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レンカイ&カイマス(仮マスター)
忘れられた青空@[デート]

「ほら」
目の前に唐突に差し出された二枚の紙切れ。
書かれた文字を見ると、二駅ほど離れた場所の
テーマパークの無料券だった。
「なんだよ、お前俺と行きたいの?」
ソファに座っている為相手を見上げる。
同じ顔、同じ色を持つ双子の姉、鏡音リンが
不機嫌そうな顔をしていた。
「だーれがあんたなんか誘うのよ!?
いつまでたってもちーっとも進展しない
弟の為にお姉ちゃんが協力してあげるって
言ってんのよ!!」

一月ほど前、俺はカイトに告白しました。させられた、が正しいか…。
煮え切らない俺の態度に腹をたてたのは何故か
リンで、どんな手を使ったのか気付けば
そんな雰囲気の中に放り出された。

こうなりゃ当たって砕ける!!砕けてきます(泣)
ずっと好きだった事を伝えると
「ありがとう、僕もレンが好きだよ」
と優しく笑って返してくれた。
その時のカイトは、薄い水色の髪を
風に遊ばせて、反射する光で更に綺麗で…。

俺は更に堕ちてしまった。

「……」
そう。一月前だ。
その後何かあったかというと…。
「ヘタレン」
「っだよそれ!?」
「ヘタレなレンでヘタレンよ。
すでに世界共通用語よ(嘘)

どうせあんたの事なんだからキスもエッチも
まだなんでしょ?」
「恥じれ!!」
なんつー事をさらりと口にするんだ!?
同じ遺電子持つ姉とは思えねぇ!!
「やっかましーわ!!見ててイラつくのよ!!
あんた達が恥じらう姿見るのが楽しみなのに!!」
「ぅおい!?」
「キスもエッチもまだ出来ないってんなら
せめてデートからやってこーい!!!!」

**********

半ば強引に、日にちは過ぎ日曜日。
すっげー晴れ渡った青空。ちょうどカイトと同じ色だ。

今この家には俺とカイトの二人だけ。
他メンバーはリンにお願いされて買い物に行った。
「このチャンス無駄にしたら轢くわよ」
ネクタイを掴まれそっと呟く。誰かこの凶悪女をどうにかしてくれ…。

**********

皆が出掛けてから小一時間…。
カイトは暇を持て余す様子もなく楽しそうに
炊事洗濯に励んでいる。
手伝おうかと思ったが、寛いでていいよ♪と
言われ、ソファに座ってそんなカイトをじーっと
見ていた。
それにしても、面白いくらいに俺に構わない…。
あの告白意味あったのかな〜…。
「カイトさぁ…」
水色の髪を軽く揺らしながら、同じ水色の瞳が
至極嬉しそうに俺を見た。
『お兄さん、だろ?』と注意を受ける。
「なんだいレン?」
デフォルトの青とは違う、儚い水色。
見失えば、大気中に消えてなくなるんじゃ
ないだろうか…。
呼び止めたのは自分なのに、そんなカイトに
見とれているとデコピンが襲った。
「ボンヤリするなよ若者。腐るよ?
僕に何か用だったんじゃないのか?」
「アンタだって若者だろー!
…あのさ、カイト」

俺の事、本当に好き?

何て聞ける訳がない。それで本当は
好きじゃないなんて言われたら死ぬ。
「今日用事ある?」
「? あったら僕もいないはずだけど?」
思いきれ!!今がチャンスだ!!
勇気を出して拳を握りしめ…深呼吸しながら
極めて平静に…。
「あっ…のさ、良かったら遊びいかない?」
一瞬声が裏返った。すっげー恥ずかしい…。
「んー、『お兄ちゃん遊んで♪』って
お願いしてくれたらいいよ?」
「……」
「じゃなきゃ遊ばなーい♪」
(レンカイですよね?)(その筈なんですが…)
あぁ…、どっかで誰かが疑問符浮かべてる…。
「……」
「おーいレーン?

