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レンカイ&カイマス(仮マスター)
忘れられた青空B[繋がるココロ]
長いね…orz エロまで行くのがこんなに長いなんてね…そしてヘタレナイのレンが…(泣)
じゃあ、タイトル通り忘れてもらおうか…。

―――――――――――――

鍵を壊したのは自分。ドアを壊したのも自分。

そう言い訳をしなければ、誰が何の為に鍵を壊し誰が何の為にドアを壊したのか…その経緯を説明する羽目になる。
言えませんよね!?マスターやメイコ姉さんには絶対に!!
ひたすら謝って謝って…。
「はー…豪快にいったのね〜。業者に連絡して来て貰うよう頼んでおくわね?」
「マスター甘すぎるわよ!?全くこの子は〜!
次は鉄扉にして貰いましょうか!!」
それは嫌だが逆らえない…。俺、損な役回り?

昨夜の大雨はキレイさっぱり無くなって、綺麗な水色。何があっても、空の色は変わらない。
「……」
「お前、もう何もすんな」
一通り説教を喰らって、マスターは仕事へと出掛けた。メイコ姉さんとミク姉は本日当番の洗濯へと乗り出した
。マスターのお姉さん(瑠海さん)の家ほどボカロは少ないけどそれでも数はあるので、炊事洗濯は毎日二人で行う。
「だってさー、カイトお兄ちゃんは絶対にレンの事好きな筈なのに…!!」
「……好きにも、色々あるんだよ」
全く、こういうのを『小さな親切大きなお世話』って言うんだよな。
「もう良いよ。どう考えても無理。
アイツは俺を好き以上には見れないんだよ。

…リンには正直、感謝と怒りが混ざってるけど…、まぁありがとうな」
「……」
昨夜の事は話さなかった。自分の中にあんなどす黒い、暗鬱とした感情があった事を知られたくなかった。
リンも聞いてこなかった。まぁ、今朝の俺とカイトとの雰囲気見ればしくじった事は明らかに伝わっただろう。
「リンちゃーん!!」
ミク姉がバタバタ走ってきてリンに飛び付いた。きゃっ!?と小さく叫んで倒れそうになったリンを咄嗟に支えようとして。
流石に二人分と立っていた位置からして支えきれず俺も一緒に倒れた。
「ミクお姉ちゃん〜…」
「ごめんねリンちゃん!?痛かったよね!?」
「ミク姉…俺も心配しような?」
恋をしていた自分だからわかる、いや、他の皆も気付いてるかも…。どうもミク姉はリンが好きなようだ。そしてリンも満更ではない様子。
(良いなぁ…女同士ならあんま嫌がられないしな〜)
それを考えて頭を振る。…未練がましいな…。
「あれミクお姉ちゃん?出掛けるの?」
リンが尋ねたのは、ミク姉の服が外出用のちょっと小洒落た感じだったからだ。
「うん!メイコ姉さんと洗濯物を干してる時ね、なんかイライラするから自棄食い(自棄呑み?)行くわよ!!って。リンちゃんも行こ!!」
「え、う〜ん…」
何故こっちを見る。
「行けよ、俺は気にせず」
「でも、カイトお兄ちゃんとみっくんだけに」
「ミクオ君は荷物持ちー(*≧∀≦*)」
「余り買い込まないで下さいね?」
後ろからメイコ姉さんとミクオが、外出用の服で現れた。強者である姉妹達に『荷物…持ってくれるわよね?』と半ば脅されたに違いない。絶対そうだ。
「えっと待って!?俺も行っちゃダメ?一人より二人の方が」
「あらあら〜、イライラの元凶が付いて回るの?なんなら私も玄関ぶち破って外へ出ようかしら?」
暗に『付いて来んな』そう言っている。
「じゃ、じゃあ兄さん連れていきなよ?」
ミクオまで家から出たら完全に二人っきり…!!ヤバイんですよお姉様!?昨日の今日で俺の精神状態一人じゃ持たないんです!!
「あのキノコ製造装置はウザいから嫌」
「き、茸?」
「無論連れていくつもりだったわ。でも、あの子の周りだけじめじめしてんのよ。男らしくないわね!!」
―――それって落ち込んでいる?カイトが?
「そ」
「行くわよ〜リン!!着替えてきなさーい!!」
リンが多分同行を断ろうととしたんだろうけど、メイコ姉さんの感情パラメータ、最大値MAX、振り切れかけてる…。危険度を感知したリンは速攻で着替えに行った。
「あそうだわレン。アンタは暫く外出禁止」
「なんで!Σ(゜д゜lll)」
メイコ姉さんが俺の手を優しく握って、俺の手を俺の胸に当てさせる。
「胸に聞いてみなさい?」
笑顔恐い。その裏にある怒りが、メイコ姉さんの手を通して俺の手に伝わる。痛いです…。
「準備できたよ〜!」
「じゃあ行ってきます」
「適当に食べてね♪」
「お土産は無いわよ?」
出ていく四人の姿を見送る。最初に脳裏を過ったのは、荷物だらけでヒイヒイ言ってるミクオ。
女三人の荷物…。帰ったら玄関は開けてやろう。

