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act:03 詠われるような運命



何も知らないまま去ってしまえばよかった。そうすれば……こんな思いをすることはなかった。







「初めまして、導師イオンです」



あたしの目の前に立つ少年はそう名乗った。一瞬、目眩を覚えてしまう。『イオン』と名乗った少年は、どこからどう見てもあたしの知っているイオンと同じ外見をしていた。



「導師、初めてではありません。彼女が……セラです」
「ーーっ!彼女が……」



きっと訝しげな表情をしているあたしに手を差し出す導師。ヴァンはそんな彼の顔を上から覗き込み首を振る。あたしの名前を聞いた彼は目を見張る。と言うことは、あたしの事は聞いているんだ。誕生したばかりのレプリカは赤ん坊のようだと聞いたことがあるが彼は言動も何もしっかりとしている。導師イオンとしての落ち着きもだ。ヴァンやモースがそう教育したのだろう。



「そうでしたか……すみません」



目を伏せ、申し訳なさそうに頭を下げる導師。



「セラ……半年経ったが答えはどうだ?」



一年待つとか言っておきながら答えの催促。目の前の導師は何のことだヴァンを見上げる。彼は導師イオンだけどあたしの知ってるイオンじゃない。だけど……



「いいよ。神託の盾に入るよ。でもそれはあんたに賛同したからじゃない……イオンの遺書には言うなとは書いてあったけど手伝うなとは書いてなかった。あたしはイオンの思いの行く末を見届けたいだけ」



ヴァンを睨み付けてあたしは部屋を出るために踵を返した。勝手知ったるイオンの部屋だけどもうあたしの知ってるイオンの部屋じゃない。だからこの思い出深いこの部屋に長々といたくない。



「導師。私も別用があるので失礼します……セラ、付いてくるといい」
「分かりました。セラ……これからはよろしくお願いします」



部屋を出ようとするあたしにヴァンが声を掛ける。振り返ると導師と目が合い、彼は柔らかく微笑む。「よろしく」と言う彼に軽く会釈をしてヴァンと共に部屋を出る。









「今度はどこにいくの」「ここだ」



導師の部屋から出て、神託の盾本部へと来た。確か前に一度来たことがある。記憶が確かならここは神託の盾でも上位の階級の者が住む宿舎の階だ。ヴァンは一つの部屋の前に立ちノックもせずに扉を開ける。そこでは更なる衝撃があたしを待ち受けていた。



「な、あっ……そんな……」
「名はシンク……『導師イオン』の6番目のレプリカだ」



部屋の中央で一人立っていたのは紛れもなく、さっき見た導師と同じ顔。6番目のレプリカって……"何人"いるの?イオンがレプリカを作らせたのは知ってたけど、二人もいるの?



「全部で七体。あの導師のレプリカは7番目だ。一番、被験者に近かったので、あやつを導師にした……そして、シンクは」



何もかもを憎んでいる目をしているイオンのレプリカ……シンクから目を離せないでいるあたしにヴァンはさらに続けた。



「7番目以外はザレッホ火山に廃棄したのだが、生き残ってな。ならばその能力を生かして新たな六神将にする」



信じられない……でもこれがイオンが望んだことなんだ。七体も作って、導師となった彼以外は火山に廃棄、生き残ったから六神将。腐ってる、こいつは腐ってる。分かってるけど……あたしにとって全てだった君が望んだこと。



「あたしは、どうすればいいの」
「察しがよくて助かるな」



シンクからヴァンに視線を移動させる。奴はニヤリと口角を上げて笑う。全てはこいつの思う壺なんだろう。それが分かってるだけまだ救いがあるかな。



「お前にはシンクの下についてもらう」
「ふーん…いいよ」



ヴァンがあたしを利用するというのなら、あたしもあんたを利用させてもらう。半年間……殆どと言っていいほど自室から出なかった。そんな中、まさかこんな事になってるとは思わなかったけどそれでも……あたしは今を進むしかない。



「あたしはセラ。聞いてると思うけど今日からよろしく」
「……僕はよろしくする気はないよ」



よろしくと言っておきながらあたしは握手は求めない。するとシンクはふんと鼻を鳴らしてそう言った。導師は外見とか雰囲気はイオンに似てるけど……いや、イオンは作ってるか。外面は。まぁともかく二人とは全く中身は違う。生意気というか取っ付きにくいというか。



ともかくあたしと導師、シンクの出会いはある意味最悪なものだった。
ND2015、ローレライデーカン。あたしは神託の盾騎士団に入団した。







詠われるような運命
(知っていた……けどその存在は残酷だよ)

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あきゅろす。
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