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act:12 Do not call my name





「……セラ」



彼があたしの顔を悲しげな瞳で見る。憐れみ?悲しみ?あんたがあたしをどう思おうとあたしには関係ない。あんたはイオンじゃない。イオンの姿形をしたもの……まだそう思わないと心が揺れそうで怖いのかもしれない。



「この扉を開け」



ザオ遺跡の中を進み一番奥にある扉の前。ダアト式封咒で封じられた扉を開けるように導師へと促す。



「ですが、ここを開いて何になると言うのです?この先には何も……」
「アンタは言われたことをすればいい」



無事に帰りたいならね。とシンクが少々怒気の籠もった声で言えば、導師は渋々と扉に手を翳す。



「六神将……!」



あたしたちの来た道から来たのはルークたち一行。ザオ遺跡に向かう途中で姿は見たけどよくここがわかったものだ。こちらが導師を返す気がないと態度を示せばなら力ずくだと武器を手に取る。



「こいつは面白い。タルタロスでのへっぴり腰からどう成長したか、見せてもらおうか」
「はん……ジェイドに負けて死にかけた奴が、でかい口叩くな」



命知らずかただのバカか……そんなのどっちでもいい。



「セラっ!あなたも……戦うのですか?」
「当然でしょ」



敵が目の前に現れたのなら戦う。あたしはその力を持っているのだから。



「イオンの邪魔をする奴は誰であろうと許さない」



それがレプリカでも。ゆっくりと連中がいるところまで足を進める。後ろで導師があたしの名前を呼んでるけど気にしない。飛び出しそうとしているのをアッシュが押さえてくれてるはずだし。



「六神将烈風のシンク……本気で行くよ」
「同じく黒獅子ラルゴ。いざ、尋常に勝負!」
「……碧光のセラ……死にたい奴から前に出なさい」



先手必勝と言わんばかりに腰のベルトからナイフを取り出し連中へと投げつける。奴らが分散すると同時にシンクとラルゴか別れて立ちはだかるように構える。あたしの相手はアニスとお姫様…ナタリアったけ。



「セラっ!イオン様を返して!」
「導師の幼なじみでありながら何たる不逞!」
「バカじゃないの」



何も知らない連中に語る言葉はない。アッシュですら知らない真実をあたしは知っている。あんたらも所詮はヴァンの駒の一つにしかすぎないってのに。



「はっ!」



多対一の戦いに勝ち目があるのか。そんなものすらどうでもいいとか思うのはおかしいか。アニスに負けるほど腕に覚えがないわけじゃないし、お城で育ったお姫様に地を舐めさせられるほど軟弱でもない。



「荒れ狂う流れよ!スプラッシュ!」
「きゃあ!」



攻防戦はただの体力の消耗戦。早々と倒さなければならない。というより『ルーク』をアクゼリュスに向かわせなければならない。それがイオンとヴァンの計画の第一段階。



「やらせませんわ!」



少しの間、動けないようにともう一打加えようとしたところにナタリアの矢があたしの頬を掠める。ちっ、と舌打ちをしナイフで反撃をする。狙いを定めなくてもそこに投げることくらいは出来る。



「こんのっ!」
「ーーっ!?」



複数の人間を相手したことがないわけじゃない。けど思ったよりアニスらの腕は上がっていて、どうやらシンクたちも苦戦しているようだ。二人とも膝を着いていて残るはあたし一人のみ。



「…こんな、所で」



死ねるわけがない。死ねるわけがないんだ。



「トドメだっ!!」



ルークがあたしに剣を下ろそうとした。死にたくはない、でもこれまでかと諦めかけたとき。がきぃーっと金属音がした。顔を上げればアッシュがあたしの前に立っていてルークの剣を受け止めていた。



「アッ、シュ…」
「三人がかりで何やってんだ!」



剣を受け止められたルークは後方へいったん引き、再び突っ込んでくる。アッシュも討ち迎えるために剣を構え直す。



「「双牙斬っ!」」



同じタイミングで、まるで鏡合わせのように技を繰り出す二人。唖然とするルークと無表情のアッシュ。驚くルークにアッシュが怒り任せからか真実を口にしようとしたところを回復したのかシンクがアッシュの肩を掴んで止める。その言葉に舌打ちをした彼はルークらから背を向ける。



「取引だ。こちらは導師を引き渡す」



だからおまえとの戦いを打ち切る。ガイがあたしらを倒せばそんな取引は成り立たないと戦闘を続ける様子を見せる。



「ここは砂漠の下だよ。生き埋めになりたいの?出来るんだよ」
「むろんこちらも巻き添えとなるが、我々はそれで問題ない」



あたしらがどうする?と問えばこそこそと何か話す奴ら。渋々とながらルークが頷く。導師に視線であちらへと行くように促せば彼はルークらの方へと歩き出す。



「セラ、僕は……」
「早く行って。振り返らないで」



彼には視線を向けぬまま早口で言うと導師はすみませんとだけ呟いてルークらの元へと戻っていった。
それでいい。今は、そうでなくて困る。




Do not call my name
(その声で呼ばないで)

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あきゅろす。
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