『香奈の部屋』 前篇 「はぁ…。」 最近、気にしていることがある。 …ずっと付き合っている彼女のことなんだが…。 彼女がいるだけいいじゃんか、なんて言われそうだが、俺的には大きな問題。 …まぁ、下らないことと言えば下らないのだろうけどさ。 多分、彼女に言えば下らないと返されるようなこと。 「…昼休みか…。」 昼飯食べるのを忘れてたな。 菓子パン一つに飲み物。 今日買ってきたのはこれだけだ。 「カズくん♪」 と突然背後から抱き付かれる。 「お、おい!人前だぞ!?」 「いいじゃん。周知のことなんだし。…もしかして…恥ずかしいの?」 「ま、まぁ…。アキこそ少しは恥ずかしがった方がいいんじゃないのか?」 「恥ずかしいことしてるわけじゃないんだから恥ずかしくないもん。」 そう言いつつ、たまたま空いていた隣の席に躊躇無く座る。 彼女は一つ下の幼なじみなんだが…昔から俺に引っ付いてくるのが好きだった。 「で、何か悩み事?」 俺に弁当を渡すアキ。 気が向いた時だけ二人分作ってくれるらしい。 …菓子パンは後で食べるか。 「…どうして?」 「そんな感じがしたから。」 やはり、アキにはわかっちゃうんだな…。 彼女は彼氏の俺が言うのも何だが、可愛いし、スタイルもいい。 性格だって悪くない。 中学生の時から付き合ってるんだが、俺が通ってるからという理由だけで、かなりの努力をしてこの高校一本で受験したぐらいだ。 彼女の学力では多少つらいだろうと思ってたが、平然ってやってのけた。 …まぁ、落ちたら専業主婦になるなんてことも言ってたけどな…。 「悩みがあるならこのお姉さんに相談してみなさいよ、カズ先輩?」 「お姉さんって…。…そのお姉さんってのを気にしてるんだよ。」 勿論、アキの方が年上であるはずはない。 だが、お姉さんって言うのは…俺よりも身長が高いからなんだ。 俺は172cmある。 それぐらいあれば、滅多に彼女の方が大きいなんてことはないだろ? だが、アキの身長は175cm…。 普通に大きい。 さっきもスタイルがいいって言ったが…本当にモデルみたいな女の子だ。 実際、デート中にスカウトされ(本物かどうかはさておき)、迷いも無く断ってたこともある。 「まさか…身長のこと?今更?」 「そ、そりゃあ、気にするだろ…?俺だって男なんだし、彼女よりちっちゃいなんて…。」 これで彼女が踵が高い靴を履いたりしたら、それこそ差は広まるばかり。 「ふ〜ん…彼氏がちっちゃくても気にならないけどね。私はカズくんが好きなんだから。」 …照れるようなことをはっきりと言ってくれるな…。 「じゃあ、カズくんは私のこと嫌い?別れたいと思ってる?」 「べ、別にそういう意味じゃ…。」 「なら、気にしないの。周りだってきっとそんなに変に思ったりしてないから。そんな人がいたら私が殴ってやるんだから!」 不思議なことに、こいつは昔から俺に一途なんだよな。 よく知っている間柄だから気兼ねしなくて楽、というのが一番の理由らしいけどさ。 「…仮に別れてと言ったところで別れてくれないんだろ?」 「勿論。…そうなったら一緒に死んでもらうつもりなんだから。」 さらりと恐ろしいことを言う…。 だが過去に、実際に別れ話を切り出したこともある。 アキは自分でも独占欲が強いと言ってたぐらいで、束縛も厳しかった。 で、別れ話を出したところ…見事な程に号泣された。 互いの両親をも巻き込むことになって…結局は束縛をあまりしない、と言うことで今もまだ付き合っている。 その…自分であまり束縛しない、とは言ってたのに、実は殆ど変わってなかったりする。 それでも大丈夫だと思えるようになったのは、単なる慣れなのかもしれない。 考え方によっては一途で可愛い、とも思えるようになってきたしさ。 「…どうしてそんなに大きくなれたんだよ…って、これは聞くだけ無駄か。」 俺が思うに、単なる遺伝だ。 彼女の両親も身長高いからな…。 それに比べてうちは平均ぐらい。 ここまで伸びれば妥当と言えば妥当なのかもしれない。 「こればっかりはカズくんが納得するまで待つしかないもんね…。ただ、私よりも小さい、ってだけでカズくん自体は小さいわけじゃないんだから。一緒に歩いててもそんなにわからないと思うよ?」 「…俺の考え過ぎか?」 「私はそう思うよ。後はカズくん次第。」 …数字って残酷だよな…。 見た目にはわからなくてもはっきりと優越を付けてしまうこともあるんだから。 「…それにね、落ち込んでるカズくんを見てるのはつらいから。昔からの明るいカズくんが好きなの。」 …な、何だか、アキが大人に見える…。 年上なのに年下の彼女に負けそうだ…。 「…何なら、また妹になってあげるよ、お兄ちゃん?」 意地悪そうな笑みを浮かべるアキ。 昔、お兄ちゃんと呼ばれていた。 ただそれだけのことだ。 だが、今でも彼女が甘えてくる時にたまに言ってくる。 「カズくん、妹好きそうだもんね?」 「誤解されるようなことを言うなって。そんなわけがあるかよ。」 「でも…私が妹を演じた時は凄く激しかったのに?」 !? 思わず飲んでいたものを吐きそうになった。 「お、お前、何を言って…!?」 「じゃあ、明日また試してみる?休みの日しか出来ないんだし…。」 「じゃなくって、学校でそんな話は…!」 怒ってもアキは涼しい顔。 周囲の目も気になるが、敢えて見ない。 誰も聞いてなかったことを祈ろう。 「別に聞かれたっていいじゃん?それとも何?やっぱり、私が彼女なのがそんなに嫌なわけ?」 「い、嫌じゃないけどさ、常識的に考えろよ。」 アキはたまにずれている時がある。 いや、たまにじゃなくていつものことかもしれないけどさ。 「どう?元気出た?」 「別に元気が無かったわけじゃ…って、お前!これ嫌いだってわかってて態と入れてないか!?」 弁当の中に嫌い物を発見。 …アキが作る弁当の中にはいつも絶対に入ってる気がする。 その調理方法は毎回違うんだが入ってる。 [次へ#] [戻る] |