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act:16 君を手放す






モースの命令であたしはある部屋を目指していた。歩き慣れたこの建物内を迷うことなくそこに足が動く。時折、すれ違う者があたしの顔を見て驚くのはさっき泣いたためか目が腫れてるのだろう。けどそんなのお構いなしにあたしは先を急ぐ。



「ここ、か」



兵士に教えられてきた部屋に来るまで、途中は通行止めとかされていたけど通せと言えば通す。一応、理由を聞けば万が一、導師を誘拐しようとする者がいないとは限らないからモース命令で厳重に警備していると。ともかくノックをして返答を待たずに中へと入る。



「ーーっ!?あたなは…」
「……セラ!!」



中にいたのは導師だけじゃなく、キムラスカの王女までいた。細かい経緯を聞いてなかったけどどういうことだか。どうせならちゃんと言っとけてのよ。



「ほんとに生きてたんだ」



気の利いた言葉なんて出てこない。けど前ほど悪態もつけない。説得と言われても何を言えばいいのか。



「お願いです!わたくしたちを解放して下さい!」
「僕からもお願いします」



あたしが何しに来たのかを問うこともなく彼らが真っ先に口を開いたのはここから出せと言うこと。あたしが外に出すとでも思ってるのか、何て甘ちゃんなんだと溜息だけが出る。



「残念だけどあたしはあなたたちを解放しに来た訳じゃない」



何を期待していたのかわからないけど、そう返せば導師は悲しそうにやはりと言った表情を浮かべた。



「どうしてです!このままでは戦争が始まってしまいますわ!止めなくては……せっかくの条約が無駄になってしまいますわ!」



ここで引き下がらない王女ナタリア。彼女がここに来たのはそのためか。導師なら詔勅を出して戦争を止めることができるから。



「残念だけどモースもヴァンもそれは望んでない」



一生懸命に力説する彼女には悪いけど、今はそれを止めるわけにはいかない。人が死ぬのは喜ばしくはないし、気持ちもよくない。でも、ここまできたらあたしも引き下がれない。



「いい加減に戻ってきたらどうです。『導師イオン』様」
「……セラ」



もう十分でしょう?外の世界を満喫するのは。わざとらしく説教するように非難すれば何も言い返してこない導師。



「いくら幼なじみとは言え、自身の主君になんたる態度!」
「お姫様は黙ってて。けど、戦争をちゃんと終わらせたいのならまずダアトに止まりその職務を全うするのが筋じゃないの?」



人目をはばかるように逃げ出し、そのまま崩落に巻き込まれる。大人しくしていれば危害を加えるつもりなどない。何であれ、彼は『導師』なのだから。ずっと留守にしていて戦争が始まりました。止めます。また条約の交わし直しに行きます。そんな理屈など通らない。キツい言い方かもしれないけど一気にそう言えばナタリアも黙る。



「導師なら預言を遵守して下さい。預言を無視して更に悪い方へと向かったらどうするつもりですか?」
「だからと言って多くの人が争い命を落とすことが最良だとは僕は思えません」



大人しく人の意見を聞くようなら最初から脱走などしないか。そう言うところはシンクだけが似たかと思ったけど、やっぱり彼もイオンのレプリカなんだ。嫌なところばかり似てくる。


「なら……やってみなさいよ」
「セラ?」



どうせ言っても聞きはしない。真っ直ぐな分、イオンやシンクより質が悪いかもしれない。それも仕方ないのか。



「あたしたちが間違っているというのなら、それを証明しなさい」



実際、ヴァンは連れ出すつもりでいたはず。なら彼らの仲間に外へと連れ出させた方が好都合だし言い訳も立つ。



「セラいいのですか?」
「勘違いはしないで。あたしは何もしない。"勝手に出ていけばいい"よ」



あたしが外に出したら直ぐにバレるに決まってる。そうするとあたしの動きが制限される恐れもあるし。



「今、"教会"は"厳重"に警備されてるから"助け出してもらう"のは困難かもね」



手をひらひらと振ってあたしはこの部屋から出た。ヒントはあげた。これには彼女も関与してるから助け出しには来るだろう。あたしは何もしないけど大人しく待っていれば……その意味が理解できるかは彼ら次第。



成り行き任せで行くしかないこの世界であたしはもう少し、決意を新たにしなければならないようだ。




を手放す
(一歩前へと進むために)

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あきゅろす。
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