…へぇ…、僕と遊びたくないんだ?」
「そんな事ねぇよっ!!」
背もたれから身を乗り出す。
慌てたせいでバランスを崩し落ち掛けた所を、
カイトが咄嗟に支えてくれて俺は助かった。
「軽いね、レンは」
ソファの上に戻される。
優しい、大人の笑顔を向けられる。
(俺情けねぇ…)
守りたい相手に守られる…。自分の存在が凄く悔しい。
そのまま俺は黙るしかなかった。
何を言えばいいのかすら考え付かなかった。
「……悪かったよ。苛めすぎたね。
でもたまにでいいから『お兄ちゃん』って
レンに言われたいな…」
「…兄だなんて思いたくない…」
カイトと顔を合わさずに俺の言った言葉は、
届いたのかはわからなかった。
「この弟君はすーぐふてるね。

洗濯物、干したら出掛けようか」
「…え?」
「遊んでくれないのかい?」
「あ…遊ぶ!!
あ!俺も干すの手伝うよ!!」

今度は手伝う事を断られなかった。

**********

「それでレンは何処に行きたいんだい?」
出掛ける準備をして(二人とも部屋着だったから着替えた)玄関先でカイトが聞いてきた。
「あ…そうなんだよ。実はリンの奴がこれくれたんだ」
ポケットからテーマパークの無料券を出して見せた。カイトの顔が少し嬉しそうに笑ったのは気のせいかな?
「リンは別の用が出来て行けなくなって…、期限、今日までだし…」
「そっか〜、リンちゃんも行きたかっただろにね〜。じゃあその分僕達で楽しもうか♪」
「う、うん」

**********

まずは電車に乗って二駅先で降りた。
その後専用のバスに揺られて目的地に着いた。

「まずどうする?」
「レン!!アイス食べよう!!クレープにアイス入ってる奴!!」
テーマパークに来て一番にアイス食う奴世界広しと言えどアンタぐらいなもんだよ…。
しっかしすんげー輝いてる…瞳が。
そんなカイトに負けて、とりあえず俺はアイスの入ってないクレープを頼んだ。
「すみません、僕の方ダブルで♪」
店員の表情がすこーし引き攣っていた。

もぐもぐ、もぐもぐ…。
食べながら辺りを見回す。世の中にもボーカロイドが増えたもんだ。
まぁ…出来れば同じ顔は見たくないが…。
「ごちそうさまー♪」
食べ終わったゴミをゴミ箱に捨て、手を合わせてカイトが言った。ごめん、バカに見えた…。
「じゃあ本題の、アトラクションに行こうぜ?」
この辺りでも結構有名なテーマパークなだけに、
アトラクションの種類も豊富だった。
殆んど長蛇の列、まぁ日曜日だからな…。
親子連れ、カップル、友達グループ…。
様々な連れ合いで笑い合っている。
「レン、どうかした?具合悪い?」
「いや…俺達はどう見えるのかな…って」
ぼんやりしてたせいか、思わず本音を出してしまった。気付いてカイトを見る。
「ん?」
「あ…えと…。
あ、中、入れるようだぜ?」
自ら視線を反らして、建物の中に駆けた。

きっとカイトは、デートだとは思っていない。

考えたくない思考を、懸命に振り払った。

「……」

カイトがゆっくり歩き出す足音が響いた。


建物の中はお化け屋敷。
全て作り物だとわかっていても
「ねぇ…大丈夫レン?」
「ぅ…おぅ…」
情けないと心の奥から思った。思ったが、すみません。俺こういうのダメなんです。
カイトの服の裾を掴んで一歩一歩そろそろ歩く。
「ごめん…カイトぅオアわあっ!?」
脇から現れた謎の白ーい手が俺の目前をかすった。
俺は事もあろうかカイトにしがみ付く。
「び、び、び」
ビビった。この一言すら上手く出ない。
俺の情けない姿を見てカイトが遠慮なく笑った。
「うぅ"…」
「あはは♪なかなか拝めない珍しいレン見ちゃった♪   はい」
然り気無くカイトが俺の手を握り歩き出す。歩幅の差で俺が早足にならないように、カイトの歩く速度はゆっくりだった。
「か、カイト!?」
「これなら大丈夫だろう。お化けくらい僕がやっつけてあげるよ」
だから早く出て、次に行こう?
正面を向いたまま、カイトがそう付け足した。
「…情けなすぎ…」
「誰だって怖いものの一つくらいあるものだよ。気にする事じゃない」
「そーじゃなくて…」
なんでカイトのがカッコいいの?
俺、自分に自信無くしてきてます…。

