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レンカイ&カイマス(仮マスター)
忘れられた青空A[繋がらない心]
忘れられた青空@[デート]からの続きです。
しんみりですみません llorz
それと後半レンの性格おかしくてすみません…
兄さんがヘタってすみません…R要るかな…?

―――――――――――――――――

レンの姿を見失ってから園内を探し回った。
同じ色、
同じ瞳は沢山あったけど、その全て、彼とはかけ離れていた。
「レン…レンっ…」
広すぎる…。思いきって迷子放送もかけてみた。流石に怒られるかなと思った。
真っ赤にして、怒鳴り込んで来るかもしれない。迷子はアンタだろ!!とか、言うかもしれない。

それでも構わない。傷付けた代償だ。それでも安すぎる。許してくれなくても良い。
レンの気持ちを知って、それを受け入れるのに戸惑った。同性だとか、兄弟だとかいろんなものが僕にブレーキを掛けた。

ただ今隣に彼が居ない。それが悲しい。
(………あれ?)
悲しい…?
悲しい…、そう思えるのなら、僕は結局レンに堕ちてたんじゃないだろうか?
「あぁ…。バカな僕…」
よくある恋愛小説みたいだ。離れて気付く…か。
笑うしかなかった。

早く、早く会いたい。
一度拒絶した手前都合良すぎるけど、もう一度触れたい。彼からの口付けが欲しい。

放送からだいぶん時間が経った。

レンは、現れなかった。


**********

先に帰ったかもしれない。
僕は転がり込むように玄関のドアを勢いよく開けた。通りすがりのミクオがかなり驚いて仰け反った。

レンは帰ってなかった。
メイコ姉さんに『一人で帰ってきたの!?』と叱られ、とりあえず逸れて連絡が付かなくて帰ってきた、そういう事にしておいた。
その後家の電話から掛けた。出なかった。

夕食の時間になってもレンは帰らない。
リンが不安そうな顔を辺りに散らす。
「カイトお兄ちゃん…レン…」
「…ごめんね、ちゃんと付いててあげれば良かったんだけど…」
「…仕方ないわ。冷めるだけだし、先に食べましょう」
「はぁ〜、…私のせいなのかな〜…」
「マスター?」
一人欠けた食卓。しんみりした空気の中、全員の箸は止まり気味だった。
マスターが箸を口に加えたまま喋る。いつもなら『行儀が悪い!!』と怒られる仕草に誰も何も言わなかった。
「だってぇ…。あの子皆と仲いいじゃん。私は仕事ばっかで、構ってあげられないし…つーか、歌も…あんまり歌わせてあげてないよね…」
しゅん…と頭を垂れる。マスターの仕事は朝早い。
だから、基本的には朝食には居ない。その代わり夕食には必ず帰ってくる。その後また仕事に戻る事も多いけれど。
「気にしないで下さいマスター。この家の皆、マスターの事嫌ってる人居ませんから」
「みっくん…」
「今、幸せですよ?ありがとうございます。
僕を、僕達を喚んで(インストールして)くれて…」
設定上年下のミクオに頭を撫でられたマスターが泣き始めた。しんみりした空気に少しだけ温もりが混じった。

**********

夜の9時を回った。
僕はずっとレンの部屋の前で座り込んでいた。
(何処に行ってしまったのだろう…)
玄関が開く気配も無い。電話が鳴り出す気配も無い。時間だけが過ぎていく。

ボーカロイドは人によっては金儲けの道具になれる。だから誘拐の遭遇率も高い。
ただ『人間』じゃないから、身代金の請求なんか来ない。身代金を払う位なら新しく購入する方が安いからだ。
「センターに、検索して貰おうか…」
階下からマスターの声。今日は仕事に戻らなかったらしい。
「近辺なら私達でも捜せるよ?」
ミクの声。一応全員がお互いに分かるよう携帯にGPSを付けていた。
「駄目。今はこれ以上この家から貴方達を出したくない」
マスターがそれを一蹴する。もし本当に誘拐の類いならば危険なだけ。
よくある話なら、この辺りで本人が現れるのだろうけど…現実にはあり得なかった。
「とりあえず今日は皆休みなさい。気張ってても貴方達が倒れるだけだからね。
ああリン…そんな顔しないで…。