**********

外出禁止を喰らいました。こっそり出てもバレないと思ったけど、何の拍子にバレるか分かったもんじゃない。
俺は部屋で寛いでいました。でも暑いのです。
ドアが破損してるせいでエアコン意味を成しません。真夏のこの部屋…ヤバイです…。
「…やべ…オーバーヒートしそう…」
俺は涼を求めて部屋から出る事にした。

部屋を出て、右隣の部屋に目が行く。カイトの部屋だ。因みに左はミクオ。
階段を挟んで女達の部屋が並ぶ。
「…」
まだ中に居るのだろうか…。顔を、合わせる気も無いけど…。
中の気配を窺う事もせず俺は階段を降りていった。

**********

カーテンを閉め切り、明かりも付けずにカイトはベッドの上で丸まっていた。考えている事は1つ。

―――何故、拒むような事をしてしまったのか。

デートの後、自分はレンが好きだと理解した。それまで思っていた、簡単な気持ちじゃない事を。
今自分がこの様にもやもやしている様に、レンも同じ感情を抱いていたのだろうか?

なんで昨夜、拒んでしまったのか…。
あのまま、構わないと思ったのに。レンの声が、態度が、全てが僕を否定していた。
「レン…」
いつから自分はこんなにうじうじ悩むボーカロイドになったんだろうか…?少なくともデート前まではこんな自分じゃなかった筈なのに…。
胸も頭もレンで一杯。でもお腹は空いたようです。
ぐぅの音と共に顔をあげ時計を見る。頃合いよくそろそろお昼の時間。
部屋を出て、少し歩いてレンの部屋の前で一度立ち止まり。
よく中を見ずに一階へ降りた。

**********

リビングでソファに座り、ジュースでも飲みながら時間を潰した。やる事なんて何もない。
不意にリビングのドアが開いた。入ってくるのは今一人しかいない。
「……」
「あ…。皆は?」
一瞬気まずそうな顔をして、辺りを見回して俺に尋ねる。目は、こちらを見ていない。
「さっき出掛けてった。兄さんにも声は掛けたって、メイコ姉さん言ってたけど?」
二人きりだから。他の誰も居ないから…。
普段より声色が冷たくなるのが自分でもわかった。
カイトはそうなんだ…そうだっけ?と自問自答していた。
「兄さん、今から何かするの?」
「あぁ…お腹空いたからご飯にしようかと思って…。レンも食べる?」
「いらね。じゃあ好きなだけ食べてれば?」
一緒に居たくもないし。そう付け加えて俺はリビングを後にする。
「レンっ!ちょっと待ってよ!」
カイトが追いかけてきて呼び止める。振り返り、一度その姿を瞳に捉えて、返事もせず背を向けて階段に足を掛ける。
(…昨日、襲われかけた癖になんで追ってくるんだよ…?)
心の中でそう相手をバカにしてずんずん上がる。
「返事位しないかっ」
五段目辺りに足が乗った所で腕をカイトに掴まれた。内心心臓を震わせ、悟らせないようにもう一度振り返り、段差の為出来た身長差で溜め息混じりにカイトを見下ろす。
「離せよ」
「…兄に向かってどういう口の聞き方だ?」
「今更兄貴面するなよ。弟に襲われたくせに何が兄だよ?」
「襲っ!?」
……。俺言ったよな?
犯されたいかって。どんな風にヤりたいかとかも。
襲わせるなって言ったよな?散々脅したよな?
「昨日俺、アンタにセックスしたいって言ったよな?」
カイトの顔が赤くなる…。こ、こいつ…!
「いっっっちばん最初告白した後、俺はアンタと恋人になったと思ったんだぜ!?恋人っつったらヤるだろーが!?どうなってんのお前の電脳!!」
捲し立てて怒鳴り散らす。こいつの中にゃ性欲とか無いのかよ!?
だが俺が何言った所で赤くしたまま固まったまま。ピュアもここまで来ると腹が立つ。
「もういいだろ?離せって!!」
無理矢理手を振り解いて再び上を目指す。懲りずにカイトが俺を呼び止める。
「あぁもうっ!うっさいな!!俺の事振ったんだろ!?いい加減ほっとけよ!?」
そうだ、いつもそうなんだ…。
此方が望む事なんて何ひとつしてくれない。想いの断片すら拾って捨てて、拾って捨てて…中途半端。
ずっとずっと何度も何度も名前を呼んだ。
名前で呼べば、いつか『弟』以上に見てくれると思ったから。