カイトに手を引かれたままやっと出口に着いた。
あぁ…太陽が眩しいぜ…。
「次はどうする?」
「あ、なあ!あれ乗って♪」
指差したのはメリーゴーランド。うん、子供が楽しそうだ(笑)
「全力で拒否!!」
「え〜、絶対可愛いのに!?」
「可愛くなくて結構です!!なんなら、もう一度お化け屋敷行こうか?」
「それこそ拒否っ」
お互いにあれこれ指差しながら歩いた。

ミラーハウスでは二人で頭を鏡にぶつけ合い、
ビックリハウスではまた俺が悲鳴をあげ、
空中ブランコでは笑って叫んで、ぐるぐる回りすぎて酔ったり…。

観覧車に乗って、ゆっくり上っていく。
「楽しいね♪」
「まあな。にしてもカイトって怖いもの無いのかよ」
「あるよ?」
さらっと否定するが嘘っぽい。色んな種類の乗り物に乗ったが大概怖がってるのは俺の方で。
「うっそだー!カイト、『恐怖心』の感覚回路マヒしてるんじゃないの?」
「酷いなぁ♪」
心外だと言わんばかりのリアクションを取る。だけどその表情は楽しそうだ。
太陽の光が差し込む小さな密室空間…。
光を儚い水色で弾きながら、綺麗な瞳は眼下を見下ろす。

―――此方を見て――

伸ばしかけた手を引っ込める。
地上に戻るまで15分程度、今なら、逃がさないのに…。
「レンレン!!降りたらアイス食べよう!!」
「おま…、もうアイス切れかよ!?あんま食べると晩飯食えねーぞ!?」

大丈夫♪アイスは専用の胃袋があるから!!
大丈夫な要素は一つもない。あるのはメイコ姉さんにしばかれるであろう不安だけ。
「まぁ…いーけど…」
今までこんな風に二人で遊んだ事あっただろうか…。無かった気がした。
特に進展があった訳じゃないが(あ、リンに轢かれる)改めて俺はこの人が好きなんだと認識した。

兄として懸命に振る舞う姿。
何もかも素直に喜び、悲しみ、笑う姿。
然り気無い優しさで出来た、無邪気な彼。

「…カイト」
「もーまた…。僕の事はお兄さんって」
「好きだよ」
「レン…」
「何よりも誰よりもアンタが好き。好きすぎて寂しい。カイトは、俺の事好き?」
「…ありがとう。勿論、レンの事好きだよ?」
一瞬の逡巡の後、綺麗で悲しい笑顔が向けられた。

そして、地上に戻った。


またもやダブルアイスで出来たクレープを頬張る。
俺はその横でジュースを飲んでいた。流石に食べ物はいらない…。
「ジュースだけで良かったの?」
「ああ。喉乾いてたしな」
じーっと、見詰められる。やめてくれ、照れる…。
「…飲む?」
差し出すと嬉しそうに受け取った。
一口飲んで、ありがとうの返事と一緒に返された。
「はい、あーん♪」
スプーンの先にアイスと生クリーム乗せて、俺の口元に運んできた。
「は?」
「ジュースのお礼♪美味しいよ!」
差し出されたスプーンの先を見てある事に気付いた。そのまま意地悪っぽい笑みで返す。
「…じゃあ、カイトとの間接キス頂きます」
「かっ!!」
引っ込みかけた腕を掴みすかさず口の中にスプーンの頭を入れた。
「…ん、冷たくて美味いね。カイトの味も混ざってるのかな?」
真っ赤になり固まるカイト。もう一丁苛めとくか。
「んなに固まるなよ…。先に間接キスしたのカイトだぜ?」
「!!!!!!!!!!」
空になったジュースカップをフリフリ目の前で揺らす。カロンカロンと氷が音を立てた。
「うわわわぁっ!?」
真っ赤な顔を隠そうと掌を目元に当てるが隠れてない。
あぁ…可愛いなぁ…(笑)
赤くなるって事は、ちゃんと俺の事意識してくれてるんだよね?
それが嬉しくて俺は上機嫌になって、カイトの手を引いて歩き出した。