レンはあれでも要領いいでしょ?
きっと大丈夫。いざとなったら世界中でも探して見せるから!」
マスターに言われ全員が階段を登ってくる。動く気になれず、そのまま座り込んでいると皆と視線が合った。
「カイトさんも無理、しないで下さいね?」
「お兄ちゃん倒れたらミク泣くんだから!!」
「……お兄ちゃん…、…ごめんね…」
ミクオ、ミク、リンが部屋へ消えていった。最後のリンの言葉が気になった。『ごめんね』?
「…アンタも休みなさいよ。顔色悪いわよ」
「……。
なんで誰も僕を責めないの?」
ぼんやりと呟いた。自分でも何処を見てるのかわからなかった。
「アンタのせいだなんて誰も思っちゃいないわよ。それとも心当たりあるのかしら?」
「………喧嘩した……」
「はぁっ!?あーの子は…。喧嘩位で家出?まっだまだお子様よね〜」
「…………」
「そこまで気にするんなら、明日にでも謝りなさいよ」
明日…?
その言葉になぜか顔をあげた。メイコ姉さんが優しく微笑んでいる。
「ここが、この家が帰ってくる場所よ?
そりゃたまには一人になりたい事もきっとあるわ。

だって、私達は今、生きている」

**********

怒鳴り声がして、それが目覚ましとなった。
パジャマのままやはり声で起きたのか全員が一階へ降りてきた。
「っのバカーっ!!」
再度罵声。今度はゴンッ!!と痛い音が同時に響く。
「ってぇ!だから、ごめんなさいって言ったじゃんか!?」
レンの声だった。帰ってきた!?
待ちわびたように声のする玄関へと向かう。マスターとメイコ姉さん、レンが対面していた。
「謝って済むもんじゃないでしょ!!連絡無い繋がらない、無事かもわからない…どんだけ心配掛けんのよ!!」
バチンッ!!うわ…両サイドから頬を平手打ち。
「い…いたそ〜…」
ミクが自分の頬を擦る。確かに痛そうだな、全力のメイコ攻撃…。
「め、メーコちゃん?あんまり叩くと形変わるよ〜?」
「構わないわよこのバカ!!」
ドスッ!!
チョップ…。多彩だな〜…じゃなくてそろそろ止めなくちゃ!!
「メ」
此方に気付いたマスターが人差し指を立てて僕を止めた。僕達の姿に気付いてるであろうレンは此方を見ない。
「あのね、レン君。一人になるなとは言わないし、出ていけとか帰るなとか絶対に言わない。
一人になりたい事もあるでしょう?

せめて、いつ帰るかとか無事だとかの連絡だけでも、次からはしてね?」
「…ごめんなさい、マスター…」
「うん、良い子だね。お腹空いてない?
メーコちゃん何かある?」
「はいはい。次したら1ヵ月ご飯抜きだからね」
餓死します。しかし誰も突っ込めない。
「レンッ!!」
「リン…、あー、ごめん。起こしちゃった?」
「うんん…。それより」
「    」
レンがリンの耳元で何か囁いた。
耳を澄ましてもそれは聞き取れなかった。
「ほっぺ…大丈夫?」
ミクが赤くなった頬を撫でる。ヒリヒリするのか少し顰めっ面をして笑った。
「ありがと、ミク姉…。大丈夫」
「全力でしたね、メイコさん…怖」
最後はぽそっと呟くミクオ。レンが小さく吹き出した。
「最強の姉貴だからね。まぁ心配掛けてこれで済んだんならラッキーだよ」
「…レン…」
何を言ったら、何を聞けば良いのかわからずただ名前だけ呼ぶ。
「ただいま兄さん。ごめんね、逸れたまま連絡も出来なくて」
普通に。何事も無かったような返事。何より
「レン君カイトさんの事呼び捨てじゃなかった?」
「今日それで喧嘩したんだよ。な、兄さん?
やっぱなー、呼び捨てはプライドが許せないんだと。兄貴としての少ないプライド、守ってやらなくちゃな♪」
皆に囲まれながらキッチンへ向かう。メイコ姉さんが簡単な、でも栄養もちゃんとある食事を作っていた。
「ちょっとアンタ達。もう寝なさいよ」
「ヤダー!!」
「あら、逆らうのかしらこのお子様達は。良い度胸ね〜♪」
蜘蛛の子を散らすかのように皆そそくさと階段へ向かった。俺は残っていた。
「カイト、アンタも寝なさい」
「…」
「逃げないよう捕まえといてあげるから」
レンに聞こえないよう小声でやり取り。僕はおやすみを言って部屋へ戻った。

