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PSO2小話
「憂鬱と相棒(エコー視点)」
「貴方はどう思うの?」
問い掛けても振り返りもしない背中を見て、諦めたようにため息をついてその後を着いて行く。

砂漠探査に同行してもらった。依頼と言う名目で噂の新人を連れ出す。
初めて会ったときから気になっていた、その不思議な雰囲気を。
自分にも相棒と呼べる人が居る。彼にも相棒と公言する相手を持っている。

エコーは阿蒙へ一緒に戦うことをどう思うのか、聞いてみたいと思っていたのだ。

だが、実際にはそんな余裕もないままエリア内を走り回っていた。

「ちょっと、待って…はぁ〜」
「…遅い」
「貴方のペースに合わせてたら、アタシの体力が持たないわよ!。ましてこの暑さ、それに今日は特に砂嵐が酷いじゃな…い」
息を切らしながら後を着いて来るエコーを振り返る阿蒙は、一際強い砂嵐に吹かれ一瞬顔を顰める。
その表情に機嫌を損ねたかと感じたエコーは、言葉を詰まらせる。
そのまま再び歩き出す阿蒙の後姿を、見失わないように着いて行くしかなかった。

暫く歩き砂嵐の風域を抜けた岩陰、阿蒙は立ち止まるとエコーを待った。
「はぁ、はぁ…ぺっ、砂が口に入っちゃった」
風を避け日差しを遮る岩陰、やっと立ち止まった事でここで少し休憩。
そう決め込んで、エコーはその場に座り込んだ。砂塵で汚れた髪を梳けば肩にサラサラと落ち今度は肩の砂を払う。
そんなエコーの様子を阿蒙は黙って見ている。

同行を依頼した手前、途中で引き返すのは気が引ける。まして先輩としての自覚もある。
しかし実際には協力するどころか着いて行くのが精一杯。道中に出現した機甲種やダーカーを一人で排除して行った阿蒙の姿を見て、エコーは自分が何もできない非力さを痛感させられたのだった。

「…そろそろ戻るか」
「まだよ!、まだ偵察してないエリアがあるじゃない!。こんな中途半端で戻ったらゼノに笑われちゃうわ!」
「…そうか」
そう言って阿蒙がビジョンを表示させ、それをエコーに見せた。そこには既に調査済みのマークが点滅するマップが写る。
砂嵐で視界を遮られ、気付かぬ内にエリアを完走していたことにエコーは気付かされた。
「何時の間に…」
「…戻るぞ」
淡々と告げる阿蒙を呆然と見上げるエコー。こんな初歩的なことすら自分は把握できていない。
実力の差と嘆く以前の問題だった。

「アタシ…何やってるんだろ…」
「…どう思う?とは何だ?」
「え?」
落ち込んだように力無く座り込んでいるエコーの隣に、阿蒙も腰を下ろすと唐突に問い掛けてきた。
「…さっき、何を聞いた?」
「聞こえてたんだ…、だったら一言でも何か言ってよ。…無視されたと思うじゃない」
「…任務中だった」
至極当たり前の事、返す言葉も無かった。真顔で見つめる先には常に目標しか見ていない。
些細なことに振り回されない、自分とは違う。
「それもそうね、アタシ…やっぱりダメね。いつも目先のことに振り回されて、それで結局最後はゼノを振り回しちゃって」
パートナーだと言って半ば強引に同行しているゼノの事を思い出す。何時もはぐれれば探し探され、余計な手間を掛けては痴話喧嘩のような小言の言い合い。
特に最近ではそれが顕著に現れたような気がしていた。自分に内緒で他のアークスと組んで難易度の高い任務に出ている事も気づいていた。

一緒に居ないほうが、彼は自由になれる。
それが寂しいと思ってしまう。

「さっき貴方に聞いたことだけど、自分より弱い相棒って…必要だと思う?」
「弱い相棒を持ったことは無い」
躊躇いがちにエコーが問い掛ければ、阿蒙はそれにはっきりと断言する。
「だって、貴方の相棒もよわ…」
「誰のことを言っている!」
「ひっ!?」
声を荒げ反論する阿蒙に、萎縮したエコーは怯えた声をあげた。
今まで表情を変える事も無く、まるで他人に対して無関心な様子だった相手からの不意な反応。
恐る恐るその表情を窺えば、遠くを見つめる視線のまま少しだけ歪んだ横顔が見えた。
「アフィンは強い、お前なんかより強い」
「なんかって…アタシなんかって何よ!、そりゃフォースでニューマンで肉体的に貧弱なのは認めるわよ!でも赤の他人にお前なんか呼ばわりされる筋合いは無いわよ!。新米の貴方に!フォトン傾向を自由に変更できる世代の貴方達には!強くなりたくてもなれないアタシ達の苦労とか葛藤とか理解できないでしょ!何時も何時もゼノに役立たずとか邪魔とか言われて!一緒に戦いたくても足手まといにしかならなくて!、始めから強い貴方には強くなろうと努力してる人の気持ちなんて分からないでしょ!」
今まで堪えていた不満が、阿蒙の無神経とも取れる言葉がエコーの逆鱗にふれ一気に爆発した。
誰にでも言える本心ではない、勿論想いを擁いている相手にも打ち明けられる事ではない。だからこそ不安と不満は徐々に同化しそれが負の連鎖を生む。
第三者からの意見を求めていながら、自身が不利となる返答には反論してしまう。

