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レンカイとカイレンのお部屋
崩壊A[終局への序章]《レンカイ》
     れ        ん
レ          ン

何処か遠い所で声が聞こえる。大好きなカイト兄さんの声が…。


やめて…

その声で俺の名前を呼ばないで…。

狂わされる…。
壊れる…。
無くなっていくのがわかるんだ…心が…。

   レ       ん
        ン       レン…。


呼ばないで…これ以上この心の中を、締め付けないで…。


****************


「レンっ!?起きろって」
ベッドサイドに兄さんの顔が見えた。寝ている俺を心配そうに覗き込んでいる。
「…おはよ…何?兄さん…」
気怠い感じが抜けないけれど、とりあえず体を起こし彼に声を掛けた。
「起こしに来たら魘されてたんだよ?慌てて揺すって起こしちゃった…ごめん、痛くなかった?」
肩を掴んで揺すったのか、兄さんがそこに手を添えた。
「…あぁ、へーき…。頭痛いけど、多分夢見が悪かったんだと思うよ。
ありがとう、心配してくれて」
安心したのか手が離れていった。温もりを失った肩が少し寂しい。
それでもまだ心配そうな顔は消えない。
「? どうかしたの?」
「いや…。具合が悪いんなら、今日から撮るPVは無理かな…って」
ちょっと残念そうに笑う顔を見て、そう言えば今日からマスターの新曲PV 撮影だったっけ…。
普段ラブソングばかりで俺と兄さんは一緒に歌う事が少ない。二人とも殆どミク姉かリンとだ。
「へーき…。数少ない兄さんとのプロモなんだから死んでも行くよ」
「えぇ〜俺幽霊になったレンと歌うのかい?
祟られそうで怖いなぁ♪」
ズキズキまだ痛む電脳を無理矢理押さえ込んで、笑って見せるとつられて兄さんも笑顔になった。
「あはは、幽霊になったら真っ先に化けて出てあげるよ?
じゃあ俺、着替えてから下りるから。先行ってて?」
ヘラヘラ笑って答えると了承した兄さんは楽しそうに部屋を出ていった。
簡単に荷造りをして、先程の夢を思い出す。

―――兄さんが欲しくて、兄さんを壊す、夢。

そんな事、したくない。例え実らないと知っていてもそんな愚かな事は決してしたくない―――。



「じゃあ二人とも、留守番よろしくなね?
何かあったら電話するのよ!?」
そんなに心配なら連れて行けばいいのに…。

準備も終わり出発の時間。俺と兄さんが後部座席に乗り、マスターが留守番組のミク姉とリンに念を押していた。

「海の見える場所で寝泊まりするんだって♪ロマンチックだよねぇ綺麗だよね♪」
先にスケジュールを聞いていた兄さんがうきうきわくわくしてるのが、触れ合う体どころかその台詞でもよくわかる。
「男と一緒でロマンも何もないんじゃないの?」
「そんな事ないさ、シチュエーションというのはいつでも大切だよ?特に芸術に関わる仕事ならね」
シチュエーション…。まぁ大事だわな。折角だし使っとくか。
こてんっと隣に座る兄さんの肩に頭を預けた。驚いた兄さんに視線は合わさずお願いをしてみる。
「悪い夢にちょっと魘されちゃってさ…寝不足なんだ。着くまで肩貸して?」
「レン、まるで右肩の蝶だね!?本物だ♪」
受け入れてくれた兄さんは、俺の肩に手を回してぽんぽん叩いた。一定のリズムで叩かれて、肩と手の温もりが安堵感を募らせて…そのまま本当に意識を落としていく。
「俺…攻めたい…ん、ですけど……」