**********

次の日、と言っても帰ったのが日付が変わってからだったから明け方になるけど。
『夜が明けたら話すから』
帰ってきた時にリンに呟いた言葉通りに、俺はリンの部屋に入った。
ノック無しで入ると怒る(俺も怒る)けど、今日は何も言わず、まだ薄暗い部屋の中リンはすでに普段着に着替えて待っていた。

俺は全て話した。楽しかった事も恥ずかしかった事も、悲しかった事も…。
静かにただ聞いていただけのリンが、ごめん…と謝った。俺はリンを責めなかった。

知りたかった本音は、
望まない言葉で知ってしまった。

部屋に戻り、鍵を掛けてずるずると座り込んだ。
「…っ…ふ」
部屋が、防音で良かった。
俺は大声で泣いた。

「わあぁあ"ぁあああぁ"っ…」
名前を呼びたかった。もう呼べない事を今更再確認する。
「ひっぐ…うぁ…う"あぁ!!ああああぁぁぁっ」
溢れるのは嗚咽だけ。吐き出しても吐き出しても止まらない。

なんで感情なんて持ってるのだろうか…。
こんなものさえなければ、ただ歌うだけの人形なら良かった。
そうすれば、こんな思いを知らずに済んだのに…。ただの機械のように、与えられたコードだけ歌う。
それだけでも人間には充分だろう!?
感情を持った俺達が、どうなるかなんて考えなかったのかな…?
「…ぃ…!ごめんなさい」

ごめんなさい。
ごめんなさい。
好きになってごめんなさい。
好きになって欲しいと望んでごめんなさい。

ごめんなさい。
ごめんなさい。
もう困らせないから。
何も言わずに、いつも通りに振る舞うから…。
だから
「い…今だけ…。最後だから…名前」
名前を呼ばせて下さい。
貴方の名前を呼ぶだけで、世界の全てが素敵なモノに見えたんです。
「……ぃと…」
名前が…出てこない。
生まれて貴方に出逢ってから、ずっと呼び続けてきたその名前。
もうはっきりと、呼べなくなって…
「ふぁ…やだよ…。最後に、呼ばしてよ…。…っ。う…わああぁっ…」

そのまま、気絶するまで泣いていた。

**********

―――コンコン。
真上から降ってきたドアを叩く音で目覚めた。
ベットに向かう事すら忘れ泣いていたようだ。もう一度ドアを叩く音がして返事をしようとして
「    」
声が出なかった。泣きすぎて枯れたのかな…?
「…レン…」
カイトの声だった。心臓が跳ねる。
「寝てる…?遅かったし、寝てるよね…」
会いたい気持ちと、辛い気持ち。どっちつかずの心は、ドアを開く事も物音をたてる事すら出来ずカイトの言葉を待った。
「……また、話がしたいな…。おやすみ…」
ドアの前から去っていく。

行かないでと駄々を捏ねる事はもう出来ない。
良い弟になると決めた。もう諦めると。

この部屋から出る時は、笑っていなければ…。

**********

あれから何日か過ぎた。
レンは何事も無かったかのように、本当に普通に接している。違うのは、あれから一度も名前を呼ばなくなった事。
それと、僕と二人きりになら無いように、必ず誰かの側に付いていた。
「…はぁ」
今更遅いとはわかっている。だけどもう一度話がしたい。だけど相手がそれを避けている。
「あぁあ〜…」
「五月蝿いわよカイト。目障りだから部屋でやんなさい」
「…メイコ姉さん、好きな人の事で悩んだ事あるの?」
凄く不可解な顔をされた。視線を剃らしてやっぱいいですと足した。
「だったらウジウジしてないで当たってきなさいよ。あ、レン。マスターが呼んでたわ」
「俺?」
リビングに現れたばかりのリンレンに声を掛けた。
レンの声が耳に響く。
(すみませんメイコ姉さん。すでに色々試したんです…)
何とか話を…と、捕まえようとして逃げられる。名前を伏せて言付けを頼んでも現れない。もしくはリンが着いてくる。
二、三言葉を交わしてリンレンがリビングから出ていった。やはりレンは此方を、僕を見なかった。
「マスター、久々に歌を書いたみたいよ」
「……え?」
「しかもラブソング!!あのマスターの恋の歌…どんなのかしら?仕上がりが楽しみだわー!!」
「……マスター…」

