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act:08 抗う衝動





ああ死んだのかな。
あの瞬間、本当にそう思った。タルタロスのあの高さから受け身も取らずに落ちたのだから。



けど死んでない。
浮上し始める意識とともに体中に響く痛み。死んでたらこんな痛みなんてないはず。



「セラ?」



開けなくもない重い瞼をゆっくりと開けるとまだ焦点も合わないけど霞む視界には緑色のものが映った。これは言わずとも誰のことなのか分かる。そして一気に最悪な気分になった。



「よかった!気がついたのですね!」
「……導師」



あたしの横に腰を下ろし安堵の表情を浮かべているのは確かにあたしがタルタロスから落ちる前、アニスと一緒にいた導師『イオン』だ。
さて問題はこの導師が誰といるか、だ。あのままアニスと一緒なのか、はたまたシンクたちに捕まったのか。体が痛むのを我慢して上半身だけを起こして辺りを見回せばもう夜だった。



「おや、気がついたのですか?」



少し痛む頭に手を置いて状況を確認していれば上から聞き覚えのない声が降ってくる。見上げれば長い亜麻色の長い髪に赤い目に眼鏡。そして一目で分かるマルクトの軍服を身に纏った男。

「………死霊使い…ジェイド…」
「光栄ですねぇ。あなたが私の名前を知っているとは」
「なんだソイツ、意識戻ったのか?」



これだけの容姿を見れば相手が誰だかすぐに分かる。まずその赤い目。そしてかなりの地位を表すだろう軍服。あの船に死霊使いが乗っていることは情報として入っている。導師を連れ出したのも然り。



「大佐、彼女を知ってるのですか?」
「確かイオンの知り合いだって言ってたな」



次々に現れる。赤毛の少年……彼は。まさかこんな所で会うことになるなんてね。アッシュも知ってるってことか。後はヴァンと同じ髪、瞳の色の少女。初めて見たけど彼女がヴァンの妹……年が変わらないって聞いてたけど何か不愉快。あとは金髪の青年……一見爽やかそうだけど何か裏がありそう。



「彼女はセラ。神託の盾騎士団の『碧光のセラ』でしたね」
「碧光…?」



どういう意味だ?と赤毛の少年……ルーク。だよね、が死霊使いに訊ねる。さすれば「長い碧の髪を靡かせ光の如く敵を討つ」そんな謂われらしいですよ、と答える。なんでそれを知ってるんだかって。黙って聞いていた。



「でもよかったです。タルタロスから落ちたときは本当に心配しました」
「よかった?心配?……馬鹿じゃないの」



僕たちが偶然見つけたときは驚きましたけど、生きていてよかったです。そう言う導師を横目で睨みつける。自分が誰に何を言ってるのかを分かってるの?



「てめぇ!イオンが心配してるって言ってんのに、馬鹿ってなんだよ!」



コイツもイライラする。所詮は人形のくせに!あたしの気持ちなんて知らないくせに!この顔でこの声でその姿で……笑い掛けられたらそんな表情されたら。



「うっさい……あたしは敵だよ?助けるなんて馬鹿じゃないの!?」
「それでもあなたは僕の、いえ『導師』の幼なじみです……大切な!」



その瞬間、何かがブチ切れる音がした。まるで壊れるように……そう、あの日のように……



「止めて!止めて!もう……あたしに構うな!もう!いないんだから!!」



体中が痛いのなんて忘れた。気にも止まらなかった。けど、もう嫌だった。忘れたい。消せないけど忘れたいのに……それをどうして無碍にするの?
あたしはあたしは……



「セラ!?」



誰かがあたしを呼ぶ。
でもよく分からない。
分かるのはあたしが走り出したということだけ。
どこに向かって、何に向かって、どうしてかなんて分からずがむしゃらに走り出したから何がなんだか分からない。



「セラ?」



もう一回名前を呼ばれて足を止める。誰か前に立ってるんだけど誰だか分からない。けど何か安心した。分かんないことだらけだけど、霞んでよく見えないけど安心した。



「セラ!?」



それからのことは覚えていない。何か温かいものに触れた気がしたけど覚えていない。





抗う衝動
(それは抑えることが出来ないもの)

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