何故、俺は『兄』を愛してしまったのだろうか…。

「ダメだ…もう無理だ…。どうやってもアンタを兄だなんて思えない…。…もぅ…俺を消してよ…」
また真っ黒な感情が溢れ出す。

そうだ。今この家には俺とこいつしか居ない。
誰かに助けを求める事は、今のこいつに出来ない。こいつの精神プログラム、壊れるまで嬲ってやろうか……。

「…レン!?」
「…ダメだ…!!俺はカイトを壊したいんじゃ、ないっ!!」
心配そうな顔で覗き込んできたカイト。
水色の中に俺が写る。そんな綺麗な瞳の中に、『俺』を映さないで…。
「レン!?大丈夫?具合悪いのか!?」
「もぅ…関わるなっ!!」
俺の事を思って伸ばされた手を跳ね除け、その身体を、俺は、突き飛ばしてしまった…!

既に俺達は階段の中腹辺りにいる。そんな所でバランスを崩せば
「        」
「…ぁ」
ガタンガタンッ!!ゴッ!!
転がり落ちたカイト。階段に体をぶつけながら、最後に後頭部を廊下の壁にぶつけ転がるのを止めた。
「……、カイト?ご、…ごめん………」
「………………………」
カイトから長い沈黙。
気絶したのかと思い、流石にそれは自分のせいなので、介抱だけはしておこうと。
綺麗な水色の髪をかき揚げ、綺麗な顔を覗き込むみ、すぐにその体を揺さぶった!
「…ッカイト!!起きろっ!なぁ!?」

雨上がりの晴れ渡った、何処か水気を含んだような水色。本当に澄んだようなカイトの綺麗なあの淡い色の瞳は開いたまま、機能停止していた。

**********

「何があったのか、聞いても良いのかしら?」
暫く揺さぶり続け、少し冷静になってからまずはカイトをリビングの床、カーペットの柔らかな所に寝かせた。
マスターの部屋は一階と地下に作られてる為何かメンテナンスが必要になった場合、すぐ移動出来るようにと思ったからだ。
次にメイコ姉さんの携帯に、その後すぐにマスターにも電話した。

そうして今、マスターのメンテナンスルームにてカイトを寝かせ、全員で回りを囲む。
メイコ姉さんに問われ、押し黙っても無駄なのはわかっていたから、状況を説明した。
無論内容が内容なので伏せて、口論になって思わず手を出してしまった、と。
「あんた…。子供じゃないんだから、階段で暴れたりしたらどうなるかとか想像つくでしょう!?」
「メイコお姉ちゃん!!やめてっ、リンが悪いの!!
リンが、お兄ちゃんとレンがずっと喧嘩してて…。何とか仲直りさせようと勝手な事ばかりして二人を困らせたから…」
リンが俺を懸命に庇う。

違う。リンは何も悪くなんかない。
全てにおいて悪いのは俺だ。

勝手に好きになったのは俺。

カイトにも、恋人として好きになって貰ってると勝手に思い込んでた俺。

拒まれて、今度はカイトから差し出された手を突き放したのも俺。

カイトが欲しくて、真っ黒な感情を抱いて壊れ始めたのは、俺。

泣きたかった。いっそ本当に、ただの子供としてわんわん泣き叫びたかった。俺には許されない。

「レン君…、そんな顔しないで?人間だって衝突しあって怪我だって良くするのよ?」
優しすぎるマスター…。気にするな、そう言っているようなマスターの言葉に、俺の精神プログラムが限界を訴えていた。
「…マスター…俺を、アンインストールして下さい」
ミク姉とリンの泣き声が止まった。ミクオが驚いたようで、呼吸を止め俺を見ているのがわかった。
メイコ姉さんが、俺の頬を打つ事も頭で理解していたので敢えて受けた。
「このっ…バカレン!!自分で何言ってるのかわかってるの!?あ、アンインストールなんてしたらっ」
「わかってる。今の『俺』は消滅(キ)える。
その後、再インストールしてくれれば、次の『俺』が生まれる。

