夏の終わり
「緒方さん」
夏休みももう終わりに近づき、今日は休日。特にすることもないから、影虎叔父さんのお手伝いでもしようか何しようか悩んでいるとケータイに着信ランプが点る。誰だろうと開いてみるとそれは黒子くんでだった。
『助けて下さい。マジバにいます』
とだけ書かれていた。その意味がわからなくて首を傾げる。その後すぐにもう一件、メールが届く。
『宿題が終わらない!助けろ!』
それは火神くんからでした。そこでこの二つのメールは実は繋がっていると私は認識し、すぐ行きます。とだけ先に届いた黒子くんに返信し宿題のノートを鞄へと詰め込む。
「緒方さん。こっちです」
マジバに着くとそこには黒子くんと火神くんだけではなく、降旗くんたちもいました。
「……もしかして、全員ですか?」
私のその問いに全員が視線を逸らした。まさか黒子くんまでと思いませんでしたが、部活も忙しかったのですから仕方ないかもしれません。マネージャーの私と違い、みんなはヘトヘトに疲れるまで練習をしているのですから。
「どの教科かわからなかったので全部持ってきました」
「助かる!」
「恩に着るよ!」
暑い中、重い重い鞄を何度も肩に掛け直した。どの教科が必要かを聞き忘れてしまい、メールしようかと思いましたが少々面倒になって全部持ってきたら感謝されました。皆さん自分に必要な教科のノートを手に取る。
「火神くんにはこれも」
一冊のレポート用紙を差し出す。火神くんはそれが何なのかわからずレポート用紙と私の顔を何度も交互に見ます。
「古典のレポートです。火神くん、国語系は苦手だと言っていたので」
「マジでか!?助かる!」
ゴンっと机に頭をぶつけるほど頭を下げる火神くん。そんなに気にすることもないのに。
「いいんですか?緒方さんのレポートは……」
「ちゃんと終わってます。あれは……ボツにした方です」
一度終わらせたけど違う内容で書きたくなって新たに書き直した。やり損とリコちゃんには呆れられたけど、やるからにはなっとくしたものでやりたかった。
「ただし書き写して下さいね。字でバレては元も子もありませんから」
私が注意すると火神くんはおう!と返事をしてノートを写し始めた。
「飲み物を買いに行ってきます」
暑い日差しに照りつけられながら歩いてきたらのどが渇いてしまいましたし。カウンターに行って何を頼もうかとメニューを見る。
「バニラシェイクを二つ」
「かしこまりました」
「黒子くん?」
スッと隣に立って注文する黒子くん。お金もいつの間にか支払い終わっていて、用意されたシェイクの一つを私へと手差し出す。にっこり笑って差し出されたからか、私はコクンと頷いて受け取った。
「あ!お金……黒子くん。いくらですか?」
「僕の奢りです」
私の分を払おうと財布を開こうとしたら、黒子くんに制される。奢られる理由がわからなくて、でもと引き下がらないでいると、
「夏休みの宿題を見せてもらってるのですから、これくらいのお礼はさせて下さい」
そう言って黒子くんは皆さんのいる席へと戻っていきました。私は、小さな声でありがとうございます、と言って席へと向かう。ひと啜りしたバニラシェイクはとっても甘かった。
「緒方さんがいなかったらどうなってたことか」
「いえ。私もちょうど暇をしていたので」
福田くんが、はぁと息を吐く。何をしようかと考えてたときだったので、そこまで感謝される程でもない。でも皆さん、そんな事ない!と首を振る。
「あとちょっとが終わらなくて」
「火神くんはほぼ全部ですけど」
「うるせぇ!」
このやり取りをクスクス笑っていると、緒方も笑ってんじゃねぇ!と怒られてしまいました。
「緒方さん、楽しそうですね」
「はい。自分がこんな風に人と喋れるようになるなんて思ってもなかったですし」
まだ誠凛の皆さんとしか普通には喋れませんが、少し前までの私には考えられません。
「黒子くんがいっぱい話し相手になってくれたおかげです」
「緒方さんが頑張ったからですよ」
自分でも驚くくらい変わったと思う。昔のことを思い出すとまだ怖い。
「またお願いしますね」
「僕でよければ」
優しい微笑みを浮かべてくれる黒子くんに私も笑顔で返す。この夏はとってもいい夏でした。
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