短編
2
ビクっと、男たちの動きが一瞬止まり、1人が引き攣った笑いを浮かべた。
「バカじゃん、会長!あいつはもういねぇっつーの」
「お前が退学にしたんだろォ?!」
ギャハハ!と男たちが笑い、止まっていた手がまた動き出した。
「退学じゃなくて、休学だよ」
「ヒャハ!マジ?!そうな…の…?」
「え…?なんで?」
聞こえるはずのない、澄んだ声が、雑音ばかりの教室に響いた。
「辞めるつもりだったんだけど、理事長に引き止められて。明日から復学するんだ」
冷静に説明する彼に、この場にいる誰もがついていけずに固まっている。
まさか。
だって、…なんで?
本当に?
「雪…村……?」
消えるほど小さな呟きに、それでも彼は反応して俺を見る。
「お待たせ、会長」
にっこりと笑って、昔みたいに俺を呼ぶ優しい声。
「…本当に?」
「君が呼ぶなら、僕はどこにだって飛んで来るよ」
「ああ…雪村…」
「うん」
「雪村!」
「うん」
「雪村!!!」
目の前の存在を確かめるように何度も繰り返す。
その度に雪村はうん、うんと応える。
ピピピ…ピピピ…
「はい。…うん、了解」
短く答え、すぐに通話を切り、雪村は笑みを深めた。
「副会長以下、役員5名。全員保護しました。君たちも今すぐ会長から離れなさい」
「…まさか」
俺の上に乗ったまま固まっていた男が浮かされたように呟いた。
「生徒会親衛隊です。…もうおしまいだよ」
堂々たる宣言の元、君は俺の側に帰ってきた。
「会長。大丈夫?」
「雪村…」
いつの間にか、教室には俺と雪村しかいない。
俄かには信じられず、まだぼんやりとしている俺にジャケットを掛け、雪村がクスクスと笑った。
「よく耐えたね、会長」
「…ふっ…!」
本当に雪村だ。
雪村の手の温度を感じ、堪えきれず嗚咽が漏れた。
「泣いていいよ。僕の前でならね」
「雪村…!本当に来てくれた…!」
「君のためなら」
ああ、なんと強く美しく君。
子供のようにしがみつく俺を、柔らかく抱きしめてくれる。
君はまた救ってくれた。
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