次は素直な俺に育ててあげて?」

この気持ち、背負い続けるには辛い。
大切な人を失い壊れる人間だって沢山居る事も知ってる。機械の俺にも、今の俺になら共感出来る。
消してと願う俺の心中は穏やかだ。きっとそのままの気持ちで今微笑んでいる。
「やだ、リンの弟はレンしか居ないんだから!!
新しいレンなんて要らないよ!!」
「……ごめん」
「…璃空、お前の所の『鏡音レン』は随分弱虫なんだな」
リンに謝ったちょうどその時ドアが開いて、白衣を翻して女性が入ってきた。マスターに良く似たその女の人は、ロングヘアーのマスターと反してショートヘアーだった。眼鏡だけはお揃い。
「瑠海!!ごめんね呼び出して…」
マスターが駆け寄る。瑠海と呼ばれたこの人はマスターの双子のお姉さん。
瑠海さんは俺達のような『〜ロイド』のプログラム的な部分を調整したりする仕事をしていたから呼んだんだろう。
その人の後ろに、瑠海さんの所の『鏡音レン』とデフォルトの『KAITO』が並んでいた。
向こうのレンが、静かに俺に寄ってきて鳩尾に拳をいれた。
「れ、レン君!?」
デフォルトの、青い姿のカイトさんが慌てて引き離した。蹲ってしまった俺は下から二人を見上げる。
「どんな気分?自分に殴られるなんて、早々無いよね?あぁそれと、これはこの場に居る皆と、そこで気絶してる白兄の気持ちを代弁しただけだから許してね?」
同じ顔が笑った。…向こうの方が笑顔が黒い気がする…。
「おい璃空ん所のレン。
本当に殺して欲しいんなら、全員の了承得てからおれの所へ来い。お望み通りディスクに戻してやるよ。まあイエスを唱える奴は居ないだろうがな」

さて、と…。と基本的な機械はちゃんと設置されているので、少ない手荷物を机に置いた。
運び込まれてから、何かしたか?と聞かれマスターが首を横に振る。なら、と遠慮なく瑠海さんはカイトを再起動させた。
(は…破損箇所とか見ないのかよ?)
思わずチラッと横を見る。レンとカイトさんが寄り添ってと言うか手を繋ぎあっていた。
青い姿のカイトさんの表情は悲しそう。あそこで寝ている水色に、自分を重ねているのだろうか…?

うぃぃぃん…。小さな起動音と共にケーブルに繋がれたカイトが起き上がった。
「起きたな。名前わかるか?」
「…KAITOです」
「ああ。モジュールは?お前はデフォルトか?」
「モジュール名『ホワイトブレザー』」
「…マスター登録誰になってる?」
「……」
質問する瑠海さんをじっと見て、肉親である事を自身の中で照合した後、「マスターは一颯 璃空(カズサ リク)です」と答えた。
どうも反応が機械的だ。いやま、機械なんだけど…。何だか音声案内を聞いてるような…。
「俺、電話の音声案内がカイ兄の声なら延々と流しておくよ」
ああ…。流石『鏡音レン』。行き着く思考回路は同じですか。
あらかた質問を終えたのか、瑠海さんは一息ついて荷物から…ん?紙袋??
ぷうぅーーっ、



ぱあぁんっ!!

