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act:06 It is gentle and advances





あたしが神託の盾騎士団に入団してもう一年以上の歳月が過ぎた。この間に色んな任務もこなし、神託の盾内であたしの地位もそれなりのものとなった。ただ必要以上に人とは関わらない。



あたしとシンクが組んだ任務があるときは必ずと言っていいほどアリエッタが一緒だ。それは六神将で唯一、事情を知らないあの子が一緒ならあたしとシンクが余計な喧嘩をしない……そう踏んだのだろう。実際、元々の性格の不一致以外の喧嘩はしない。



「君とヴァンの計画が始動するまであと半年を切ったよ」



それはこの腐りきった世界にどんな変化を見せるのだろう。君を失ったあたしにはこの世界の行く末なんて結構どうでもいい。だからこの話に反対しなかった……賛同もしてないけど。



君が望んだ世界。君は、あたしに自ら命を絶つなとは言ったけど、最終的には君が望んだ通りの世界になったならあたしも必然的に消える。君は……世界の終わりを自分の代わりに見届けろとでも言うの?



「こんな所にいたんだ」



彼の眠る墓前に立つあたしの後ろから声がした。その声の主はすぐ分かった。『彼』じゃないけど、この声はもうあたしには当たり前の声になってしまっている。けど……振り返らない。



「こんな所で何してんのか知んないけど、ヴァンが呼んでるよ」



探しに来る僕の身になってよね。とわざとらしく息を吐く、シンク。そんなの知ったこっちゃないと思いつつあることに気づいて後ろのシンクに振り返る。



「…シンク……誰に聞いたの?」
「は?何が」



一瞬、このまま流しそうになったけど浮かんだ疑問に眉を顰める。だってーー



「あたしが、ここにいるって……誰に聞いたの」
「誰って、ヴァンだよ。アンタはここにいるだろうから迎えに行けって」



あの髭!どうしてシンクにこの場所を教えたのよ!……っ、わざと教えたの?信じらんない……どこまで卑怯な奴なの。そんなにシンクに憎悪の感情を募らせたい?別にあいつを庇うわけじゃないけどこんなやり方は納得できない。



「分かった、ありがと」



礼だけ述べ、シンクに背を向ける。



君の墓前に君のレプリカがいるよ。今、君はどんな気分?あたしは君の前だというのに怒りしかないよ。この道を選んだのはあたし自身なのに。


「ねぇ」



気配が残ったままだったからシンクがダアトに戻ってないのは分かってた。けど、早くこの場から立ち去って欲しくて半身だけ振り返り、何?と返事する。



「ここ何なの?懐かしい気もするけどあまり長居したくないとこだけど」



だったらさっさと消えればいいの……そう思う反面、やっぱりシンクは君のレプリカで同じ存在なのかと改めて認識してしまう。本来は死んでしまっている被験者とは引き合わないだろうけどシンクの中の何かが彼とシンクロしてるのかも。専門家じゃないからわからないけど。



「ちょっと、ね」
「意味分かんない」



言える訳ないでしょ?ここが君のオリジナルの墓なんて。あたしだって彼が死んでしばらくして教えられたこの地を。



「……強いて言うなら、思い出の場所」



全てが詰まった全てが終わった、思い出の場所。辛いのに、苦しいのに、あたしはそれでも君の望むものが見たい。同じものなんて見れないのは分かってる……でも望まずにいられない。


「……ふーん」
「ヴァンが呼んでるんだったよね」



眼前の墓石に一瞥してあたしは踵を返した。シンクは何か気付いたかもしれない。あたしがわざわざ来る場所なんて限られてる。横目でちらりと見て何も言わずにあたしの後ろを歩き出す。





さぁ、運命への扉は解き放たれた……










It is gentle and advances
(望まなくても時間は緩やかに進んでいく)

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あきゅろす。
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