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崎谷家の日常
4
「何をしている。」

杉崎が俺を刈るため距離を縮めてきたところに、地を這うような不機嫌な声が割って入って、
俺も杉崎も、仲良くびくっと体を震わせた。

向かいにいる杉崎は、青い顔して固まっている。
振り返れば案の定、恐ろしい顔をした崎谷が扉を開けて立っていた。

俺は内心舌打ちした。
なんでこのタイミングで帰ってくる。
今追及しても、誤解だと食い下がられるだけだ。

「何をしようとしていたのかと聞いているんだ。」
・・・目線が俺に向いてる。
責められているのは俺なのか?
ここで杉崎をかばうと、本気に取られる。
そうなると簡単には別れられない。
困るのは崎谷のはずなのに・・・。

「鈴村君!!」

答えに窮していると、痺れを切らした崎谷が俺の頬を殴りつけた。

「鈴村君!大丈夫!?」

よろけてソファに倒れ掛かった俺を、杉崎が支えてくる。
殴られた衝撃と、全ての元凶に殴られた理不尽さとで、さすがの俺もキレた。

「てめえは何がしたいんだ!!」

奴よりも強く、思いっきり殴りつけた。

「す・・鈴村く・・。」
俺の学校では見せないキレっぷりに、圧倒された杉崎が何かを言いかけたが、崎谷の言葉に遮られた。

「お前が俺をおいて合宿なんかに行くからだ。」
「は?」
「生島と合宿なんかするからだ。」

生島っていうのは中学時代の仲のいい先輩。
先輩が通う高校の空手部の合宿に、指導員として強引に誘われたのだ。
崎谷が先輩を嫌っているのも知ってる。
合宿参加を反対していたのも知ってる。
押し切って参加したから、杉崎を家に連れ込んだのも知ってる。
何度か全く同じ状況で、人を拉致って来ていたから。
だが、なぜ今それを言う?
よりによって杉崎の前で。

呆然と崎谷を見つめていたら、背後から声がかかる。
 
「鈴村君・・。」
「杉崎!こ・・・これはその・・。」
慌てて振り返り、言い訳をぐるぐる考えてたら、
「もう諦めろ。」
すぐ近くで崎谷の声と、「カシャッ」っという音が聞こえた。
「何言って・・お前何してる!!」
軽い衝撃があった左手を見ると、手錠がかけられ、怒鳴っているうちに後ろに回され右手にもかけられた。


この手錠は見たことある。
前回の被害者はこれに繋がれていた。
開放した後いつの間にか無くなってたあれは、この部屋にあったのか!

「杉崎。俺の咲也に手を出そうとしたから、お前とはもう終わりだ。」
後ろ手に手錠で繋がれたうえ、首をつかまれた状態で前のめりに押さえつけられてる間に、崎谷は有り得ないほどの棚上げ発言をしている。
「違う。鈴村君が・・・。」
「こいつのは天然だ。じゃあな。」
「おいっ!俺は・・。まず離せ!!」
崎谷は言いたい事は言ったとばかりに、暴れる俺を連れて自分の部屋へと向かう。

「杉崎はもう帰る。車を回してやれ。」
「わかりました。」
この声はきっと山口さんだろう。
限られた視界では顔は確認できないが、手元にクリーニングされた杉崎のらしき制服が見える。
助けを求めても、この屋敷広しといえど、誰一人としてこいつを止める奴はいない。
山口さんなんか、身内の俺をちょうどいい生贄にしか見ていないだろう。

無駄に暴れて、結局は部屋に連れ込まれることになる。



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あきゅろす。
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