膨らましてカイトの目前で弾けさせた。ショック療法かよ!?
「うわぁっ!?」
「効くの!!それ効くの!?」
思わず俺が叫んでしまう。だって効くの!?
「効いただろう?」
…なんでこんなに複雑な気持ちになるのだろうか…。
確かにその音でプロジェクター上のカイトは、自分の置かれている状況が飲み込めていない。
「え?え?あれ?僕繋がれてる?」
首や手首や、人工皮膚を捲った下に、プラグ穴があって数本の細いプラグで繋がれている事に驚いている。驚いたが、本能的に自分に何か大事があったのだろうと悟ったようで、取り乱したりはしなかった。
「お前は階段から落っこちて機能停止していたそうだ。何処か不具合は感じるか?」
「……、いえ?」
「……、そうだな。ざっと見破損も見受けられんしな。じゃあ取り合えず簡単な質問するぞ。こいつは誰だ?」
なんだろう…。カイトの雰囲気が何か違う…?
でも瑠海さんの仕事が終わるまでは口は挟めない…。それは皆も、マスターも同じで、本当は今すぐ抱き付きたい衝動を押さえているようで、微かに震えていた。
「僕のマスターです」
「じゃあこっちの奴等は?」
「メイコ姉さん、ミクオ、リンちゃん、ミクちゃん。…あ、瑠海さんの所のカイトとレン君だね。
何だか変な感じ。目の前に色違いの自分って」
女連中が泣き始めた。よかった!!よかった!!と皆が口々に呟く。見るとミクオもしっかり泣いていた。
ベースがミク姉だから、感度も似てるのかな?
「……次は?」
「ん?……えーと、リンちゃんが居るんだから…やっぱり、僕の方の弟のレン君…だよね?」
水色の髪をかきながら、俺を見ながら『そうだよね〜?うーん…』と困った顔を見せるカイト。
「あれだけわからんか?」
「はい、えっと…ごめんね?」
多分、俺に謝ったのだろう。
瑠海さんがそんなカイトの瞳を間近で覗き込む。少しして
「本当なんだな?全くか?これっぽっちも?」
「えぇと…本当にすみません。あ、忘れてる…んですかね、修理…ですか?」
「………」
すっごい間近で見つめ合っていた二人。正直羨まし…て、俺考える所そこじゃない!!
「か…兄さん?俺の事、メモリから消しちゃった?」
「? 大事な弟を消す必要ないだろ?
きっとデータチップに異常があるだけだって。すみません、今此処で直りますか?」
最近見なかったカイトの心底明るい笑顔。なんだろう…、なんだか凄く嫌な予感が…。
「いや、これは簡単には治らんだろう。が、まあその他に異常は無さそうだし取り合えず全員出てけ」
その言葉を聞いた途端皆がカイトに飛び付いた。勢い余って後ろに倒れかけたカイト。プラグ端子が何本か外れた。
「おれは『出てけ』と言ったんだがな…まぁ構わんか。おっと…、璃空ん所のレン。お前はちょっとおれん所来い」

正直、女の人が『おれ』ってどうなのかな?とか関係無い事を考えながら、俺はその人の後ろに付いていく。と言っても皆から少し離れた場所なだけで、後ろの方では相変わらず皆がカイトにしがみついていた。
「心当たりはあるな?」
「は?」
「あいつの、記憶。お前の事だけ抜けてる理由」
「まぁ、何となく…」
瑠海さん、背がかなり高い。下手するとカイトより高いのかも…。モデルとか似合うんじゃないかな?
「着飾って歩くだけの仕事なんざ興味ねーよ。
自分の事忘れられてる癖に余裕じゃないか」
考えていた事がまるっきりバレてる。『ロイド心理学者なめるな』と言われた。
「はい…、なんででしょうか。忘れられてる方が良いような気がして」
職業柄…なのかな。ジーっと人工の瞳を見詰められる。機械の俺より人間のこの人の方が瞬きしないのはなんで?
「存外お前も壊れてるな。
一つ教えといてやる。まあ餞別だ。アレの記憶はお前にしか戻せんだろう。頑張る事だな」
『帰るぞ』と言って荷物を手に出ていく。カイトさんとレンが出ていくのを呼び止めた。
「すみません、これちょっと借りれますか?」
俺がレンの裾を引っ張る。それを見たカイトさんが、苦笑気味に『良いけど出来るだけ早く返してね?』と笑った。少し子供っぽい笑顔だった。

「なー俺じゃなくてさ、白兄の所行った方がいいんじゃないの?」
「…お前さぁ…カイトさんに愛されてんのな…」
廊下を少し進んだ先、皆の声はもう聞こえない。
両腕を上げ頭の後ろで交差させるもう一人の『俺』。俺の言葉に嬉しそうに答える。
「相思相愛だからね♪お前だってそうじゃないの」
「違うんだよ…」
一方通行の片想いだった。カイトが忘れた事により振り出しに戻ったが、もう伝える事はしない。
「アレは違わないと思うけどね〜。俺間近で見たし…。
あ、用なら早く!マスター遠慮なく俺の事置いてっちゃうよっ」
「あー、うん…いや。いいや悪い」
えーなんだよー!?と口を尖らせる同じ顔。でも一つ一つの動きや表情、どれも俺と違う。
幸せそうだなって思えた。
「じゃー俺行くよ?

