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Gene:C
after a long absence


「ただいまー。レイさん、来たよ。」

集落中央に位置する広場その近くに立つ少し大きめの家。状況からして『依頼主』の家だが、ミシェルはまるで無遠慮に入っていく。あたしはファウノとラテルに挟まれる形で中に入った。ひとまず土埃除けに再度頭から被っていた外套を取る。

「今回、派遣されたレイだ。『はじめまして』がいいか?それとも――――」

正面に座る『依頼主』の首めがけて剣を抜き放った。斬ることは、できない。させてもらえなかった。
抜き身の剣は長の隣にいたミシェルの剣によって遮られている。その上、あたし自身の首にはファウノの剣、背中には何か――おそらくはラテルの得物――が押し当てられている。ファウノに至ってはもう少し動いていれば完全に切れていた。

「てめぇ!やっぱり…!!」

少年が吠え首に当てられた剣に力が込もる。他の二人は何も言わなかったが、視線と殺気が痛い。
それにしても、咄嗟の判断といい、動きといい、なかなか良い反応だ。

「――――それとも、『久し振り』がいいか?ティル。」

口の端を歪め、ゆっくりと剣を収める。同時に三人も一様に得物を引いた。否、ファウノだけは引いていない。よほど警戒されているらしい。裏を返せば、それだけティルの身を案じているということだ。

「あー…ファウノ、剣を引いてくれ。俺なら大丈夫だから。」

「だけど…!」

「ファウノ。」

なおも食い下がったが、咎めるような声にようやくヒンヤリとした触感がなくなる。首に手をやればわずかに血が滲んでいた。この程度なら放っておいても大事はないが。

「レイも冗談が過ぎるぞ。」

「そう言うな。それだけの実力があれば大概の暗殺者も撃退できるだろうさ。」

「自慢の三人だからな。ま、久し振り。」

そう笑った奴――ティルの言に少なくともファウノは驚く。他の二人は、知らされていたのか、特に気にしていないのか、さしたる反応はなかった。元々、あたしが派遣されたのも、彼と面識があったからというそれだけの理由だ。
勧められ全員が椅子に座ると、いよいよ本題に入る。

「物々しくなったが…何か、あったのか?」

「『領主』が来た。『城』を持って、な。」

『城』…そういえば、ここに来る前に別方向に大きな建物をみたがあれのことか。何にもない原野にポツリとあるのだから、否が応でも目立つ。あんなところに好き好んで建てるなぞ相当な変わり者だ。
今までにも、肥沃でこそないもののキメラの被害の少ないこの地域を支配下におこうとやってくる者はいた。その度にティル達集落の住人が追い払ってきたものの、今回はそうもいかないらしい。

「土地の正当な所有権と、『城』を持ち出してきたため、あたしを呼んだ。間違いない?」

「ああ。厄介事ならお手の物だろ。」

笑顔を崩すことなく、無茶を言ってくれる。言っておくけれど、厄介事はお手の物じゃない。どちらかと言えばいつもあたしは厄介事に巻き込まれる方で。むしろ、これからさらに悪化する気がする。
杞憂であってほしいが。

「どうかしたか?」

「いや…わかった。手伝おう。ただ、連絡してたあたしの調査の方も進めていいか?」

「おう。いいぞ。」

「悪いな。じゃあ、これ。」

鞄から一枚の紙切れを取り出す。いつの頃かゴタゴタを避けるために、調査の依頼受領後にこうした『契約書』を交わすのが取り決めになっていた。皆まで言わずともわかっているティルが慣れた手つきでサインしていく。

「あんたのいう『調査』って何なんだよ…?」

「『調査』に協力するのであれば、当事者となる私たちにもその内容を知る権利があるはずですよね。」

「そうそう。俺、レイさんの素性も詳しく聞きたいなぁ?」

効力を持った契約書を受け取り片付けたところで、訝しんだファウノ達三人が矢継ぎ早に疑問を口にした。素朴な、しかし鋭い質問だ。
ティルに救いの視線を送るが肩をすくめて躱される。あとで覚えてろ。
というか、ちょっと待て。

「まさか…お前、何も伝えてないのか?」

「おぉ。来訪を知ってるのは集落においては俺とこの三人だけだし、『レイって奴が調査しに来る』としか言ってないぞ!」

自慢するように断言した奴の適当さに、軽い頭痛を覚えたのはもはや何度目か。

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あきゅろす。
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