ボンヤリしてきて心の呟きが口に出たけど、兄さんに届いたかはわからなかった…。


「は?」「え、なんて?」
撮影場所に着いて、俺と兄さんがハモった。マスターがとんでもない事を言ったのだ。
「たから二人には〜ラブソング歌ってもらうから〜♪って言ったのよ?」
さも当然と言った風な態度だ。確かにこのマスターの作る歌は純恋愛な女性特有な感じの内容が多い。
「えっと、でも最初は『カッコイイ歌やるよー!!』って言って」
「うんだから、カッコイイカイトと可愛いレン君で、ラブソング♪」
ちょっと待てと。マスターの手中にある台本をひったくる。嫌な予感と共に中身を確認すると、とてもザンネンな内容だった。
「なんで…」
「み…。レン見せて!?」
「最近流行ってるでしょ?BanaN'Iceだったっけ?」
カッコイイよねぇ…♪なんて頬を赤らめるな!?
何に触発されて考え出したこの歌は!?
「兄さん…兄さ〜ん…生きてる?」
「れ、れ、れ…。最後…最後がぁ…」
赤いのか蒼いのかわからない涙目の兄さん。俺達の反応を見て「力作よ!!」なんていう意味不明なマスター…。
内容としてはだいたいこんな。


売春館で産まれ男にも関わらず売春してるレン。
それに嫌気がさし命辛々に逃げ仰せ辿り着いたのが神父・カイトの居る港町の教会。
事情も聞かずただ優しく教会に置いてくれるカイトに感謝しながらその人柄に惹かれていくレン。
その後レンの留守中に追っ手登場。レンが帰った時にはカイト殺され。
キスをして自害。終わり。


「これ絶対不評だって!!つまんないって!!(そこら辺にありそうな気がする)」
「そんな事無いわ!!貴方達がやれば大丈夫!」
「俺も…これは…てか…キス……↓↓↓」
おお、兄さんのテンションが急降下中だ。そんなに俺とキスするの嫌なのかなぁ…。
「ん…?マスター可愛い俺って言ったよね?これ可愛くないんじゃないの?」
「抜かりなく!!ジャーン♪」
黒いドレス。襟と裾がフリフリ。袖とかレースバシバシ目一杯。
ゴシックロリータのすんごい女の子の服。まさか着ろと?
「……ちょっとリンと代わってくるわ…」
「だめ逃がさない♪『KAITO・鏡音レン』でもう宣伝もしてるんだから」
何してやがる。心で叫んでリアルで溜め息。
暴走気味のマスターは頑固だ…。
「俺だけ女装なの?
これ逆バージョンならいいよ?」
「俺ドレス!?似合わないよ!?」
兄さん気にするのは女装だけ?まあいいか。
確かに兄さんのドレス姿は果てしなく似合わない気がする。うん。ただのギャグ。
「構わないわよ?」
構うの!?と叫ぶ兄さん。兄さんの涙バロメーターがMAXになりつつあるよマスター。
「とりあえずじゃあ、両方やってみて。
良い方にしましょう」


………とまぁ、こんな状態で約二週間の撮影が始まった。

パターン@
神父カイトと黒ゴスロリレン
(男だからぺたんこですが、ボディラインが強調された黒ワンピ。沢山の細いリボンとレースが目立つ)

パターンA
神父レンと白ロリータのカイト
(フンワリさせた白ワンピにフリルと大きなリボンとか。透けた素材の広がったラッパ袖と首元の白い薔薇のリボンのチョーカーがメインかな?)

映像でお見せ出来ないのが残念です(笑)


******************

「うーん…背丈あるけどロリカイト、以外といけるんじゃない?これ両方あげても良いかも…」
撮影も終わり、編集をしながらぶつぶつ言うマスターの横で、俺達も一緒に見る。
「凄い恥ずかしかった…死にたい…」
「何事も経験だよ兄さん。良いじゃん、慣れない感じが役と合ってるみたいだし」

男なのにこんな格好したくない…!
という設定通り、その衣装を身に纏い羞恥の表情で演じるカイト。最早素である。
本気で半泣きの顔なんて随分そそられると思うんだけどねぇ?