あそだ!俺にもお前にも、カイ兄にも白兄にも、ミク姉やリンとか…、あーもう!とにかくさ、皆『気持ち』って心あるんだ。感情の与え方も受け取り方も皆違うんだから、諦めるなって!」
反対側の廊下の先、階段の下でカイトさんに飛び付く姿が見えた。こっちに振り返り手を振ってる。カイトさんも小さく手を振ってくれていた。


「…本当、ごめん」
「それでいいの?本気?」
「もうこれしかわからなくて…」
メンテナンスルームに戻ると、カイトを囲って皆がひそひそ話をしていた。
「すっごい複雑…」
「まぁそこまで言うんなら構わないけど…」
「何が構わないんですか?」
俺が入ってきた事に気付かなかったのか、12の目玉がこちらを向く。正直恐い。
「何でもないわよ、この子があんたの事思い出すにはどうしたらいいかって言ってんの」
「ごめんねレン君…。忘れちゃって…」
どこか困ったような笑顔は、俺の気持ちをまだ知らなかった頃のままの笑顔だった。
「いいよ、別に。思い出さなくても、また俺の事『大切な弟』として遊んでくれれば…」
「レン君ダメだよ?そんな投げ遣りな事言っちゃ」
「そうだよぉ?レン君は悲しくないの?」
「…知らねーし…。
俺は、今ここに不要みたいだから戻んね。
あぁそうだ。一応謝っとくよ。突き飛ばしたりしてごめんね兄さん。お大事に」
俺の存在だけ切り捨てられたあの部屋に居たくない。自分から突き放した癖に、もう俺の事なんて微塵にも想ってない彼を見たくない。

レンの居なくなったメンテナンスルーム。
「アレは手強いわね…」
「レンったら…。とてつもなく頑固なのね!?本当にこの私の弟!?」
「『双子』と言っても血の繋がりは無いからね。同じボディでも同じ電脳でも、『個』は全く変わる」
「兄さん…ほんとーにいいの?」
「ミクだって今頑張ってるんだろ?僕も頑張るさ」
「瑠海の所といい、内といい…。私の家系はそうなる運命かしら?」
「すみませんマスター。でも僕後悔はしません」
「謝る必要はないわよ。頑張って…あ、あの歌詞はどうなったの?」
「レンがまだ書いてくれなくて」
「じゃあ出来上がったら教えてね?」

**********
あれから半日経ちました。
今日もマスターは仕事。ミク姉さんとリンは『デート行ってくるねー☆』何て言って出掛けた。
「あらやだ、お砂糖が無いじゃない!?」
「じゃあ買いにいきましょうか?ボクも見たいものあるんでデパートまで、デートしません?」
私とデートするなんて言うとは、ミクオは勇気ある子ね〜♪とこんな感じでメイコ姉さんもミクオと出掛けていった。
つまり二日連続でカイトと二人きり。違うのは、やたらカイトが構ってくる。
「レーン君?何見てるの?」
「天気良いよね♪あ、レン君は布団とか干さないの?」
「レン君ご飯何が食べたい?あ、デザートはアイスでもいいかなぁ?」
完全に無視を決め込んでるのに、何処に行くにも付いてくる。部屋に戻っても壊れたドアから遠慮なく入ってくる。外へ出ようとするとやっぱり付いてくる。
「出掛けるの?一緒行ってもいいかな?」
「ダメっつったら付いてこないの?」
「ううん、追い掛ける」
なんなんだ…何がしたいんだこの男は…。
外へ出る気も失せてまた家に逆戻り。
「なんで俺に付き纏うの?」
「レン君の事早く思い出したいから」
「…思い出さなくていーって」
ニコニコ追い掛けて来られるのも困り物だが、不安と悲しみで一杯って瞳で追い掛けて来られるのも嫌なんだよね…。どうやって引き離そうか…?
「俺の事、そんなに思い出したいの?」
「もちろんだよ!!」
「…アンタを突き飛ばすに至った経緯が、とてつもなく悲惨な内容でも?」
「……。それでも思い出したい。だってレン君と」
「前のアンタは俺の事呼び捨てだった。俺がアンタだとか名前で呼ぶと『兄さんだろ?』って怒ってるのか笑ってるのかわからない顔してた」