**********

「マスター何の用なのかな?」
「知らね」
個人で練習出来るように自室は防音。
皆で合わせたり動いたり出来るよう、地下に専用の部屋が設けられていた。階段を降りてドアをノックする。
「マスター、俺です」
「私も一緒ですけどいいですか?」
中に入って一応リンが断りをいれる。特に気にするまでもなくマスターからOKの返事が返った。
「いらっしゃーい♪はい」
何の説明もなく差し出された数枚の紙切れ。
一枚は文字が沢山。他は楽譜になっていた。
「……」「あ、いいなー!!」
それを見て絶句する俺の横でリンが羨む声をだす。しかし直ぐ様その表情を、俺同様曇らせた。
「ふふっ♪なかなか可愛らしい出来だと思うの♪いや〜、こんな才能も持ってるんだね〜」
「…マスター」
「ま、こんなのもたまには良いんじゃないかなと思って。それでね、それまだ歌詞が途中なの。その続きを」
「マスター…、俺、これ歌えない…ごめんなさい」
「レン君?」
内容なんてろくに見ずに突き返した。
感情を悟らせたくなくて、俯いたまま一礼をして部屋を出た。
「どうしたのかなぁ…。ラブソング、嫌いなのかな…」
「な、なんだったらリンが歌うよ?レンのお姉ちゃんだもん!」
紙を取り上げ、今一度歌詞を見る。
ありきたりな、よく聞くような内容の歌。
マスターが言ったように未完成のそれは歌としてはとてつもなく短い。
そして、その歌い手

デュエット…鏡音レン・KAITO

「ねーマスター。なんでこのペアなの?」
普通、ラブソングなら男女が基本だ。同姓の場合もあるが、今の状況が状況なだけに複雑だ。
マスターは、知らないのだから空気読め!!とは言えないが…。
「ん〜、なんでって言うか…。

その歌詞、カイトが書いてきたのよ?」
「はあ?」
リンの口からおおよそ可愛い女の子らしくないどす黒い疑問符が出た。マスターびっくり。
「だ〜か〜ら、ボーカロイドにもこんな才能あったのねって。カイトがレン君と歌いたいって…。ダメだったのかな?」
それを聞いてもう一度、歌詞を見る。
ありきたりだと思う、その詩。だがこれがカイトからレンへ向けたメッセージだとしたら…。
「………マスター?これやっぱりレンに押し付けてきても良い?」
マスターからの了承を得る気もなくリンは超特急でレンを追い掛けた。
「……じゃあ、曲やっといて良い…?」
広いレッスン室に取り残された女性の声が小さく響いた。

**********

最低だ!!最低だ!!
階段を駆け上がり上りきった所で一息ついた。
ボーカロイドが歌を、ましてや自らの主人の創った歌が歌えないなんて言うとは…。
ありえない!!でも絶対に無理だ…。
「アイツと…ラブソング…」
「…レン?」
声を掛けられヤバイと思った。
回りに誰も居ない。リンを置いてきぼりにした事を深く後悔する。
「に、いさん…」
リビングから出てきたのはカイト。手には小さな紙切れと買い物袋。どうやらメイコに買い出しを頼まれたようだ。
「あの、レン…。マスターは、あの歌…」
「俺、歌わないっ」
「レン…?」
「兄さんとは絶対に歌わない!!」
嘘。
あの日からずっと嘘を重ねていく。そうしなければ自身を守れない。
「レン、僕は」
「近付くなっ!!」
伸びてきた手の先が俺に辿り着く前に二階へと駆け上がった。
振り返らない。見ない、聞かない聞こえない!!
『家族』でいなくちゃいけない。それを彼は望んだのだから…。
ドアの閉まる音がした。入れ替わりにリンが地下から上がってきた。
「お兄ちゃん…」
「リンちゃん…。
あ、それ…」
リンが握り締める紙に気付いた。
「ごめんね、お兄ちゃん…。でも必ず返事書かすから。だから」
一階から地下へ続く階段。下に居るリンの表情は見えないが声色は真剣だった。
「だから覚悟しててねー!!」
「へ?あ、ちょっとリンちゃん!?」
黒を帯びた笑顔を向け手を振って二階へと駆けて行く。双子に順番に取り残されたカイトが階下で立ち尽くす。
「あ、カイト兄さん!!良かった〜まだ居た♪ミクも一緒に行って良い?」
「え?あ、うん。ミクも何か欲しいのかい?」
今はメイコの言い付けを果たさなければ…。正直後が恐い。
玄関を抜けて、二人は買い物リストの確認をしながら出掛けて行った。

