短編
2
「お前が指示したんだろう」
「はい、その通りです」
「ようやく本性を出しましたね」
「ほんっとさいてー」
「…見、苦し、い…」
「お前みたいなクズ、早く死ねばいいのに」
「はい、その通りです」
「お前、最低だぞ!!お前たちみたいな親衛隊がいるから、こいつらに友達ができないんだ!!」
「はい、その通りです」
「…お前、なめてんのか」
最近、直接的な制裁を控えていた親衛隊のシッポをようやく捕まえた。
机や下駄箱への悪質で卑怯な嫌がらせばかりが続き、イライラしてるところだったので、これでやっと親衛隊を根絶やしにできる、と親衛隊隊長を呼び出した。
陽路にはあれほど呼び出しに1人でついて行くなと言っていたのに、あとでちゃんと注意してやらねーと。
でも、そのお陰で親衛隊の制裁を現行犯で捕まえることができたのだから、注意した後は、甘やかしてやろう。
隊長が現れるまでの間、生徒会室の端っこで震えるクズどもを睨みならが、そんなことを考えていた。
生徒会親衛隊隊長、雪村由宇。
陽路が転校してくる前は、それなりに良くしてやっていたのに、自分たちの醜い嫉妬で陽路を傷つけた。
なかなかシッポを掴ませねぇ、見た目通り女々しいアイツを、これでようやく追い出せる。
なにを勘違いしたのか、馬鹿みたいにニコニコ笑いながら現れた雪村は、俺たちの言葉をただただ同じ言葉で肯定した。
なめてんのか、と問えば、心底不思議そうに首を傾げる。
「僕が全て指示しました。彼らが僕に逆らえないように脅して、陽路くんを潰すように言いました。僕みたいなクズは早くいなくなるべきです。僕も、君たちの友達なんだと勘違いしていたんです。だからその通りだと言いました」
何か問題が?と続ける雪村に、今まで黙っていた親衛隊員どもが慌てて口を開いた。
「た、隊長!」
「何言ってるんですか!隊長は何もやってない!僕たちだって何もやってません!!」
「そうです!今回だって、最近また活発化してきた生徒たちの嫌がらせについて、親衛隊でどうしていくか話してたら、通りかかった転校生が急に突っかかってきて、そこを皆様にみつかっただけで…」
「これ以上卑劣ないじめが起きないように、といつも隊長ご自身で率先して見回りしていたじゃありませんか!」
親衛隊どもの言葉に思わず眉を顰める。
この期に及んで、まだ言い逃れをするのか。
周りを見れば、他の役員たちもみな同じような顔をしていた。
「みんな、今までごめんね」
雪村が申し訳なさそうに、隊員どもに頭を下げた。
「僕がずっと間違ってたんだ。君たちがどんなにいい子たちか、ちゃんとわかってるよ。でも、許してほしい」
「間違ってなんか!」
「隊長!?」
「ごめんね、これが僕の役割なんだ」
「…役割?」
「た、隊長…?どうしたんですか?」
雪村はなおも頭を下げたまま、訳のわからねぇことをブツブツと続ける。
「お前ら!由宇が間違ってたってようやく認めたのに、何言ってんだ!いい加減にしろ!!」
我慢できない、と言うように陽路が親衛隊どもを怒鳴る。
「陽路の言う通りだ。お前らもう黙れ」
「そうです。クズがこれ以上口を開かないでもらえますか?陽路の耳が汚れる」
奴らが陽路に何か言おうと口を開きかけたところで、言葉を遮る。
これ以上、陽路を傷つけるような真似は許さねえ。
奴らを睨むと、珍しく奴らは、
まるで仇でも見るような眼で俺を睨み返してきた。
今までこんな眼でこいつらに睨まれたことなどなかった。
妙な違和感を感じ、雪村を振り返る。
雪村はこんな眼で俺を見ないと確信していたから。
雪村はいつだって、真摯にまっすぐ俺を見ていたから。
だって雪村は俺の親衛隊隊長だから。
いつも俺の一番そばで、俺を見てくれていたから。
………あれ?
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