小説
嘘だと言って。(フラベル)
「ミー、他に好きな人が出来たんですー…。」
大好きな人に言われたのは、そんな残酷な言葉。
次に口にするであろう言葉は、聞かなくても分かった。
何よりも一番、聞きたくなかった言葉だから。
耳を塞ぎ、目をつむり、心を閉ざしてしまいたい。
聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない……。
けれど、エメラルドの瞳が俺をとらえて離さなかった。
「…ミー達、別れましょー?」
***
カエルがどうしてそんなことを言うのか、俺には分からなかった。
俺はこんなにもフランのことを愛していて、フランも俺のことを好きだと言ってくれて。
『ミーとずっと一緒にいてくれますかー?』
そう言ったのはお前なのに、どうして俺から離れていこうとする訳?
どうして、何で、俺じゃダメなの?
俺に悪いところがあるならいくらでも直すから。
だから、もう一度俺に笑いかけてよ。
戻って来いよ…
「フランッ…。」
滴が枕に落ち、小さなシミを作る。
「呼びましたー?」
扉の方から、聞き慣れたふわふわの声が流れた。
「…カエル。」
突然のことに驚き、俺は涙を隠すように目をこすり、振り向いた。
すると、大好きなエメラルドの瞳が俺を見つめていた。
「どうしてっ……」
「こんなことじゃないかと思いましたー。」
戸惑う俺に向かって、フランが溜息をついた。
「…嘘ですー?」
「は?…」
――何言ってんだ?コイツ。
「だから、ミーに他に好きな人がいるってゆーのは、嘘なんですー。」
ウ、ソ…?
「はいー。だから、別れるってゆうのも……」
ギュッ。
フランの言葉が言い終わらないうちに、俺は目の前のカエルに抱き着いた。
「…ホントなんだなっ。ホントのホントに嘘なんだよな。別れたりなんかしないんだなっ!?」
俺は息つぎなしでまくし立てた。
「はい、ホントのホントですー。」
フランが優しく俺の髪を撫でた。
温かな懐かしい感じが、戻ってくるようで。
――大好き。
「何か言いましたー…?」
「何もっ。」
***
「でも、どーして嘘なんかついたりしたんだよ。」
俺はフランに抱き着いたまま、ふて腐れたように呟いた。
「えーっと、それはですねー…センパイがどんな反応をするか、見てみたかったんですー。
まぁ、お陰でセンパイの可愛いトコ見れましたしー。」
フランは珍しくポーカーフェイスを崩し、にっこりと微笑んだ。
(…そんな顔されたら、怒るにも怒れないっつの。)
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