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act:17 斜陽に求む






導師を説得できずに逃げられた罰って事で謹慎が命じられた。ダアトから出ることは許されず、ひたすら毎日書類との格闘している。あとは部下たちとの訓練くらいしかすることはない。シンクもあれから顔を合わせてない。任務で外に出てるんだけど、それでも互いに避けるように顔を見ることはない。



「……自分がムカつく」



日も暮れ始めたんだから部屋で大人しくしてればいいのになんでイオンの所に来たんだろう。後ろめたいわけでも何でもないのに。あたしが会いたくなっただけなのかな。キミに……慰めてもらいたいのかな。そんな資格はないのに、キミはあたしに何を望むの。



「またここにいたの」



ただ置かれた石を見下ろしていれば今、聞きたくない声。なんで聞きたくないと思ったんだろう。訳もわからず小さく息を吐き振り返る。あの日以来、久々にその声を聞いた。何も言わず、ただ無言で振り返れば仮面を付けた緑の髪の少年。ああ、そうだった。仮面を付けていない姿を見てばかりだったから普段はこうだということをすっかり忘れていた。あたしの前で仮面を付けないのはたぶん当てつけ。何だかんだと依存し続けているあたしへと。久々に任務から戻ったんだ。そんな感情しか浮かばない。



「ねぇ、なんでいつもここにいるの」



前にもここにいてシンクが来た。あの時はヴァンに言われてきたというのに今回は……誰に?



「その石、何?あんたの思い出に関係あるの」



次から次へと質問してくるシンク。いつかは問われるとは思ってはいた。けどその日は来なければいいとも思ってた。存外、思い通りにいかない。気持ちが冷めるかのように心が頭が考えることを止める。



「知りたい?」



満面の笑みを浮かべているつもり。つもり、なんだ。仮面を付けているからどんな表情をしているのかわからない。でも驚いてはいるんだろうな。小さく口を開けてるし。






「イオンの墓だよ」







感情も欠片もない。自分でもわかるくらい、感情なんて籠もってなかった。楽しいわけもない。面白くもない。シンクに怒る意味もない。悲しむ意味もない。だからなのか、な。あたし自身訳がわからない。



「被験者イオンの誰も知らない墓だよ」



いや、少なくともヴァンは知っている。リグレットとラルゴも知ってるかもしれない。これを聞いて彼は何を思うのだろう。心が砕けるのは、あたし?シンク?それとも……他の誰か?



「……アンタ」
「墓、なのに……石しかないんだよ」



笑っちゃうよね。墓標なんて何もない。ただ亡骸を埋めてその上に大きな石を置いただけ。それを墓というのかよくわからない。



「シンクの望む通り、あたしが壊れるのもそう遠くはないかもよ?」



すでに壊れてるのかもしれない。笑ってる時点で、あたしはもう壊れてる。前ほど感情が上手く表に出てない気もする。大泣きしたあの日に全て流したのか。



「セラ」
「導師に言ってやった。戦争をあたしたちを止めたいならやってみろ、って」



逃がしたことは否定しない。説得を失敗したというかしなかったというか。正論は述べてやったけど、止める気などさらさらなかったのかも。今になって思うこと。



「セラ」



最初は無視したけど再度呼ばれて、何?と返事する。もう日も暮れる。シンクの緑の髪に夕日の橙が混ざってすごく綺麗だった。



「……何よ、呼んでおいて」



人の名前を呼んどいて何も言わない。嫌みの一つでも言われると思ってたのに。仮面の下の表情はわからなくて、わからなくて……逆に苦しい。何か言ってくれた方が楽なのに。



「アンタ……馬鹿だよ。ほんと、馬鹿だね」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんだから」



思い切り突き放す言い方してくれたほうが、と思うのは私が楽になりたいから。ううん、そうじゃない。イオンの望んだ未来を見届けたい気持ちに嘘はない。でも、レプリカである導師の変えようとしているものも見てみたい。君たちはどんな未来を組み立てるのか。そして、もう一人のレプリカであるシンクは、本当は何を望んでるのか。



「……ダメだね、あたしは」



心も嘘は吐けない。あたし自身に吐いた溜息を自分に吐かれたと思ったのかシンクの口元がムッとへの字になる。



「こんなにも憎いのに、嫌いになれないのは……何でだろうね?」



どんな顔をあたしはしてる?レプリカだから?一度はそう思ってしまったから?シンクは何も言わずにここを後にした。その背中を見えなくなるまで見続けるあたし。





斜陽に求む
(誰か、教えて)

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あきゅろす。
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