「…努力している」
「何処がよ!」
「…お前の依頼を受けた」
「それが何よ!、アタシの依頼を受けるのがそんなに努力しなちゃ耐えられない事だって言うの?!」
一気にまくし立てるエコーは、隣に座っている阿蒙に掴み掛かる。
そこまで言われる自分への虚しさ、まるで不安と不満を生んでしまう思いを擁く人からの言葉と錯覚してしまう、何時か言われてしまうだろうという恐れ。
「アタシだって役に立つって、パートナーだって自信を持って言われる様になりたいわよ…」
衝動は時間が過ぎれば冷めてゆく、今度はどうしようもない現実への悲しさが沸いてくる。
「…なれるだろう」
「今更慰めなんて要らないわよ…」
阿蒙に掴み掛ったまま、力無く身を預けてしまう。
そんなエコーを支えたまま、それでも相変らず視線は遠くを見つめたまま阿蒙は動かない。
「一緒に戦うとは、同じ戦い方をすることか?」
「どういう意味?」
「ハンターとフォースは、同じ戦術で戦えない」
「分かってるわよ、そんな事」
「役に立つことをすればいい」
阿蒙から言われた言葉の意味を考える、それは今まで感じてきた迷いの答え。
「アフィンは援護、過度な戦闘は避ける、更に身の危険を察したら迷わず退く判断ができる。だから信頼できる。それが強さだ」
「逃げることが強い事だって言うの?」
「生き残ることが強さだ、自分の力量を弁えている」
「アタシは…」
同じ様に先陣で戦うことを『一緒に戦う事』と勘違いしていたのではないか?、ゼノにできる事は自分もできなくてはパートナーと呼ぶには相応しくないと、思い込んでいなかったか?。
「…簡単な事だ」
「でも努力してるんでしょ?貴方も」
「…ああ」
そう言うと阿蒙は立ち上がる。そして手を差し伸べられた。
エコーは目の前のある手を見て見上げると、そこには相変らず真顔の阿蒙がこちらを見ている。
先ほどまでの会話を、まるで気にしていないように手を差し伸べる相手の無表情の下にある情を感じる。

「貴方ってホント、不思議ね」
「…よく言われる」
「ふふっ、あの相棒にも?」
「…ああ」

差し伸べられた手をとると、引き起こされる力強さに安心する。
何時もこんな風に助けられている、その時自分は何と言っていただろう、ふとそんな事を考えた。
「ありがと…って、素直に言えればいいのにね」
「…そうか」


エコーがアークスシップのロビーで何時もの様に寛いでいる所に、アフィンが駆け寄ってきた。
「あら?、今日は一人なの?」
「今日はって、四六時中アイツと一緒に居るわけないじゃないですか!。まったく…ゼノさんと同じ事言う…」
ゼノと一緒と言われ、先日の砂漠探査のときを思い出し苦笑いが浮かぶ。
しかしそんなエコーに気付かないアフィンは、そのまま話し始めた。
「エコーさんと一緒に砂漠に行ったって相棒から聞いて、で?、どうでした?。ちゃんと一緒に居ましたか?」
「うーん…どうって言われても、アタシじゃコンビは組めないわねって確信したわ」
「はぁ…つまり駄目だったって事ですか。アイツ何やってんだか…、努力するって言ってたくせに」
「え?、努力するってどういう事?」
アフィンから発せられたある言葉に、先日の砂漠での会話を思い出す。
阿蒙がアフィンの相棒として努力している事、とは何か?。
「知ってるでしょ?、相棒が何時も真顔で口数も少なくて、ほとんど他人と接触を持ってないって事。依頼で声を掛けられなきゃアイツ一日中ロビーのソファーに座ってボーっとしてる時もあるんですよ。そんなんじゃ駄目だって、仲間と助け合って戦わなきゃいけない場合もあるんだから、少しはオレ以外の奴ともコミュニケーションを築けって言ったんですよ」
その後もブツブツと言うアフィンの言葉に、阿蒙の言う『努力』が何を指すかを知った。
「そうゆう努力の仕方もあるのね…」
「あの…何かありました?」
「うん、有ったわ。貴方達…とってもお似合いね!」
「ちょ!どういう意味ですか!、それこの間ゼノさんに言われたのにエコーさんまで!」
真っ赤になって反論するアフィンを見て、あの時の阿蒙の様子を話してあげようか、それとも内緒にしてこれからも見守ってあげようかと思う。
つい言ってしまった相棒を貶す言葉に、彼はハッキリと否定した。
そう言い切れるだけの信頼を得ている事を、羨ましいとも思う。

「ちょっと貴方も付き合いなさい!、今から地下坑道に行くから!」
「えぇえええ?!、何かそれ八つ当たりとかじゃないですよね?!」
「さあ?、どうかしらねー」

羨ましいから、自分ももう少し努力してみようと。

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