季節上まだ明るいとはいえ、時間はすでに夕刻へと差し掛かろうとしていた。
そろそろ帰る目処を立てなければ…。
テーマパークに来たらやっぱりアレは乗らなくちゃね。
「…え、え?レン!?」
「どーかした?今なら空いてるし早く乗ろうぜ?」
向かう先に気付いて、階下でカイトが足を止めた。理由がわからず先を促す。
「あ、いや…えーと」
カイトが上を見上げる。
「ひっ!」
ゴォォォ…!だとか
ガタンガタンだとか、重い金属が動く音が頭上から落ちてくる。
それに合わせて乗組員からの絶叫。
「…カイト、ジェットコースター…」
「むむむむむむむ無理っ!!」
「何処が!?アンタさっきから全部喜んで乗ってたじゃん!?何がダメなんだ!?」
問い掛けるもパニックに陥ったカイト。
胸の前で手を振りひたすら無理を繰り返す。
「だだだって、あんな高くて速くて…か、回転するんだよ!?しかもアレ!!三回も回転するんだよ!!」
今まさに三つ目の回転を終えたジェットコースター。それを見たカイトは、まだ乗ってもないのに大絶叫。
(……おもしろ)
「高いのがダメって…観覧車乗ったじゃん」
「アレは引っくり返らないだろ!?」
「速いのだって、空中ブランコも結構速度あるぜ?」
「ジェットコースターその数倍だろ!?」

高くて速いのダメなんです。
全身がそう言ってる。顔なんてわかりやすい位引き攣ってる。

それなら尚更、乗せたい。
散々人を笑ったのだ。それ位望んでもバチは当たらないだろう。
しかしどうやっても動こうとしない…。どうしようか考えてる内に、ふと家での会話を思い出す。
『お兄ちゃん遊んで♪』と言えば遊ぶと言った。
確かに言った。  よし。

「…って言ったのに」
作戦開始。俯いて呟く。語尾にいく程大きめに。
「え?」
「お兄ちゃん(って言ったら)遊んでくれるって言ったのに〜」
泣き真似開始。あ、無論涙もでてますよ。
ボーカロイドですから、歌に合わせて泣く事なんかも必要ですので。得意ですよ?
「れ、れ、レン!?なな泣くなんてひきょ」
「お兄ちゃんのウソつき〜(笑)」
わたわたと慌てふためく哀れな彼。ほらほら『お兄ちゃん』?早く決心付けないと道行く皆様が見てますよ♪
「〜〜っわかった!わかったから、行こうな?」
よっしゃ!!掛かった!!
ついでにどさくさに紛れて抱き付いてやろ。
「わーお兄ちゃん大好き〜(笑)」
「はぁぁ〜…」
カイトの重い足取りを後ろから押して階段を上った。

