小説
酒とカエルと(フラベル)
P.M.12:30
「ベルセンパーイ。」
自室のベットで横になっていると、急に扉が無遠慮に開け放たれた。
こんな時間に王子の部屋に入って来るなんて、無礼にもほどがある。
そんなことをするのも、自分のことをベルセンパイと呼ぶのも、俺には一人しか思い浮かばなかった。
「何の用だよ。カエル?」
「ミーは、カエルじゃないですよー。
ちゃんとフランって名前があるんですからー。」
カエルの被り物が、俺の言葉を訂正した。
「あっそ。で、何しに……」
フランを見ずにそう言うと、そのカエルはずいっと俺の方に近づいて来た。
「…なっ!?」
いきなりのことに、不覚にも驚いてしまった。
「何でこっち見てくれないんですかー?」
「別に、意味なんかねぇけど?近いっ」
そこで俺は気づいた。
目の前のカエルの様子が、いつもと違うということに。
「……てか、酒臭くね?まさかお前、酒飲んだ?」
恐る恐る尋ねてみる。
「飲むわけないじゃないですかー…ただ、
アホのロン毛隊長に酒菓子もらっただけですー。」
「いや、明らかにそれのせいだろ。」
「そんなことないれすよー…」
「酔ってんじゃね?呂律回ってねぇし。」
「酔ってませんよー…とうとう耳までおかしくなりましたかー?堕王子。」
「なってねぇしっ!誰が堕王子だっ。」
俺はナイフを構え、カエルに投げようとした。
その時、ナイフを持ったままの両手を掴まれた。
「何すん……んっ!?」
俺の言葉を遮るように、唇に生暖かい何かが押し当てられた。
目の前にはフランの顔があった。
エメラルドの髪が、優しく頬を撫でる。
「…んんっ、はぁはぁ…んっ…。」
唇を塞がれ、息が思うように出来ない。
「んっ…。」
ゆっくりとフランの柔らかな唇が、俺のそれから離れた。
「てめぇ、ふざけん……」
赤くなった顔に気付かれないように、俺は顔を横に逸らした。
瞬間、ぽすりと何かが倒れる音がした。
俺は視線を下に向けた。
すると俺の胸の上で、フランがスースーと寝息をたてていた。
「…寝てるし。」
俺は呆れ果て、溜息が出た。
サラサラなエメラルドの髪に触れる。
その度、仄かなシャンプーの香りがした。
「…寝てると可愛いんだよなぁ。」
自然と思ったことが口から零れた。
「…ベ ル、セン…パイ。」
「…っ!?////」
俺は自分の頬が熱くなるのを感じた。
その夜はフランの匂いがベットに残って、なかなか眠れなかった。
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