**********

今日はほんとーに最悪な日だと思った。
良い弟になると言ったのに…。何度もそう言い聞かせているのに…。
「…はあ」
ドゲシッ!!
凭れていたドアが僅かに振動した。心臓が飛び出すかと思った。
「……リン!!普通にノックしろ!!」
なぜかリンは俺の部屋だけ蹴りでノックする習性がある。理由は不明。
ドアを開けて叱り飛ばす。いくら丈夫な作りとはいえ毎度毎度蹴られたらその内ガタがくる。
「うっさいわね。男がんなちーさい事気にすんじゃないわよ、ほら」
渡された(投げ付けられた)のは先程の歌の紙。
「いらねって…」
「レン、アンタ男ならカイトお兄ちゃん襲いなさい」
「恥じれー!!」
久々に相変わらずさらっとど偉い事言う双子の姉。
思わず素で叫ぶ。
「あのね、レン?何の為にこの部屋防音なの?何しても外にバレない為でしょ?」
いえ姉さん、個人練習の為の防音設備です。けしてそういった事の為に防音されてる訳ではありません。
「どーせ1人でナニかはやってんでしょ。良いから犯りなさい」
「当て字の変換止めろ!!」
「その気になるまでとことん言ってあげる。
背丈が多少低いハンデなんて気にする必要ないわだって腕力は私達の方が上だもの抵抗されたって簡単に押さえ込めるわだから良い今すぐお兄ちゃんを」
ばたんっ!!息継ぎ無しで延々とヤバイ内容を並べまくる。
これ以上関わっちゃいけない。本能的に察してドアを閉めた。
「……勘弁してくれ…。抑えてんのにさ〜…」

**********

夕食時、ミクにせがまれて大量に買ったネギが鍋を埋める。カイトの頭にはたんこぶ…。
「お馬鹿な誰かのせいで急遽鍋になりました。具は殆どネギよ、とくとよく味わいなさい!!」
「ごめんなさい」
謝ったのはカイト。我関せずと言うより自分が原因とは微かにも思っていないミクは嬉しそうに頬張る。
まあ拳骨1発だけで済んで良かった…。
手を合わせてカイトもいただきますをする。

ほぼネギだけの鍋でもやはり美味しかったのが救いだった。

食事を終え、今日の片付け当番
「あ!リンがする!カイトお兄ちゃん、手伝ってくれるよね!?」
姉妹に甘いカイトはリンに救いを求められ快く引き受けた。
「ごめんねお兄ちゃん」
「平気だよ。自分から進んでやるリンちゃんは偉いね」
カイトが洗い、リンが拭く。大人数の食器も、二人でやれば楽だった。
「…お兄ちゃんさ、レンと話したくない?」
がこんっ!! 泡まみれのお鍋が流し台に滑り落ちた。驚いた顔でリンを見下ろす。
「リンが協力してあげるよ」

**********

特に何もする訳でもなく、部屋で無駄に過ごしていた。このまま溶けて無くなっていけそうだ。
「おーいレーン!!」
ゲシゲシゲシ!!ドアが勢い良く蹴られる。
放っておくと流石に次こそ壊されるんじゃないかと慌ててドアを開放する。
「だから止めろっての!!なんだよ」
「プレゼ〜ン〜ト〜♪」

ドンっ!!(リンが何か俺に向かって突き飛ばした音)
ムギュッ!!(避けきれずそれが俺にぶつかる音)
ドサッ!!(そのままの勢きで後ろに倒れる音)
カチン(ドアの鍵が掛かる音)
ばたんっ!(勢い良くドアが閉まり)
ガキョッ!!(無理矢理閉めたドアの鍵が壊れた音)
この間、3秒。

「〜〜っ、ぅおいッ!!」
「たたた…、り、リンちゃん…」
「!!!!!!」
いきなりの事にリンを怒鳴ってやろうとして、自分に覆い被さっているそれに驚愕する。
「かっ…兄さ…ん」
「リンちゃん酷い…、突き飛ばすなんて聞いてないよ…」
「……っ!!」
ドアに駆け寄りガチャガチャガチャ。回らないドアノブの先からリンの声。
「ごっめーんレン〜!?壊しちゃった〜♪」
「ワザとにも程があるわーっ!!Σ( ̄□ ̄;)」
「まぁゆっくり楽しめば?

