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act:07 組曲の始まり





とうとうその日はやって来た




君が命の終わりを悟り、君が居なくなった後に、君が望んだ組曲を私達は




奏で始める






「あんたはここで留守番 だよ」



シンクの言う『ここ』とはアリエッタの友達、フレスベルクの上。要は空からタルタロスを見下ろしている。正直言って暇だ。ただ上から眺めてるだけ。タルタロスを完全拿捕するまではここで待機なんて。



「……っ!?」
「ちょ!何やってんの!?」



眼下のタルタロスを見下ろしていると艦内から出てくる二人組とそれを追う神託の盾兵士が数人。二人組の姿を確認したあたしは数十メートル下のタルタロスへと向けてフレスベルクから飛び降りた。それに驚いたシンクが大声を上げる。



「導師が逃げてる!アニスが一緒!」



ここまで言えば分かるだろう。要は捕らえるのに失敗した。このまま逃げられるわけにはいかない。



「唸れ烈風!大気の刃よ切り刻め!タービュランス!」



実際、攻撃をするわけじゃないけどこの高さから何もしないで落ちたら大怪我じゃすまない。


「イオン様!こっちへ!」
「は、はい!」



すでに止まっているタルタロスから脱出するために艦内から脱出使用とする二人。二人には悪いけど……



「逃がさないよ」



と、脱出口に向かう導師とアニスの前に着地する。まさか上空から人が落ちてくるなんて思わなかったのか意表を突かれたように目を見開き驚いている。唯一感心できるのはアニスは咄嗟にイオンを庇うように体勢を直したこと。



「導師……我々と来てもらいますよ」
「……セラ」



ホルダーからナイフを二本抜きいつでも投げれるようにする。あたしの姿を見た導師の顔は青ざめまるで信じられないと言った感じだ。



「この人が……イオン様の?」



二年前のあの日からこの子が導師の守護役になったのは知ってる。この子も何も知らないただ借金を盾にモースにいいように利用されているある意味可哀想な子。



「怪我をしたくなかったら大人しくして」
「僕は!……ここで連れ戻されるわけにはいきません!」


普段の大人しいイメージを一新させるかの如く揺らぐことのない意志を秘めた瞳であたしを見つめ返す。



「悪いけど……『あなた』にそんな権限はない」
「ーーっ!!」
「イオン様に向かって何てこと言うんですか!」



きっぱりと……『レプリカ』であるあなたにはそんな資格はないと言い放ってやる。当然、その意味が分かる導師は言葉を失うが、事情を知らないアニスは激怒する。





うるさい
何も知らないくせに
本当のイオンを知らないくせに





「あんた……邪魔」



イライラが募ったあたしは手中のナイフをアニスに向けて投げつける。瞬時にアニスの武器であり人形のトクナガを大きくさせてナイフを弾く。どんなに幼くてもどんなに愚か者でも導師守護役は伊達じゃないみたいだね。



「なら!ーー荒れ狂う流れよ!スプラッシュ!」
「はぅあ!?」



後ろに控えた導師を庇っているせいで下手に避けることの出来ないアニスはまともにとはいかなくてもそれなりのダメージを食らう。彼女もそれなりの覚悟を持って神託の盾騎士団にいるのだから手加減はいらないはず。



「これでおしまいだね」



ホルダーから更にナイフを抜き構える。このナイフはアニスの心臓を捕らえるはず……だった。



「セラ!止めて下さい!」



動きが止まる。彼は君じゃないのに……違うのにその悲痛な叫びは二年前、君が独りで堪え続けた恐怖の叫びに聞こえてあたしは、ナイフを投げることが出来なかった。







ダッテキミヲオモイダシテシマッタカラ……







「セラ!」



名前を呼ばないでよ!その声で呼ばないで!



あんたは君じゃないんだから……愛しいその声であたしの名前なんて呼ばないで!



「隙あり!臥龍撃!」



導師の声に気を取られ、奥歯を噛みしめ必死にフラッシュバックを堪えてると目の前にはトクナガに乗ったアニスの姿。しまった!……と思ったときにはもう遅い。



「きゃあぁぁーっ!」
「セラ!?」



避けることは出来ず、モロに攻撃を食らったあたしの体は宙に浮く。そして吹き飛ばされたあたしはタルタロスの外へ。





そこであたしの意識は途切れた……






組曲の始まり
(分かっていたのにあたしはまだ……忘れられない)

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