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臆病者の行進





「ど、ドリンクと……たたたタオルです……っ!」



対人恐怖症の私にはなんて酷な試練なんでしょう。側に行くだけでも怖いのに話しかけて物を手渡しするなんてレベルが高すぎます。とは言え、いつまでもそうはしてられないでしょ!と従姉妹であるリコちゃんに怒ら……言われて入った誠凛高校バスケ部。女の子ならともかく男の子だけ。更にハードルが上がってます。



「ありがとうございます」
「おう、サンキュー」



黒子くんも火神くんもいい人なのはわかっています。こんな私にも普通に接してくれます……火神くんはたまに怒鳴りますけど。二年生の先輩は去年からたまにリコちゃんにくっ付いてくる私に優しく接してくれたのでだいぶ慣れましたが、マネージャーになった以上もっと頑張らないと。



「優希ちゃん」
「は、はひぃ!」



ポンと肩に手を置かれたことにビックリしてしまいました。肩を竦めたまま振り返ると立っていたのは日向さん。目を見開いて驚いていたものの、すぐに笑顔を浮かべてくれます。



「ご、ごめんなさい!」
「いいよ、大丈夫。ああ、それと。これからミニゲームやるから得点板だしてもらえる?」



本当に私は駄目です。臆病にも程があります。ああ、向こうでリコちゃんが溜息吐いてる。私を鍛えるがために東京に呼んでくれたのに。



「はぁ……今日も零点です」
「何が零点なんですか?」



用具室の奥で一人、項垂れるてると後ろからまた声が。ビグっと体を震わせてそちらに顔を向けると黒子くんが立っていました。黒子くん……本当に影が無さ過ぎです。心臓が止まるかと思いました。



「緒方さん?」
「い、いえ!その……何というか……」



さすがに言いづらいです。人と接した対応に応じて点数を付けてるなんて。何でもないですとスルーしたいところですが、用具室の入り口に立たれていると無視するわけにもいかなくて。あなたはどうしてそんないい位置に立ってるのですか。



「手伝います」
「あ、ありがとう…ございます」



人の好意も無視できない。いえ、これがカツアゲでも私は無視できません。むしろそっちの方が無理です。黒子くんは優しい方なのでそんな事しませんけど。


「く、黒子くん!ちょっといいですか?」



このままじゃいつまで経っても駄目なままだ。それを変えたくてわざわざ住み慣れた土地を離れたのだから。私のことを誰もいないところから始めるって決めたのです。



「……あの、ごめんなさい」



よくよく考えたらすごく申し訳なかったんじゃないかと今更思ってしまう。



「練習で疲れてる選手を……練習後にまで付き合わせてしまうなんて……」



疲れてるのだから早く家で休んだほうがいいのに私は何てことを。



「気にしないで下さい。ここのバニラシェイクは好きなので」



それに、と言葉を続けようとした黒子くんに私が首を傾げれば、黒子くんはなんでもありませんと返した。やっぱり誘っちゃいけなかったのかもしれません。



「それで話というのは?」



チューとシェイクをひと啜りした黒子くんが話を切り出す。そうでした。私が誘ったのでした。



「……その、私の体質の事は……知ってますよね?」



もちろん対人恐怖症のことである。私同様の新入部員には最初に話してある。接する際に注意と。



「はい、それが?」



それがと聞かれればそれまでなんだけど。い、いえ!それじゃ駄目なんです!



「黒子くんに……お願いがありまして」



だんだん声が小さくなっちゃいます。こんなこと頼んでもいいのかなって。



「わ、私の……話し相手になって欲しい、んです」



対人恐怖症を克服するために…と言ってから何て厚かましいお願いをしているんだと気付く。私なんかと話をしても何も楽しくないのに。



「り、リコちゃんみたいに……ハキハキした性格に、なりたいんです……」



無理なのはわかってる。でも少しでもそうなりたくて。私の憧れだから。



「僕は構いませんけど、何故僕なのですか?」



理由は気になりますよね。当然ですよね。



「黒子くんが、一番……話しやすかった、からです」



きっと私の話もイライラせずに聞いてくれると思ったから。無茶なお願いだったかな。



「僕で良ければ喜んで」



優しく微笑んでくれた彼に私は釘付けになった。ああ、やっぱりこの人ならって思えたから。




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あきゅろす。
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