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act:02 消えても心に残る君





君は消えてしまった。
あたしに別れを言わせてくれないまま。あのティータイムからたった数日で君は空へと旅立ってしまった。しかも君の死は秘密裏だったためこの事を知っているのは極僅か。ヴァンやモースはともかく、アリエッタを除く六神将とあたし。あたしにはヴァンが伝えに来たけどその時にはもう君の姿は何処にもない。あたしは君の眠った顔を見ないまま。ダアトの近くにある森の中にヴァンが作ったその場所に眠る君に会っただけ。ただ、石の置かれたその場所が君の眠る地だと。



「あたし……どうしたらいい?」



返事がないのは分かっている。君しかいないのにあたしにはイオンしかいないのに、君は一人で旅立ってしまった。心に虚無感だけが残り、生きる糧を失ってしまった。あたしにとってイオンは全てだった。両親を失ったあたしにとって君が全てだった。



「セラ」



イオンの墓の前で佇むあたしに声を掛けたのはヴァン。振り返れば、彼は一瞬ピクッと眉を動かしたがすぐに小さく息を吐きあたしに一通の手紙を差し出した。



「なに、これ」



なにも言わないヴァン。要は見れば分かると言うことなのだろう。一体何なんだと思いながらもその手紙を受け取り封を開く。中の便せんに書かれている内容に愕然とした。



「…い、おん……」



それはイオンからの手紙だった。もっと細かく言えば遺言書。その手紙には自分の死の預言には12才で死ぬことが詠まれていたこと。生前、あたしにはけして教えてくれなかったヴァンとの会合の内容のこと。ただそれを誰にも話してはいけないこと。そしてあたしとの日々はとても楽しくて幸せだったと。幼いながらもあたしのことが『好き』だったと。最後に………こう書かれていた。



「けして、自ら命を絶たないで……随分、残酷なことを書いてるね」



本当に残酷だ。生きる糧を失ったばかりのあたしに『死ぬな』と書いてあるんだから。自嘲じみた笑みしか浮かばない。数枚に渡るイオンからの遺書をあたしは封筒にしまい目の前に立つヴァンを睨みつけるように見る。



「お前はどうするのだ」



睨み付けるあたしに冷たい視線で返すヴァン。アイツのいう「どうする」とは……このイオンの遺書に書かれていた彼とヴァンの計画。そう聞いてくると言うことはあたしに手伝うのか手伝わないのかと言うことだろう。



「……あんたがけしかけたの?」
「けしかけたとは侵害だな。導師が望んだことだ」



イオンの望み……確かに遺書には書かれていたよ。『預言に縛られたこの世界が憎い』と。でも……あたしは……



「お前は大事な導師を奪った預言が憎くないのか?」
「イオンの命を奪ったのは病気で預言じゃない!」



そうだ預言じゃない。でも……言いたい事は分かる。命を奪ったのは預言じゃない。でもイオンを『導師』と詠んであたしの前から連れ去ったのは預言だ。



「一年待ってやろう。お前がその気になったのなら神託の盾騎士団に入団するといい。それまで今まで通り、ダアトで生活してるといい」



そう言ってヴァンは去っていった。あたしはもう一度イオンの墓を見下ろす。



「……あたしは、どうしたらいい?君は……どうして欲しい?」



もう一度問うあたしの呟きは僅かに吹いた風にかき消された。








消えてもに残る君
(君は消えてもあたしの全て)

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あきゅろす。
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