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ナイト







「----」











息を引き取った彼女を見て、薬売りさんはいつもとちっとも表情を変えなくて、彼女の亡骸をそっと抱きしめたまま動かなくなった。



こらこら!
駄目だよ何してるの

周りにはまだ怖いモノノ怪が笑ってて、薬売りさんに食いかかろうとうろうろしてるのに。












「薬売りさん!!もうその子は死んじゃったんだよ!」















薬売りさんは全然聞く耳を持たず、石になってしまったみたいにじっとしてるだけ。

私はそんな姿を遠くからそっと見ている。

抱えられた彼女の体は青白くなっていって、唇の色もなくなった。ただ閉じられた目に、長いまつげが飾られていて、体中あざと傷だらけ。


致命傷は多分、さっき薬売りさんを守ろうと盾になって腹部に受けた切り傷。真っ赤な血がどろっとあふれてて、召し物を染めてしまった。











「もうっ!!薬売りさん!!危ないってば!」












いつも薬売りさんは隙を見せてはいけないとか言うくせに、自分は今隙だらけ。彼女を守れなかったことはそりゃつらいだろうけど、まずはその前にまわりにいるモノノ怪を倒すことが先決でしょうが!

それにその子は自分の意思で薬売りさんの盾になったんだから、薬売りさんが悲しむようなことじゃないのに…。このお人よし!






















「…なまえ…」

「!!…何?」

「……俺は、…どうすればいい…」














冷えていく彼女の体を身をもって実感して、どうしていいのか分からなくなっちゃったんだろうか。


なんでそこまでその子に肩入れするのか分からない。











「…ほら、薬売りさん、立って」

「……」

「このままじゃ、薬売りさん死んじゃうってば」

「…俺もここまででいいのかもしれない」













そろそろ、もう疲れました







なんて、弱気な薬売りさん
















「っばか!!あきらめちゃ駄目!!今ならまだ薬売りさん勝てるんだから!!」










もう、こんな薬売りさん初めてだ

世話が焼けるんだから












そっと近づいて、薬売りさんの背後に立つ。











「…なまえ…っ」

「はーい」

「どうして、俺を一人にする…」

「いやいや、だって」











さっき危なかったじゃん!

私が盾にならなきゃ、薬売りさんにあたってたじゃん!



いいのいいの、別に。私は怒ってないから。






うん、分かってるよ。私は死んだんだ











「私は死んじゃったけど、薬売りさんはまだ生きてるんだから!私の分まで戦ってよね!」




















…あーあ

聞こえないかぁ







やめてほしいなぁ。私の死体抱きしめてるの。
私の顔色もう血の気が引いてて何か見てられない。そんな私を見るのやめてよ。

私は薬売りさんと違って特別な能力も持ってないただの人間なんだから、いつかは死んでしまう。

それが今日、ついさっきだったってだけ。












「大丈夫!ほらほら薬売りさんったら!」










背中をたたいてもすかすかする。感触はないけど、さ。










私は此処で、

すぐ貴方の後ろを守るから











「一緒にいるから!」












だからそんな死体に向けて悲しい顔しないで。

立って、私の分も頑張って生きようよ










「……」











黙るのナシにしようよ…。
私から薬売りさんには何も伝えられなくなっちゃったけど、薬売りさんから私にはちゃんと伝わるんだから。といっても分からないよねそりゃ…。















「…なまえ」
















はーいはいはいはい!
聞こえてますよ!聞こえてます超はっきり聞こえてます。私生前どおり耳は人並み優れているままなんだから。特に薬売りさんの声ならたとえ何里離れていようが


















「どうして、…もっと言っておかなかったんでしょうね…。人は愛おしい存在ほど無下に扱って、そうでない人に気を遣う」








血が、黒く固まってきた











「俺はその人間の美徳に流されていないつもりだったのに、いつの間にか、貴方に、--


恥ずかしくて、言えなかった」













これって盗み聞きに入るのかな。

薬売りさんがもしこの戦いで死んじゃって、私のいるこの世界にきたら、それこそ恥ずかしがるだろうなって笑ってみる。

本当は来て欲しくない。けど

薬売りさんが本当につらいんなら、














「…こんなにもっ…なまえが大切な存在だと、思っていたのに…」






























ずるいよね


今まで一度も言わなかったくせに




いまさらだよ、薬売りさんたら














「私は、薬売りさんを守るよ」











ただし、あと一回だけね!もうその後は知らないからねっ














ほらほら、モノノ怪さんがついに動き出した。薬売りさんめがけてまっしぐら。このままじゃ食べられてしまいます。













「…」














動かないんだね。

じゃぁ、こっちの世界にくる気なんだ。












私は今幽霊だから、もう一回だけ薬売りさんの盾になるよ。私の体で、守ってあげる。

そうしちゃったら、こんどこそ私は消えてなくなっちゃうんだと思うけど、どうにかして絶対、ぜったい薬売りさんの元にいくから。


ほんとほんと、ずっと一緒にいてあげる。













もう一度だけチャンスをさしあげましょう!



だからその死体さっさと捨てて、頑張ってね薬売りさん!

















ナイト






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突発的に書きなぐってしまいました(´・ω・`)

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あきゅろす。
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