あ、そうそう。もうすぐ雨だって。100%の大雨で電気が断線してお部屋真っ暗♪
レンの嫌いなお化けが出るわよ〜♪おーほっほっほ♪」
高笑いと共にリンの声が遠退く。
「ちょっ、色々待て!!ワザと過ぎる上に何を楽しめってんだ!?この家停電してもすぐサブに切り替わるだろっつーか断線すんのは電気じゃなくて電線だ!!後この家お化け出んの??!!
おいこら待てー!!」
「れ、レン?此方からはきっと聞こえないよ?」
「っうわ!!」
ドアに張り付いてた俺の肩にカイトの手が置かれた。反射的に払い落として反対側へ逃げ距離を取る。
「…あ」
「ご、ごめん!!でも近寄らないで!!」
あのバカのせいで落ち着かない!!どうしてくれるんだこの状況…!
ドォーン!!
「うっわあぁああーーーーーーッッ!!」
「わあああッ!?」
窓際に逃げた俺の背後から凄まじい大音量の落雷。
何も考える間も無く口から驚きの雄叫び。それに驚きカイトも叫んだ。
「な、か、…あ"ーー…」
「レン…いきなりの大声出さないでよ…ふぅ」
力が抜けたのか、カイトが壊されたドアに凭れながらズルズル座り込んだ。
相手に動く意思が見受けられず、俺もそのまま窓際の机に乗り上げた。
「行儀悪いよ?」
「……」
無視無視無視!!
居ない見えない聞こえない感じない!!
「返事くらいは返してよ?」
「……」
あれは幻。もしくは幻覚幻聴の類い!!
…一緒か…?
「………ぁ?」
「………っ!?」
ぶぅぅ…ん。という音と共に部屋の明かりが落ちた。まぁすぐつくけど。
「……」
「……」
「……。…付かない…ね?」
マジ勘弁して下さい。薄暗い部屋の中で、なんで耐久レースしなきゃならないんだ。
くそっ…!アイツの匂いが部屋に漂うよ…。
一向に明るくならない部屋。完全に真っ暗ならあの水色もこの目に映らなくて済んだのに…。
「…あのさ、あの歌…見た?」
「…。…はぁ…。
俺、兄さんとは歌えない…。俺の声が欲しいんならリンでも構わないでしょ?似てるし」
諦めて返事をする。このまま無言で通すと不都合なので(作者が)
「僕は…レンが良いんだけど…」
「俺は兄さん以外が良い」
「……、もう、僕の事は嫌い?」
今日、心臓何個位ショートさせただろうか…。明日マスターにでもメンテナンスして貰おうかな…。
「…嫌いじゃ、ないよ」
「本当に?じゃあこの…、僕が書いたこの歌詞に返事をくれないかな?」
ひらひらと、その辺に放っておいた紙を手に揺らす。
「え…。アンタが書いたの?ボーカロイドの癖に?」
驚きを通り越して呆れた。ボーカロイドが自ら作詞するなんて聞いた事がない。
「レンに知って欲しかったから…。僕の気持ち」
アンタの気持ちは既に嫌になる位知ってる。
だからこれ以上拒絶の言葉は、例え紙切れの上でも見たくない。
「レン…僕、レンが好きなんだと思うよ?」
「…なんで、疑問系…」
それ以上何も言わないで欲しい。
「やっぱり…もう嫌われてる?」
「…」
今更好きなんて言わないで…。
「なんで、さぁ。俺の事なんか好きになっちゃったの?俺なんかしたっけなぁ〜?」
「名前…」
悪意を込めた俺の台詞。
「名前を呼んでくれなくて…寂しいんだ…」
「俺に呼ばれたいの?」
カイトが頷いたのが暗くてもわかった。
ヤバイ…。理性が切れそう…。
「もう兄さんって呼ばないで欲しい…。レンに名前を呼んで貰えないと」
「カイト」
何の感慨もなく名前を呼んでやる。
俯いたカイトの顔が俺に向く。机の上に座っている分今は俺の方が見下ろす形だ。
「カイト」
もう一度。感情の籠らない無機質な声で呼ぶ。
あの日から呼べなかった名前も、気持ちを込めなければ口から出せた。
「カイト、カイト…カイト…。呼んで欲しいなら幾らでも呼んであげる。でも呼んであげるだけね。

