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act:05 ある午後のひと時



シンクと手合わせした日からもう一週間。彼はあれ以来、あたしを避けているのか分からないが訓練もに何にも姿を見せない。余程の自信があったんだろうけど、実際はあたしのほうがあったと思う。幼き日から訓練を欠かさなかったのに、生まれて数ヶ月の子供と引き分けたのだから。



「認めざる得ないのかなぁ」



教会の裏で一人寝ころびながら午後の日差しを浴びているあたし。今日の訓練はサボリだ。ついでにヴァンに何か頼まれてたような気がしたけどまぁいいや。髭の言うことを聞くためだけに神託の盾に入ったわけではない。



「君は怒る?」



あたしが君のレプリカに負けたことを。それとも……



「笑う?」



やだな……君を思い出してしまった。君があたしの中から消えることはないけど死者を……いなくなってしまった君の幻まで見えてしまうほど思い出してしまうのは、それだけ悔しかったのかな?



「セラ」



誰かがあたしの名を呼びながら顔を覗き込む。午後の日のせいで顔がよく見えないが、揺れた髪の色が緋色だと分かるとそれが誰だかすぐ分かった。



「アッシュか」
「アッシュか……じゃねぇよ」



何?と微笑んで見上げるとアッシュは相変わらずの小難しい表情をしていた。



「何やってるんだ、てめぇは?訓練は?」
「そう言うアッシュこそ」



サボってるんじゃん。そう手をヒラヒラさせて返せば俺は任務帰りだ、と怒られた。全く、すぐに怒るんだから。導火線が短いにもほどがある。



「なーんか、訓練とかする気になれなくてね」



雲一つない空に視線を移す。どうもあの日から何をしても身が入らないというか気が乗らないと言うか。はぁ……もう二年も経つっていうのに、分かってるはずなんだけど意外とあたしの心の中はデリケートだったみたいだ。



「ちっ」



何舌打ちくれてんのよ!って怒鳴ってやろうとしたら、アッシュは寝転ぶあたしの隣に腰を下ろす。



「何してんの?報告に行かなくていいの?」
「んなもん部下に行かせた。誰が好き好んでモースの野郎んとこにいかなくちゃなんねぇんだ」



あ、それには同意。あんな醜いおっさんなんて見たくない。あいつからの任務って面倒事が多いんだもん。しかもシンクとじゃやりづらいというか、まぁ互いがいがみ合ってるからなんだろうけど。



「アイツとは上手くいってないのか?」



不意にそう言ったアッシュのほうに視線を向ければアッシュは前を向いている。特に表情も見えないけどどうやら彼なりに心配してくれてるらしい。



「……扱いづらい」
「ふっ…確かにな」



アッシュも分かってるからそう聞いてきたんだろうけど、あたしが溜息吐いて面倒そうに言うと鼻でも笑いながらも同意する。イオンと比べて扱いづらいと言うのも変だけどね。イオンはイオンで面倒な性格だったし……二重人格というか。あたしにはそんな素振りは殆どなかったけど、アッシュは結構被害を受けてたなぁ。



「嫌なところはそっくりだよ」



わざとらしい溜息を吐けばアッシュは「全くだ」と同じ様に溜息を吐く。シンクは人と関わりを持とうとしない。誰にも素直な態度は見せない。それは自分の生い立ちを憎んでいるからなのか。それはイオンにも言えたことなのかもしれないけど……導師になって自分の預言を詠んで自らの死を知った。どちらが不幸なんて比べられない。



「お前……神託の盾をやめた方がいいんじゃねぇか」



沈黙が続いた後のアッシュの言葉。あたしは驚くこともなく、アッシュを見る。アッシュはあたしがダアトに残ることをあまりよく思ってないのは知ってる。あたしがまだイオンに依存しているから。でも……



「あたしは決めた。イオンの思いの行く末を見るって」
「それがどんなに修羅への道でもか?」



よっ、と立ち上がり燦々と照りつける太陽に手を伸ばす。イオンはあたしの太陽……けして掴むことの出来ない太陽なんだ。



「ありがとね、心配してくれて」
「そ、そんなつもりはねぇ!」



照れたアッシュはそのままこの場からいなくなってしまい、ここにはあたし一人になってしまった。でも気分は少しスッキリした。







ある午後のひと時
(本当にありがとう……これでまた、前に進める)

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あきゅろす。
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