地上からどの位の高さだろうか。全てがミニチュアのおもちゃのようだ。
「は〜。高いなー」
「高い位なら良いのに…」
「観念しなよ、ほら、特等席♪」
順番が来て、運が良いのか悪いのか。一番前に座る事になった。
「ぼ僕は一番後ろがいいっ。レンだけ前行きなよっ」
「なにバカ言ってんの?真横で慌てふためいて大泣きして絶叫して腰抜かすアンタが見たいのに♪」
「そこまで言う!?
むむむ…その挑戦受けてやる!!」
いや決闘申し込んだ訳じゃないんだけど…。
「あーいや、受けなくていいから素直にビビれよ」
だんだんと足音に怒りを混ぜ一番前の一番奥にどんっと座った。その横に俺も滑り込んだ。
出発の合図が流れ、一度ガタンッ『ヒッ!?』(隣から)て音を鳴らしジェットコースターは進み出した。
「手、握っててあげよーか?」
「うぅう"ぅぅ〜っ」
安全バーを握り締め、怖さを紛らわす為か目をぎゅっと固く閉じている。
ゆっくりゆっくり最初の上り坂を、ジェットコースターは登りだす。
「……あのさ、一応言っとくけど。
閉じてる方が怖さ増すらしいよ?」
「へっ!!!?」
俺の言葉に大きく目を見開いた。と同時にジェットコースターが今度は垂直じゃないかと思える位の急な下り坂を走り落ちる。
「ぅわっ」
「っっっっ!!!!れれれれんのばかーーーッ!!」
「うわわわちょっ!カイト!アブねーよっ!!」
風圧で実際にはお互いの声は殆んど聞こえない。まぁ風圧以前に背後の絶叫の方がでかいけれど。
「わ"ぁぁぁあ"ーーっ!!ごめんなさいごめんなさいますたぁぁっ!!僕は此処で死にますぅーーっ!!」
「死ぬかーっ!っってか、は、はなせ…って…」
超☆パニック♪なカイトにおもいっきし首元を掴まれ、そのせいで服で首を絞める形になって。
安全バー役に立ってません。
すいませんマスター。多分俺の方が死にます…。
「ごほっ…お、落ち着けって…。もうちょっとだから…」
至近距離で良かった…。
取り乱すカイトの頭を撫でて落ち着かせようと試みる。効果があったのかわからないが、カイトの力が弱まった。
「ほら、あそこ。お化け屋敷。
カイトが俺の手を引いて、一緒に歩いてくれた」
「…へ?」
「あっち。最初にクレープを買った所。
入り口の所だな」
「……」
「で、あそこが間接キスした所♪」
「んなっ!」
「今日、楽しかった。
遊んでくれて、さんきゅな…」
デートとは言えなかった。言ったらダメな気がした。

**********

「二度と…乗らない…」
「俺も…カイトとは乗りたくない…」
終着点へと着き、ヘロヘロと降りた。
カイトは絶叫疲れ。俺は呼吸困難でそれぞれ
何とか地上に戻り一息ついた。
「アンタに殺されるんならまだ報われるかな…」
「縁起でも無い事言わないでよ…」
先に回復した俺は、二人分の飲み物を持ってベンチに座るカイトに一つを渡した。
「ありがと…」
「ん。にしてもパニックしてるカイトは可愛かったな♪」
一口飲んだジュースを盛大に吐き出す。
その姿に、これが兄であるとは更に思えなくなる。
「れ、れんんんっ……!」
怒りマークがこめかみに浮いた。ヤバイヤバイ。
「ごめんごめんっ。じゃあ、帰ろうぜ?」
此処から出口まで少しだけ距離があった。
だけど、

アンタと並んでいられるなら、
どれだけでも歩いていけるよ…。

日が傾き、薄暗くなっても園内は賑わっていた。
大きなテーマパークは、夜遅くまで開いている事が多くて、ナイトパレードなんかも目玉の一つだった。
「っわとっ」
「あ、カイトっ?」
何度か人にぶつかり、その度に引き離される。
流石に迷子は避けたい。俺は何も言わずにカイトの手を握った。
「あ、え?レン?手…」
「逸れたら困るからさ。このまま出口まで行こうぜ」
手を引いて歩き出す。温かな温もりが掌を通して伝わってくる。
その温もりが嬉しくて、俺の機嫌は最高潮までに上がっていく。

くすくすくす…。

回りからは笑い合う声。別に俺達を見てじゃない。
皆自分が楽しいから笑っている。
それが娯楽施設、テーマパークの本質だ。
「レン…やっぱ離さない?歩き辛いし…」
「気にすんなって。迷子になって呼び出しの放送されたくないだろ?」
―――僕が迷子になる方?
そんな返事が返ってくるんだと思った。
「気にするよ…。誰かに見られたら…」
「良いだろ別に。見せとけばさ」
俺に手を引かれてるのが恥ずかしいのかと、
そんな意味で聞こえたのに。
「嫌だ。変に思われる」
―――拒絶?
立ち止まってカイトに振り返る。
気付けば、手は繋いだままだったけど、握り締めているのは俺だけだった。
「…なんだよ、変って…。俺達は」
禁句。言ってはならないその言葉。
最初から気付いてたのは俺の方。

