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Gene:C
腕に包み抱く


「アシュリーだ!!」

聞き覚えのある声に振り返ると同時に何かが足に抱き付いて――否、突っ込んできた。軽い衝撃に態勢を崩しかけるが何とか踏みとどまる。毎度のことながら元気があっていいのだが、有りすぎるのも少々問題だった。
遅れてあたしより2、3歳年下の青年がやってくる。

「本当だね。アシュリー姉、お帰りなさい。」

「ただいま、二人とも。」

しっかと足に貼り付く幼い女の子を引き剥がすと、小さな体を抱き上げた。
腕に乗せると決して軽くはない重みが掛かりその成長振りが感じられる。そういえば最後にこの子をこうして抱き上げたのはいつだったか。ここに至ってようやく最近は立て続けに任務が入りなかなかゆっくりできていないことに気が付いた。

「ほら、キアヌ。アシュリー姉は疲れてるんだから降りなさい。」

「大丈夫だよ。そんなに疲れてないから」

「そうですか?じゃあ、僕もお願いしようかな」

爽やかな笑みが凶悪な笑みに見え一瞬言葉に詰まるが、すぐに冗談ですよと笑われる。
…こんな悪い冗談を言うやつだったか?
ともかく。胸にしがみつくキアヌを抱いたまま、買い物の続きに付き合う。とはいえ大方の買い物は済んでいたらしくあとは細々としたものだけだった。
あたしが両手でキアヌを抱いているならば、彼の両手には茶色の買い物袋が2つ抱えられている。持ちにくいのかバランスが悪いのか、時折立ち止まっては抱え直していた。

「ユーグ、持とうか?」

「いえ。……いつまでも子ども扱いしないでください」

少しふて腐れたような表情になるが、また抱え直してすぐに歩き出す。追い抜かしていったユーグの背を見て、それからキアヌと顔を見合わせ小さく笑いあった。
難しい年頃、らしい。
しかしいつまでも笑ってるわけにもいかず、また石畳の道を歩き出す。
一通りの買い物が済むと流石にユーグも一人では持ちきれず、今はキアヌの代わりに(それでも彼のよりはやや小さめの)買い物袋が腕の中にあった。

「ん?」

「アシュリー?どうかした?」

間の抜けた声を出してしまったあたしを小さなキアヌが不思議に思ったのか立ち止まって振り返る。後ろでのやり取りにこそ気付かなかったものの、前方を歩いていたユーグも踵を返してきた。
一瞬、名前を呼ばれたような気がしたが、夕暮れ前であたしの背後は買い物を楽しむ人でごった返している。似た名前がいたり聞き間違い…ではなかった。さらに数回名を呼ばれる。今度は確かに聞こえた。しかも段々と近付いてくるあの声に聞き覚えがありすぎてげんなりとすらする。
あえて振り向かないのはあたしのせめてもの抵抗だ。

「あーっ!!フリッツだ!」

もちろん、あたしの方を向いていた2人は声を掛けてきた『奴』の顔を確認することが出来るわけで。
真っ先に元気盛りのキアヌがあたしの時同様に飛び付く。そのまま転けてしまえばいいのに、と思ったのは奴には秘密だが、しっかりユーグにはバレていた。押し殺した笑みで肩を叩かれとうとう観念する。

「説教終わったの?」

「逃げてきたに決まってんだろ。――じゃねぇよ!」

「フリッツ、すごぉい!」

勢いよく突っ込んだリッツの言を遮ってきらきらと目を輝かせるキアヌ。すぐさまあたしとユーグが憧れの眼差しを止めさせる。
こんなのに憧れちゃいけませんっ。

「あったり前だろっこのフリッツ様を舐めてかかったのが間違いだぜ!!」

「で、今回は何のお叱りだったんです?」

あたしと同じく呆れ顔のユーグ。この子――彼とは長い付き合いになるし、もう慣れたものだ。

「報告を丁寧にしろだってさ。
 ――――ちっがああう!!」

はい。お疲れ様。上手くリッツをノせた二人を誉めてやる。しかし、ここまで見事にノるのも珍しい。いや、あのリッツならノってもおかしくはないか。
無理やり自己完結させると、未だにじゃれあっているリッツの後頭部を思い切り叩き、影が細長く伸び始めた家路を今度は4人で歩き出した。

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あきゅろす。
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