにも行くなよ」



やっと発した言葉はそれだった。突然何を言い出すかと思えば、どこにも行くな。ユーリがあたしに不安を口に出すのは初めてかも知れない。何でいきなりとも思ったけど、そういえば昨日夕飯を一緒に食べてるときに、元の世界での話をしたっけな。それで不安になったのかな?



「行く訳ないでしょ?」


あたしは元の世界での暮らしよりユーリを取った。12才だったあたしが6年も経って18才になった。姿形はあの頃の面影があっても成長しているわけで。自分で選んだ道なのにいざ会おうとしたら怖くなって逃げ出して。それでもあたしを見つけてくれて。



「あたしはユーリを選んだんだよ」



何一つ後悔なんてない。毎日、一つ一つ起こる出来事が楽しい。



「ユーリがいい」



そこまで言うと抱き締められたままベッドへと倒される。腰にはユーリの腕が回ったまま。あたしの胸に頭を押しつけるユーリに、スケベ!とその頭を叩いてやろうかとも思ったけど、そのまま抱き締め返した。珍しく弱気なユーリに当てられたのか。



「俺なんか選ばれて悪かったな」
「だから、あたしが好きでユーリを選んだってば」



誰のせいでもない。あたしの道はあたし自身で選んだ。ろくでなしかもしれない。でも一緒にいたいと思った。理由なんてそれだけで十分。だってそうでしょう?取って付けたような理由なんて必要ないもん。今が幸せだから。



「好きだよ、ユーリ」



この一言がなかなか言えないでいた。恥ずかしくて恥ずかしくて。子供の頃は男にも負けないくらいお転婆で。まあ、今でも男前とか言われたり女の子から告白されたりとかもしたけど。変に曲がったことが嫌いなのはユーリに似たのか。



「悪い男に引っかかったな」



胸から頭を離したこちらを見たユーリの顔はいつものように意地の悪い笑顔だった。ニィッと口角を上げて笑っている。



「ユーリも変な女に引っかかったね」



負けじと言い返してやると、一瞬目を丸くして、違いねぇとまた笑う。あたしと同じ位置に移動したユーリは何度もあたしの黒髪を手櫛で梳く。そして何度も触れる程度のキスを繰り返す。柔らかな唇が触れる度に心の奥から温かくなる。



「好きだ」



それだけで全てが満たされる。こんな日がもっともっと続けばいいと思う。そんな幸せは違う形になるのは後少し先。あたしたちの未来は無限に広がるだろう。





世界に広がる蒼穹のように
(あたしの世界は広がった)



あきゅろす。
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