昨日、伝えないと決めたのにな…。

進路も退路もありません。脇道にはどうやら再告白しか無いようで。
言えば終わる。思い出そうと思い出すまいと俺達の関係はこれできっぱり終わる。
よし。

「俺は、そんなアンタが好きだった。家族愛じゃねーよ?れっきとしたレンアイ感情。好きで好きで好きすぎてさ…こんな事しちゃったの」
雷雨の日の再現。黙って聞いていたカイトを蹴り飛ばして廊下に転がす。
「っ痛!?」
「そうそう。あの時もそんな驚いた顔してた。
驚いて恐怖するアンタの顔、最高にそそられる。もっと虐めて穢して泣かせて壊したくなる」
全く同じように肩に足を乗せて強く踏み付ける。
カイトは抵抗してこない。
ただ真っ直ぐ俺を見上げる。綺麗なキレイな水色の瞳が俺を見詰める。
「随分、暴力的なんだね」
「そ。力ずくでアンタを犯したいの。嫌がるアンタを無理矢理抱きたい。綺麗な兄さんを俺の手で汚したい。

これが最後の忠告。

もう俺に付き纏わないで。我慢出来なくなる」

足をどけて解放する。あの時程の荒んだ気持ちにはならないのは、目の前のこの人が俺の事何とも想ってないからかもしれない。
「……。レンってさ…」
上体を起こし座り込むカイト。…なんか冷静じゃないか?ん?それよりも今呼び捨てになったな?
「いーっつも肝心な所で手を引くよね!?なんなのそれ、結局僕の事そんなに好きじゃないんじゃん!?」
突然悪態をつくカイト。見下ろしながら呆気に取られる俺。続くカイトの爆弾発言。
「だいたいさ?告白してから一ヶ月?なんっにもしてこないし」
「ちょっと待て」
「『弟以上に見れない』ったら、すぐさま諦めて今度は逃げるし、追い掛けたら逃げるし」
「待てっつの!?」
「あの時だって今だってそのまんま流しちゃってヤっちゃえば良いのにおんなじ所で手ぇ引くしさぁ!?なんなの?僕の事どうしたいのさ!?」
「忘れたんじゃねーのかよ!?」
まさかと思うけど忘れたふり…?カイトが?
そしてなんでかすごく前向きに俺との事考え始めてる?好きとか言った時のあの恥じらうような弱々しいカイトは何処!?
「ふりでもすればまた寄ってくるかなって思ったんだよ!!なのに逃げるし。皆にも協力して貰って二人きりなのに!!」
「カミングアウト済ですか!?え、だからまた皆居ないのかよ!?」
気付くべきだった…。昨日の今日で全員が出払った事に疑問を抱くべきだった。
そうだよ、記憶障害起こしたニンゲン置いて遊びに行くような奴等じゃねーって!!
「……僕本気だよ?デートの日、レンと離れて気付いた。よくある恋愛小説みたいで悪いけど、レンが僕から離れちゃうの悲しい。……触れて、名前を呼んでよ」
「……カイト…」
なんか無駄に考えすぎてたのかな…。
好きになったヒトが、時間を掛けて返してくれた言葉を、想いが信じられなくて…。
「カイト…カイトが好きです…」
俺今情けない顔してるわ…。絶対泣き顔になってる。鳴かせたい相手に泣かされる俺ってどーよ?
「ありがとう…、僕もレンの事大好き。もう兄弟だからってレンの気持ち無下にしない。

だからレン、あの歌の続きちゃんとくれよ?
折角、レンの事考えながら書いたんだから」
久々に見た優しい、俺だけに向けられる笑顔。もう見れないと思ったそれは、俺の中の冷たい感情すら消していく。
「ねぇ、カイト…?」
跪き、髪に触れ耳元に唇を寄せる。一瞬身を竦ませるカイトが、やっぱり緊張してるみたいで可愛い。
「欲しいの…、歌詞の続きだけ?

俺は、欲しくない?」
そんなに長くはない俺の首にかかる毛先を指で摘まんで、確かに『欲しい』と言ったカイトは、その薄い水色のせいで本当に消えてしまいそうで。
一刻も早く触れたくて、このまま廊下で抱いてやろうかと思ったけど。
流石にハジメテが廊下じゃ可哀想かなって思い、カイトの部屋へ向かった。

[*vorn][hinten#]

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あきゅろす。
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