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act:13 吹く風は何処に行くのか







先日、アクゼリュスは崩落した。
戻ってきたヴァンの話によるとアッシュのレプリカであるルークだけでなく一緒にいた連中も落ちた。そう……導師も崩落に巻き込まれたと。



「ざまあみろ」



小さく笑みを浮かべ、小さな声でそう言ったのはシンク。ザオ遺跡の一件からしばらくは機嫌が悪そうだったから放っておいたら、久々に聞いた声はその一言。
当のあたしはと言うと、何も感がなかった。未だ実感が湧かないからなのか興味がないのかわからない。でもアッシュが、



「すまない」



あたしから顔を背けたまま謝罪の言葉を口にしたらドッと何かが湧き出てきて崩れ落ちそうになって、それは嫌でアッシュにしがみつくように抱き付いた。突然のことに驚いたみたいだけど、あたしの頭をぽんぽんと宥めるようにリズム良く叩く。悲しいのか苦しいのかわからない。涙もでないから…余計にわからないんだ。



「……導師は、あんたのレプリカは崩落に巻き込まれたって」



どうする?困る?自分のレプリカなんてどうでもいい?君は何て言うだろう。シンクみたいにざまあみろって言う?



「……セラ」



イオンの墓標の前でどれくらい立ち尽くしていただろう。高かった日も暮れかかってきていたオレンジの光が木々の間から差し込んでいた。そんなあたしの背に声を掛けたのはあまり聞きたくない奴の声。



「何の用?」



レプリカイオンを崩落へと巻き込んだ張本人のヴァンだ。振り返れば何がそんなに嬉しいのか笑みを浮かべている。



「いや……ただ」
「ただ?」



笑みは浮かべたまま目は伏せる。コイツの何でもわかってますって態度はキライ。誰であろうとバカにした態度。違う、それにすら値しないから全てが余裕なんだ。哀れな『ルーク』。こんな奴に使い捨てされて。



「導師イオンは生きている」
「はぁ?崩落したってアンタが言ったんじゃない」



思わせぶりな態度。導師はアクゼリュスもろとも崩落したと言ったのはヴァンだ。なのに生きてるって。



「ティアの譜歌だ」



ユリアの譜歌を歌えば無事に魔界に降り立つ。とヴァンは言う。二人がユリアの子孫だとは知ってるけど……そう言えば昔イオンが言っていた。ユリアの譜歌は特別だと。



「……嬉しいか?」
「なっ!……っ!!…別に…」



それに即答できなかった自分が悔しい。嬉しくないと言えば嘘になる。たとえレプリカと言えどもイオンだ。あの導師は性格なんて特にイオンとは違うけど、姿がどのレプリカよりも一緒で違うとわかっていても錯覚に陥りそうになることもある。生きている、と聞いた瞬間に安堵する自分がいたのも事実。



「あたしは、別にあの導師に死んで欲しい訳じゃない。イオンじゃないけど、レプリカだけど……あれは…」



駒…とも言えなかった。情でも湧いてきたか。イオンとヴァンの目的のために作られた七体のイオンレプリカの一体だ。長くいすぎたのか?いや、それはどっちかと言えばシンクの方なのに。



「お前は甘い。優しさは時に武器になるが徒となることもある」



優しさ……あたしが優しい。どこがだろうかと問いただしたい気もするけどそれは無駄になるだろうから止めておこう。イオン並に何を考えているかわからない。



「生きてるとわかった以上、まだ利用する気なんでしょ」
「まだ奴にはやってもらうことがあるからな」



セフィロトに通じる扉は開ききっていていない。開けさせなければならない。まぁ、ヴァンなら今開いているセフィロトだけでこの計画を遂行できなくもないだろうけど。



「生きてる意味……か。ならあたしは今まで通り手を貸すだけ」
「いいのか?」



そんな質問は愚問だ。あたしを生かしているのは良くも悪くもイオンだ。彼の遺言の通りに生きてるようなもの。己で命を絶つことは絶対にしない。殺されるなら……ううん、あたしを殺すとしたらできるのはきっと彼だけだ。



「あたしが『生きて』これたのはイオンのおかげ。死んだイオンの代わりに全てを見守る……あたしのエゴだ」



これは全てあたしのワガママ。見守ることをしなくてもイオンは責めない。でもあたしは決めた。ワガママ、と言うよりは自己満足なのかも。





吹く風は何処に行くのか
(あたしは流されるまま)

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あきゅろす。
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