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多分それは、君が理由

きっかけは多分、何気ない好奇心。それだけ。
日当たりの良い午後の庭で、自身の刀を手入れしていたのを見て気になった。
剣で戦う事が何より嫌いだった彼に剣を振るわせていたのは自分。
もちろん悪いと思っていたので、何回か言葉を掛けたが彼は護れる事が出来るなら寧ろ剣に感謝をすると言っていた。
けれど今はもう、全ての問題は片付いて、彼が剣を振るう理由は存在してはいないのだ。

「、また、刀の手入れ?」

ゆるりと半分だけ気配を気にしながら、宿に居候している鬼妖界の吟遊詩人に近づいた。
下ろしていた視線を上げた吟遊詩人は本当に濁りのない笑顔を見せてくれる。

「おやご主人、仕込みは終わったんですか?」
「うん、ちょっと一休みしようと思ったらシンゲンが見えたからさ」

そうですか、と緩やかに返しながら座っていた長椅子をフェアが座るスペースを作る為に腰を少し動かす。
そんな気づかいを、不自然なくらいに自然にシンゲンは行ってしまうのだと自分が気付いたのはつい最近。
大人を見せ付けられてるみたいで悔しいけれど、女性としての扱いに悪い気はしない。
そうこうしているうちにシンゲンは刀を鞘に収めていた。

「あ、続けてて良いよ!」
「いえいえ、ご主人といるのにこんな物騒なモノいじりたくないですから」

どうせだっらコチラですよね、と背負っていた三味線を慣れた手付きで見せる。
べべん、といつもの馴らしのチューニングを終わらせる少し早くフェアの言葉に止められる。

「…どうして、まだ刀を手入れしてるの?」
「ホラ、約束したじゃないですか。ご主人を護りますって」
「、そか」

嘘ではないのだろう、シンゲンが嘘が嫌いなのは知っている。
言った事をちゃんと守ってくれる事も知っている。
けれど多分それは理由の全部じゃない事も知っているのだ。
言いたくない事を聞かれた時に返す言い方は一緒にいた時間で少し学んだ。
仕方ないと割り切っても、気になるものは気になるけれど、それは自分の性格が許さない。
気付かれないように一つ溜息を落とすと、フェアは顔を上げた。

「よし!お茶でも飲もうか、食堂に…」
「……クセ、なんですよね。もう…」

ぽつりと呟いたシンゲンの言葉は、どこか思考に重たい。
それでも、染み入る理由は重たさからか。

「自分がこっちに護衛獣として召喚された時にね、召喚した召喚師がコレまた笑えるくらいに酷い召喚師でしてね、」
「…うん」
「一日に一回、手入れしないと錆付いちゃうんですよね、血で」

いつだかの夜に少しだけ話してくれた、召喚師の話。
その時は剣を振るう事を嫌う理由と、召喚師を脅して誓約を解いてもらった事を聞いた。

「脅しちゃった、っていう召喚師、だよね…?」
「ええ、あの人の元で切った生物の数は召喚されてから三日で分からなくなりました」

背筋にぞくりと何かが走る。
自分も剣を振るう手前、この年ではそれなりの数を切ってきている。
でも、それとは違う何かを、シンゲンは知っているのだろうと。
思うと、少し怖くなった。

「…好き、じゃなかったんだ、その、召喚師さん…」
「好きじゃなかったですよ、…けれど」

少しだけ遠慮がちに口を開いた言葉に、シンゲンの言葉は少し小さくなった。

「決して…嫌いではない、と、思います…」
「…そっか」

理由は聞かなかった。
それは多分、シンゲンの大切な感情だと思うから。

「お茶にしよっか!おせんべいと緑のお茶出してあげるね!」

座っていた長椅子からすくりと立ち上がると食堂の方へとゆっくり走りだす。
精一杯に、暖かい笑顔を作って。

「早くおいでよシンゲン!」
「すぐ行きますよ」

ふわりと注ぐ温かい陽の光と愛しい少女の暖かい笑顔が肌にくすぐったい。
確か召喚されたあの日も、こんな澄んだ青空と、暖かい空気が共存していた。

鈍い痛みと、感じた事のない感覚に酔いながら開眼一番に飛び込んできた、あの人の笑顔が。

「貴女に似ているから、多分嫌いではないと思うんです」

この呟きが、
二人に届く事はないけれど。











多分それは、君が理由
(苦いくらいが丁度良い記憶)







シンフェ

シン←フェ…シン→←フェ…?
最近熱い鬼妖召喚師ネタ!

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