act:18 変化の予兆
届いた報告。導師たち一行はグランコクマに辿り着いた。それは後から聞かされたけどシンクがあの日戻ってきたのはちょうどテオルの森からだったとか。前に彼らの仲間であるガイに仕掛けたカースロットを発動させてきたらしい。それも失敗に終わってるけど。確か、そのガイもヴァンに利用されてたよね。まあ、ヴァンにしてみれば向こうは元は主君とは言え誰も彼もが手駒に過ぎないんだろうけど。
「で、あたしは何をしろと?」
ようやく謹慎は解けた。で、早速というか何ていうかシンクに呼び出された。どの道、執務室には行く予定だったけど。でも、ちょっと気まずかったりもする。自分で言っておいてのことだから、あたしの方が顔を合わせづらい。余計なことを言った気もするし。
「これからキムラスカとマルクトで戦争が起きる。これにダアトも関与することが決まったよ」
導師詔勅を出せなかった時点で避けられないのはわかってたけど。かと言って彼が大人しくしているとは思えない。どう出る?
「あんたには戦場に出てもらうよ」
「戦場に?あたしが?」
関与するったってどうやって。あくまでキムラスカとマルクトが戦争を起こしてキムラスカが勝たなければならない。預言通りにするのであれば。ダアトは何に関与するっていうんだか。
「言わば見張りだよ。邪魔をする奴や躊躇する奴には制裁を加える役さ」
「……なんか含みのある言い方」
制裁って……まあ、預言通りに事を運ばせるのがモースの目的だし。ヴァンとしてもこれで多くの人が死ねば計画に一歩近づくわけだ。アイツのことだ、何もかも用意周到に動いてるんだろうし。
「邪魔って……まさか……」
「セントビナーに向かったという情報も入ってる」
崩落の開始したセントビナーへ。その後どうやらシェリダンに向かったとか。飛行実験中だった乗り物を乗ってまたセントビナー方面へ向かったと言う所までは報告はあったらしいけど、その後のことはわかっていない。あの連中のことだからただでは転ばないとは思うけど。戦争を止めたがってるんだ。放置しておくとは思えない。
「わかった。ヴァンはともかくモースの機嫌を伺っといた方が都合がいいし」
また謹慎とかいって身動きが出来なくなるのも厄介だし。何かしたくてもダアトから、というか教会から出られないのは痛い。イオンの墓でさえ誰にも見つからないように行ってたんだから。
「ああ、導師を見かけたらちゃんと連れてきてよね」
「わかってるわよ」
一々念を押すように言うんだから。あまりにも普通すぎて、余計な考えを持ったあたしが馬鹿だった。
「兵はもう出てるから早く追いかけてよね」
「……普通、先に言わない?」
兵士が上官を置いていくってありえないでしょ。
「知らないよ。僕だってさっき聞いたんだから」
「モースのハゲが…」
あたしを嫌ってるのはわかるけど……いや、あいつが好きなのは預言だった……にしても小舅みたいなやり方は気に入らない。のくせ文句だけは一丁前で。
「……なによ」
じぃーっ前からの視線に小さく睨みつける。ただ無言でこっちを見てるシンク。
「あんたってほんと馬鹿だよね」
「喧嘩売ってんの」
どこまでひねくれてるんだか。誰を敵と思ってるのは今に始まった事じゃないけど、それでも。まあ、あたしとシンクの関係はそういうのでしかないけどさ。
「あれだけの事があって何もなかったようにしてるからさ…」
人が気にしないようにしてたことをあっさりと。あれ以来しばらくはギクシャクしてたのは間違いない。ただ、泣いてスッキリして導師に面と向かってああ言えるようになったら何か軽くなった。まだシンクに言うつもりはないけど彼とも、もっと面と向かって付き合うべきだと考えた。世界を人を憎むならそれでもいい。でもシンクも一人の人間なんだ。
「あたしだって忘れた訳じゃないしなかったことには出来ない。かと言って距離を取るのはもっと無理」
それじゃああたしがここにいる意味がない。シンクに気を使わなきゃいけないままは正直しんどい。なら今まで通り喧嘩してる方が楽。あんま楽を選んじゃ前には進めないけど。
「決めたの」
シンクを見つめて言うあたしに何をと言わんばかりにじっと見つめ返す。
「どんな結果になっても前に進むって」
もしかしたらイオンやヴァンの思い通りにならないかもしれない。結局、導師たちは抗えないかもしれない。どっちになってもその結末を目にしてから全てを終わりにしたい。
「……やっぱり馬鹿だよ」
「いいよ、馬鹿でも」
変わった、と自分でもわかってる。元々とシンクと出会った頃より諦めが悪くなった。あの導師のせいなのかな。でも、あんがいそれも嫌じゃない。
「んじゃ、行ってくるね」
「セラ」
踵を返して部屋を出ようとすると名を呼ばれる。前に比べたら呼ばれる回数が増えた気がするけど、けど……その考えを振り払うように何?と足を止めて振り返る。
「……気を付けなよ」
あたしから背を向けボソッと呟くように発せられた言葉。それが彼からのものだとは信じがたくて思わず目を丸くしてしまった。よく見ればシンクの耳が赤い。それを見てあたしは小さく笑みを浮かべる。変わったのはあたしだけじゃないみたい、って。
「ありがと」
赴く地は戦場。最前線に行く訳じゃないとはいえ今まで以上に危険なのは変わりない。その安否を心配してくれたというだけで何だか嬉しくなる。そういう感情も久しぶりだ。
変化の予兆(君とあたしは少しだけ……)
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