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act:19 望むは、どの未来か






「セラ!?」



モースのハゲよりあたしの方が先に目に入ったのか導師があたしの名を呼ぶ。何故ここにいるのかと目を丸くして。それはあたしも聞きたいところだ。戦場に着くなり今度はケセドニアに来いと呼ばれさっき着いたばかりなのだから。コイツといるくらいなら戦場にいた方がまだマシだというのに。



「アルマンダイン伯爵!これはどういうことです!」



驚きを隠せないでいる導師を余所にナタリアが前へと出てモースの隣にいるアルマンダインへと声を掛ける。ナタリアが生きていたことに驚くアルマンダイン。モースがわざと言わなかったからなんだけどね。二人で話してると今度は赤毛の青年が前へと出てきた。髪は短くなっていたけどあれはルークだ。



「……あれ?」



髪が短くなっただけだよね。なのにどこか雰囲気が違う気がする。前の俺様感がないっていうか、どう説明していいかわからない。



「さあ、戦いをやめて、今すぐ国境を開けなさい!」
「待たれよ、ご一同。偽の姫に臣下の礼を取る必要はありませんぞ」


ナタリアの気迫に押され掛けていると、得意げな表情を浮かべたモースがアルマンダインより前へと進み出る。その内容を知っているあたしとしては少々複雑な感情に襲われる。内容云々ではなくモースがどれだけムカつく態度でそれを語るのかってのこと。



「でたらめを言うな!」



ルークが声を上げる。モースがナタリアを偽の王女だという事実を偉そうに語る。それが事実だという理由を淡々と語ればナタリアの顔は段々と青ざめていく。ニヤリと笑うモースはアルマンダインに戻るように促す。預言さえ成就されれば何でもいいのだ、この男は。



「大詠師モース……なんて恐ろしいことを……」
「ふん。まこと恐ろしいのはおまえの兄であろう。それより導師イオン。この期に及んで、まだ停戦を訴えるおつもりですか」



直属の部下であるティアからすればこれもまた信じたくない事実なのかもしれない。大事にされていた結果がこれだ。あのヴァンでもただ一人の妹には甘いようだ。



「いえ、私は一度ダアトへもどろうと思います」



導師の言葉に驚いたのはアニスたちだけじゃなかった。あたしも驚かされた。まさか帰ってくるなんて。ダアトから脱出したばかりだというのに何が目的で。アニスに何か告げると彼女は一度目を丸くして止まったと思ったら次に大声を上げた。



「ダアトへと参りましょう」
「御意のままに」



微笑む導師は国境を越えてこちらへとやってきた。あたしは二人の後ろをついていくだけ。



「セラ、少しいいですか?」



そのまま港へと向かい船へと乗る。モースはどっか行ったし、導師のことは外にいる兵士に任せて甲板にでもいようとドアノブに手を掛けると声を掛けられる。小さく息を吐き、ゆっくり振り返る。



「ダアトに戻ってから少し僕に付き合ってもらえませんか?」



何を考えてるやら。戦争を止めるためにダアトを脱出したってのに結局ダアトに戻るなんて。連れ戻されるならともかく、自ら帰るなんて。わからない、導師の考えていることがわからない。



「あたしに何をしろと?」
「それはダアトに戻ってからで」



それってここで誰かに聞かれたら困るような事って事?部屋の外には二人、見張りの兵士がいる。部屋の奥で小声で話していれば聞かれやしないだろうけど。



「モースにもしばらくはセラに僕の警護を頼みました」
「はあ!?あんたの警護はアニスや他の導師守護役がいるでしょ?」



わからない。何を考えてるのか全くわからない。特にアニスを彼らの元へと置いていった意味がわからない。何を企んでいる?



「……何をする気?」



あまり大声を上げては外の兵士が何事かと中に入ってくるかも知れない。その場合に不利になるのはあたしの方。相手は導師様だしね。



「あなたに迷惑は掛けません」
「十分迷惑よ」



何故あたしを巻き込む。一度助けたからって次も助けてやるとは限らないのに。なのに、どうして自信が溢れるような、でも落ち着かせるような微笑みを見せる。何が起きても見守り続ける。そうは決めたけどこのままだと見守るより巻き込まれるだけじゃない。



「あとはダアトに戻ってからで」



この笑みの前では何を言っても無駄だろう。変なところでイオンに似たところがあってイヤ。でも拒否できない自分の方がもっとイヤ。仕方ないと小さく息を吐いた。







望むは、どの未来か
(協力する訳じゃないよ)(セラは優しいですね)

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