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mein
@世界の終わりまで









『今日。世界は終わるんだって』










アホ。そんなのとっくにニュースで知ってるっつーの

そう怒鳴りつけられてしまえば電話の受話器に向かって笑い声を上げる

『そっか』

短くそう返せば暫しの沈黙

『黙んなよ』

沈黙に耐えきれなくなったのか何時もの苛々としたような低い声が俺の耳に届いた瞬間勝手に口が開いて言葉を繋げた



『会いたい』



じゃあ会いに来いと言われ一方的に電話を切られれば苦笑いを浮かべながら携帯を閉じる


「ねぇ、私もう帰るわよ」


後ろから聞き慣れた声が聞こえ背を向けたまま手だけをひらひらと振れば直ぐに愛する弟へと会うために足早にツカツカと玄関に向かっていく足音

「浪江さん」

振り返り何となく名前を呼んでみれば眉間に皺を寄せながら此方を振り返る浪江

「何、今あなたの為に裂く時間は一分一秒もないの」

「酷いなぁー、もう会えないだからさ何か俺を泣かせるぐらい感動する言葉の一つや二つ残していってよ」

「さようなら」

俺の言った言葉を見事にスルーすればしゃがんでいそいそと靴を履いているのを横目に、俺も静ちゃんに会いに行こうと掛けてあるコートに手をかけると同時にドアを開ける音



「まぁ、あなたとの生活もそれなりに楽しかったわ、…」



バタン
ドアの閉まる音






静寂





何なのさあの女。不覚にも熱くなってしまった目頭を冷ますように頭を振れば

急激に心臓が痛くなる

かなり浪江らしからぬ言葉にこの世界は本当に終わってしまうのかと嫌でも思い知らされて

無性に、

静ちゃんに会いたくなった



かけてあるコートを取れば最後にもう二度と帰って来ることはない部屋をぐるりと見渡して

そこから

振り返りもしないでひたすら走った












《世界が終わるまで01時間11分14秒》










ぜぇぜぇと息をするたびに肺がズキズキと痛むのも構わずに意外にも混んでいる人混みの中を進んで行く


『嫌だ俺は信じない』
『愛してる』
『まだ死にたくない』
『さようなら』
『何か生き残れる方法は』
『皆、一緒に死ぬんだね』
『私も愛してる』
『終わりなんて嘘なんじゃねぇの?』
『大好き』

色々な会話が耳に飛び込んでくる。

『嫌だ助けてくれ』

嗚呼

『ママ大好き』
『私もあなたの事大好きよ』

五月蝿い

『俺は君の事ー…』





視界にバーテン服がチラつく
咄嗟に痛む肺も構わずに大声で叫んでいた

「静ちゃん!!!!」

「ぉわ!…ビックリすんじゃねぇか」

静ちゃんの目が俺を捉えれば相手を思い切り抱き締める

「…臨也?」

相手の腕が背中にまわれば身長差のせいで俺が抱きしめられてるようにしか見えないのが腹立たしい

「あー疲れた」

「お前走ってきたのかよ馬鹿か」

「えっ酷。走る以外どうやって来るのさ電車なんか動いてる訳も無いし」

「動いてんだよそれが」

は?と聞き返せば静ちゃんの指が電車の方向を刺す

「本当だ」

「なんかよ、お前がくるまで暇だったからどうなってんだと思って聞きに言ったら、ほら終わりだって言うのに電車が動いて無かったら仕事とか学校行ってる奴ら、家帰れねぇだろ?、だから最後まで電車動かし続けるんだとさ」