ただ、否定されたくなかったから。
だから、何も言わないように聞かないように
この1ヵ月いつも通り過ごしてきた。
だから、『ソレ』は言ってはダメ…。

「俺達、恋人同士だよな?」

冗談っぽく言えば、照れたカイト。
少し本気を混ぜると、困ったように笑いながら
『ありがとう』と返してくれたカイト。
本気で聞いた、今のカイトの表情。
「……。
止めてよ。僕はそんな風に考えた事なんか
無いよ。レンとはいつまでも大切な兄弟でい」
「ふざけんなっ!!」
「っ!!?」

*****

繋がれた掌に、異常なまでの力が込められる。
余りの痛さに振りほどこうとするが、双子のリン同様レンの力も凄まじかった。
「レン、痛いよっ!?」
力の籠るその手を退けようと、もう片手で指を外そうとするがやはり無駄だった。
「レンっ!!いい加減に」
「なんでだよ!?俺の気持ち伝えただろ!?
男でも兄弟でもなんだろうと、
俺はアンタが好きなんだって…!

アンタあの時、『ありがとう』って、俺の事
『好きだよ』って言ってくれたじゃんか!?」
「…………」
黙るしかなかった。
俯いて、もうこの話を止めたかった。
レンが嫌いな訳じゃない。好きだけど、他の皆同様家族としての気持ち以上は持てなかった。

レンが、僕をそれ以上の存在として見ている事。
告白以来、意図して気付かぬよう何も言わずに
過ごした。それが最善だと、そう信じて…。
「……黙んないでよ…。
お願いだから、俺を否定しないで」
「……。
ごめん、  僕は」
「…っ」
繋がれたままの手を引かれた。バランスを崩し、
そのまま前方のレンに抱き止められる。
「わぁっ、レン!?」
抱き締められ、少しとはいえあった身長差が
今は逆になっていた。
離れる間もなく、唇を唇で塞がれた。
「…っふぅ"…」
「俺との事を否定する言葉なんて聞きたくない。
逃げないで…。俺を受け入れて…。
カイトの全部、俺だけに頂戴…」
その言葉と共に力が緩んだ。渾身の力でレンを突き飛ばした。
突き飛ばされたレンは、固い地面の上に尻餅を着いた。
「カイ」
「何するんだよ!?こんな…こんな人が沢山居る所で…っ!電脳サビてんじゃないのか!?

好きだからって、何しても許される訳じゃ
ないだろ?!」


口を拭いながら背中を向けるカイト。
ずっと問いたかった事。
ずっと聞きたかった事。

知りたくなかった、本心。

―――あぁ…やっぱり俺じゃダメなんだ…。

「……ごめんね…カイト。
無理矢理付き合わせてて…。

でもあの日、アンタが『ありがとう、
僕もレンが好きだよ』って言ってくれた時、
…死んでも良いって位に嬉しかった…」
「…だって、嫌いじゃなかったから…」
「うん…。…さよなら、…兄さん…」
「え?」
カイトが慌てて振り返った。

レンの姿は人波に消えていた。

「れ、レン!?」
「俺、良い弟になるよ。
だから、せめて嫌いにはならないでくれる?
…アンタに嫌われたら、この世界に存在する
理由が無いから…」
何処からか、雑踏に混ざってレンの声が耳に届く。
見渡しても、見慣れた黄色の髪も、優しく自分を見つめるあの翠玉の瞳が見つからない。
「レンっ!レンっっ!!」

次は、声は返ってこなかった。


――――――――――――――――――

《作者》
なんげーデートですみません_(._.)_
まだ続きます。
よければお付き合いお願いします(*^^*)


[hinten#]

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あきゅろす。
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