「レンの方はさぁ…何があってもプライド無くしませんって感じ。…相変わらずカッコいいんだよね〜…良いなぁカッコ良くて…」

ドレス着てようが俺は男だ!!
とまぁ絶対にそれに屈しないぞと言わんばかりに強気な女装レン。
正直自分見てもつまんないけど…兄さんがカッコイイと言ってくれたのは嬉しいからいいか。

「よし決めた!!裏表versionで本気で仕上げちゃう♪出来たら真っ先に二人にあげるわね♪」
いらない。二人分の拒絶の声を無視したマスターは編集の為部屋へと籠った。
明日には家路につくので、多分大まかな作業をするんだろうな。
後は自主的に自由行動にする事にした。


特に当てもなく浜辺を彷徨く。結局海まで来たのに実質使ったのは近くの教会風の建物だけだったから、見納めしておこうかと思って散歩へと乗り出した。
寄せては返す波は、心を落ち着けさせる。人間の赤ちゃんって確か「レン?散歩中?」と、
ぼんやり考え事してたら不意に声を掛けられた。カイトが後ろからやって来ていた。
「あ…あぁ…うん。兄さんも?」
「俺はレンが居なかったから探してただけ。居てよかった」
部屋に居ない俺を探して来てくれたんだ…。そう思うと心が温かくなる。
この優しさが好き。
此方がどう思ってるかも知らずに、それでも誰彼構わず優しいそんな彼だからこそ好き。
「落ち着くね、波の音…」
「確かさぁ人間の赤ちゃんが母胎内で聴いてるのがこの音なんだよね?俺達ロイドは人間に限り無く近く作られてるから、安らぎを感じるのも同じなのかもね」
俺達って赤ん坊?って言われクスクス笑われる。釣られて俺も笑ってしまう。
目を閉じその耳だけで音を聞き取る。聴覚の良いボーカロイドだからこそ、微妙に違う波の音を楽しんだ。
「いやでも、本気のキスじゃなくて良かった…」
海に向いたままの俺の隣に立ちカイトが今度は困ったような照れたような何とも言えない表情で笑った。
「俺はマジチューでも良かったよ?なんなら今してみる?」
「えええ!?」
悪戯っぽい微笑を浮かべながら体を折り曲げ下の方から上にある兄さんの顔を覗き込む。心底驚いた風の兄さんが半歩下がった。
「あはは、冗談。兄さんはミク姉が好きだもんね?好きな奴以外となんて、…したくないよね…?」
「ななっ!?」
兄さんがズシャッ!!と砂に足を捕られて尻餅をついた。柔らかい砂地の上では痛みはないだろうけど、
当の本人はそれどころじゃない。
なんで知っている?と口に出せない言葉が顔に書いてある。
「見ててわからない程でもないんだよ?」
「う…あぅ…。レンもミクの事…?」
それこそ冗談、やめてくれ吐き気がする。
嫌いではないがそう言った対象に見る事なんてあるはずがない。
「違うよ?俺はね…」
座り込んだままのカイトに軽く触れるだけの口付け。夕日を背負った俺の表情はきっと、逆光のせいで見えないだろうけど…。

少しでも伝われば良い…。

「好きな奴としか出来ないって言った俺の言葉の意味…。わかるよね?」
じゃあね、兄さん。
大きく目を開いて固まったままのカイトをそのままに、俺はゆっくりとその場を去った。

*******************

撮影場所から帰ってきて数日がたった。

あの後兄さんはいつも通りに接してきた。別に引く訳でもなく、怒る訳でもなく…まるで忘れてしまったのかのように。
ただそれでも、少しは理解してくれたらしい。

兄さんが、俺に触れなくなった。

事ある毎に子供扱いをして、しょっちゅう頭を撫でられふて腐れてたけど、それすらもなくなると寂しいな…。


目の前に…

触れたい人がいる。

それが許されない事を知ってるけど…

それでも俺は――――。






―――――――――――――――――――――

次、壊れます。
エログロ表現入りますのでご注意下さい_(._.)_

[*vorn][hinten#]

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あきゅろす。
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