「馬鹿じゃん」

本当、何考えてんだろその人家族も恋人も全部捨てて


これだから俺は人間が





「おい、何呆けてんだよ」

「ってか!電車動いてんの教えてよーむしろ静ちゃんのその馬鹿力使って渋谷に来たら良かったのに」

「うるせぇな、俺はこの町が好きなんだよ」

そう言ってぎゅ、と俺の首筋に顔を埋める相手



「静ちゃん、泣きそう?」

「黙れ」

「俺に会ったら安心しちゃった?」

「お前、黙らねぇと背骨折るぞ」

「静ちゃん鼻声いだだだっ降参降参!!!」

メキメキと背骨が軋んで慌てて叫べば相手の腕から逃れる

軽く俯いている相手の表情を見れば今にも泣き出してしまいそうで

「可愛い」

と一言だけ呟けば相手の腕を握り見渡して一番背の高いビルの中に足を踏み入れた












《世界の終わりまで00時間53分23秒》













「ほら、ここの屋上からだと静ちゃんの大好きな池袋見渡せるでしょ?」


これが、後一時間程度で全部消えるわけかー…

不思議な気分になりながら振り向けば急に視界が真っ暗になる

それは直ぐに相手に抱き締められたからって分かったけど頭までくしゃくしゃと撫でられれば何事だと思い顔を上げる
すると先程とは打って変わって真っ直ぐ此方を見つめる相手が目に飛び込んできて





「消えちまうんだな、俺もお前も」






少しの沈黙の間
何か言葉を返そうと必死で口を動かすけどちゃんとした言葉に出来なくて


「何で泣くんだよノミ蟲」


嗚呼もう本当に腹が立つ
確かに何であんな言葉で俺が泣かなきゃいけないんだ

「し、ずちゃんだって泣きそうな癖に"…」

やっと振り絞った声が余りにも情けない声で


「うっせ…嫌なんだよ、みんな、みんな消えちまうのが」

「今まで会ってきた奴とか、物とか…この街もお前も俺も、全部…全員…消えちまう…っ」


俺の目からボロボロと落ちる水をグイと拭う手は小刻みに震えていて、

そんな顔するんだったらいっそ泣いちゃえばいいのに…とも思ったり


「俺もやだ…全人類と一緒に消えれるのは人間大好きな俺には嬉しいかもしれないけど…やっぱり、やっぱり寂しいね」

「俺は神様も信じてなければ天国も地獄も信じていない訳だからもう二度と静ちゃんにあえなくなるのは嫌だよ。どうしよう静ちゃん」

「死ぬのが、怖い」


吐き捨てる様に言い放った後涙で濡れた頬が痛んだのを感じた。

気のせいかもしれないけど心なしか気温が下がっていってる様な気がする。まぁ多分気のせいじゃないんだろうけど

作った笑みを相手に向ければ口を開いた





「静ちゃん、キスしようか」














《世界が終わるまで00時間18分53秒》









暫しのキスを堪能した後
チュ、と音を立てて口を離せばこんな時に盛るなと息を浅くした相手に頭を叩かれる

こんな時だからこそ盛ったのにと笑っていればふと相手の目がふるふると震えているのに気が付く

ため息をつきながら相手の腰に手を回し抱き締めれば相手の腕も俺の体に回される

「ほら、静ちゃん俺しか見てないんだから泣いたらどうなのさ」

「うるせぇ手前の前だから嫌なんだよ」

強情、そう口に出そうとした瞬間視界の端に白い光がチラつく
視線を光の方に見ればその光は小さいが確かに向こうの方から徐々に世界を包んでいくのがわかる

静ちゃんもそれを見たのか抱き締める力がより一層強くなる






ぞくりと身の毛がよだつ
嗚呼、みんな消えてしまう



「なぁ…臨也」



静ちゃんの声に我に返り言葉に耳を傾ける




「俺…生きてるよな?」










相手の言葉に小さく頷いたと同時に視界がほぼ真っ白に染まる






「うん、生きてるよ。」











静ちゃんも、俺も、ちゃんと生きてたよ










世界を飲み込む光で静ちゃんの顔は殆ど見えないけど俺の頬にパタパタと涙が落ちてくる





何だ
ちゃんと泣けるんじゃん








離れられないようにぎゅっと抱き締め合えば段々と意識が遠くなっていく




「静ちゃ ん」











、神様なんて信じちゃいないけど願わくば



次の世界でも君と










《世界が終わるまで00時00分04秒》



































      『     』















《世界が終わるまで、あと》







(最後に感じたのは体に走る衝撃と意外にも暖かい相手の体温)

(愛してる)

(そ れ から)





















真っ白な世界








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ワールドエンドアンソロジー様に提出。参加許可有難うございました^^


虚しい話を書くのは好きだけど書いた後に落ち込むのは私だけだろうか…

[*前]

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あきゅろす。
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