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act:10 想いは何処に行くのか





ああ、最悪だ。何がどうしてこんな事になったのか……あたしの心が弱いから?いつまでも君を思い続けているから?それでもあたしの中から君という存在は消せないんだ。





「……んっ」
「セラ!?目が、覚めたですか?」



ふっと誰かに囁かれたような触れられたような感触に意識が浮上し重い瞼を持ち上げる。小さな声が耳に入りそちらへと顔を向ければあたしをいつもの泣きそうな顔で見ている桃色の髪をした少女、アリエッタだった。すぐには理解できなかったけど、見た感じからどうやらここはタルタロスらしく、自分がどうやって戻ってこれたのかまだ記憶が曖昧だ。



「…アリ、エッタ?」



ひどく声が低い……というよりは枯れているといった感じた。いつ戻ってきていつから眠っていたんだろう。起き上がろうと上半身に力を入れたけど、体中が痛くて起きあがることは出来ずもの数センチで断念した。



「まだ…寝てなきゃ……駄目、です」



そっとあたしの頭を撫でるアリエッタ。ここに戻ってきたあたしは表面上には大して傷はなかったけど、打撲や一部骨折もしていたとか。表面上に傷が見当たらないのはヴァンの妹……確か、ティアとか言ったか。彼女が手当をしてくれたからだろうけど。



「……ここは?」
「今は、セントビナー付近に……います」



やっぱりそうか。こちらはともかく、タルタロスから脱出した導師一行が向かうならこのセントビナーだろう。ローテルロー橋は壊されてケセドニアには向かえない。一度街に補給や休息に来るならエンゲーブに戻るより、セントビナーなはずだ……あそこなら軍隊も常駐しているし。



「……あたし……どうやって戻ってきた?」
「……夕べ…シンクが連れてきた、です。何も言わないから…詳しくは分からない、です…」



シンク……?そう言えば記憶の断片にシンクがいたような……んっ?それって意識を失う前だったような……いやいや待て。



「……あたし」



何した……何て事しちゃったんだ?一番やっちゃいけない事しなかった?断片的にある最後の記憶は誰かに笑いかけたこと。意識をシンクの前で失ったんなら……あたしは何をした。シンクをイオンに重ねた?そんなバカな……なんて言い切れない。



「アリエッタ。シンクはどこ?」
「えっ?自室に…だ、駄目です!セラ、安静に、してなきゃ!」



アリエッタの制止を聞かず礼だけ述べて部屋を出る。自室って聞いて飛び出したのはいいけどどの部屋か分からなくてその辺の兵士に場所を聞き出しその部屋へと向かう。ノックをしても返事はない。もう一度してもないから勝手に入ってやれって思いドアノブを回せばあっさり開いた。



「シンク?」



部屋の中を見回したけど誰もいない。でも人の気配はしないでもない。さっきまでいて今は誰もいないって事?



「アンタ、何やってんの?」
「へっ?わっ!何でそんなところに!?」



どうしたものかと部屋の中に入っていけば突然の後ろからの声。後ろを振り返れば肩にタオルをかけたシンクの姿。仮面は付けていない。体からはほんのり湯気が出ていて緑の髪からはポタポタと滴が垂れていた。



「アンタ、馬鹿?」
「何よいきなり!」



顔を呆れたように歪めて馬鹿と言う。人の顔を見るなり馬鹿って、もう少し人を労るってこと知らないのかな。



「馬鹿でしょ?今日一日くらい安静にしてろって言われなかったの?」


んん?そう言えば肩越しでアリエッタに言われたような……えっーと。思いついたまま飛び出してきたから何にも考えてなかったけど、言われてみればそうだったかも。目を覚ましてからのことを順に思い出していると急な浮遊間と肩や膝裏とか体に心地いい温もりを感じた。



「ちょっ!」
「アンタって本当に馬鹿だね。そんな格好で来るなんて」



今度は盛大な溜息が降ってきた。何をされたかと思えばシンクに抱き上げられていた。それに驚いたのと何がそんな格好なのか分からないでいればシンクは無言であたしの足下に視線を向けた。その先にはあたしの足。



「あっ」



本当に何も考えずに飛び出して来たんだ。スカートの下にはいつものスパッツも履いてないし、足もブーツを履かずに素足で来ちゃったんだ。そう言えばさっきシンクの部屋を訪ねた兵士もなんだか変だった……これか。



「今、アリエッタにでも持ってこさせるから」
「まっ!シンク、待って!」



あたしの制止も聞かずにシンクは仮面を付けて部屋から出ていってしまった。まるであたしに何も言わせないように。分かってた?あたしが何をしに来たのか?この言葉を口にしたら肯定しちゃうから……一瞬でもシンクをイオンとしてみたことを。でもね、最初はそう思ったけど…何か違う。たぶんあたしは……それを肯定したら今度こそイオンがあたしの中から消えてしまいそうで怖かった。
だから、これ以上は言えなかった。



「…ごめん」



たった一言……でもこれすらも言ってはいけなかった。あたしは迷ってる?何に?





想いは何処に行くのか
(それはあたしが知りたい)

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