もう愛しい気持ちは含ませてあげられない」
「……」
見下ろすカイトは小さい…。リンの言う通り、簡単に犯せそうだ…。
「どうしたの?ずっと呼んで欲しかったんでしょ?ほら、カイトカイトカイト」
「やめろ!!」
カイトが耳を塞ぐように頭を抱え込んで制止の声をあげた。
「アンタが呼んで欲しかったんだろ。ちゃんと聞けよカイト?」
「違う…全然違う!!」
「やっぱ拒絶するんじゃんか。俺の事好きなんて言うのも、どうせ他の奴等の事好きってのと同じなんでしょ?

俺の『好き』とアンタの『好き』、
意味が違うんだよ」
暗い部屋、大好きな人の色、声、姿…。その人から紡がれる望んだ言葉と望まない気持ち。
色々混ざって、もう堪えられない…。

欲しい…。
これが欲しい。奪っても良いかな?良いよね?

机から降りてカイトの前に立つ。足音でカイトが俺を見上げる。
「ねぇ兄さん?俺の事どれ位好きなの?
誰よりも何よりも好き?」
「う、うん…」
「嘘はダメだよカイト。俺なんかがアンタの一番になれるはずないでしょう?だって、

今から酷い事するんだから」

リンの言った通り襲ってしまおうか…。首を擡げる欲望が熱を生む。
「…がっ!?」
座ったままのカイトを蹴り飛ばした。
細い躯は簡単に地に平伏す。
「痛…レン!?」
転がったカイトの肩に片足を乗せ踏みつける。
「ね、俺の事どれ位好き?どれ位?どの程度?何と比較すれば悩む?俺よりも好きな物なんて、幾らでもあるんじゃないの?ねえ答えなよ」
「痛っちょっと…痛いってば!!レン!!」
「答えろよ」
グッと足先に力をいれる。退けようとした手にも構わず更に力を込める。
「れ、レン…止めてよ…」
「答えになってないだろ」
「あぁあっ!!」

気分が高揚する…。見下ろしたカイトの苦痛に歪む顔が心地好い…。
「ねえ、じゃあ質問変えよっか?
カイトは俺とSEXしたいと思ってる?」
「…それは」
「嫌だって顔してるね…。
でも俺は犯りたいんだよ。前に俺の電脳サビてんじゃないかって言ったよね?そんなのとっくだよ。
こうやってアンタの上に乗っかって無理矢理尻の穴に突っ込んで喘がせたいの。
アンタに逢った時からずっとそんな疚しい事考えてたの。ほら、

俺とアンタの『好き』にはとんでもない差がある。このまま犯されたい?《人工心臓(ここ
)》に消せない傷痕、メモリーに刻んでやろうか?」
「…」
本心か自分でもわからない。自分なのかすらわからないけど、もういいや…。このまま既成事実作っちゃえば、逃げられないよね…。
カイトの表情を高い位置から見下ろすのはなかな
かに良い気分だ。
「…なんだよその表情…」
踏みつけられながら、それでも強く睨み返してくる瞳。その瞳には俺が酷い事する筈がないと訴える色が見える。
「…っ、コノォッ!!」
ガンッ!!力だけに任せてドアを蹴破った。
外開きのドアは以外と簡単に吹き飛んだ。
「出ていけ!!今すぐ!!」
「レン…!?」
「襲わせるなよ…っ。もっと嫌だって止めろって叫んでよ…。拒絶しろよっ…。中途半端に期待させないでよ…」
「……ごめん…」
俺の痛ましい姿を見て、解放された体を廊下へ滑り込ます。ドアの無くなった、廊下と部屋の境界線。
カイトが此方を見て何か言おうとして止めて、走り出した。

「壊しちゃった…のは、俺じゃねー…」

[*vorn][hinten#]

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