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『香奈の部屋』
2・3

「…ルーはあるウィザードの身体を利用してようやく動けるようになっていると聞いた。テスラと言う名の少女らしい。…私は一人のウィザードとして彼女を救い出したい。ただそれだけのことだ。」
「ただそれだけ、って…。私達からしてみれば理解全く以て出来ない理由だわ。…本当の理由は無いわけ?」

魔王が他人を助けることは殆ど無い。
あるとしても、それは何らかの見返りが望める時だけ。

「無い。…もし、彼女を解放出来る条件がルーの完全復活だとするのなら私は手伝うつもりだ。」
「…あんた、正気?確かに、さっきあの女には冥魔退治に役立ってもらうと言ったけど、問題はその後。冥魔共を駆逐したとして、仮にルーを消せなかったらどうするわけ?」

内心焦っているベル。
以前は自分の力だけでも何とか出来る自信があった。
しかし、復活したルーは最強にして唯一の爵位、皇帝であるシャイマールの転生体。
シャイマールが滅んだ今、その力の大半はルーの物。
そのルーが完全に力を取り戻した時、以前よりも圧倒的に強くなっていることも容易に想像が付く。

「抵抗しようとしても、殆どの魔王が彼女の配下に付くはず。裏界はルーの物になるのも時間の問題。そしたらまず消されるのは私達よ。当然、ただで消されるつもりは無いけど。」

強い力を持つ者を早めに排除したいと思うのは当然のこと。
反抗を企てている者に対しては特に。

「でもぉ、フィルルが護ってくれるんでしょ?」
「護るつもりではいるが、ルーの攻撃を防ぐ自信は無い。」

破壊神とも言われたシャイマール。
その破壊力は他の魔王など足元にも及ばない程。
その力を引き継いだとしたらフィルルですら防げないだろう。

「じゃあ、どうするのよ?」
「…そこで彼の力を借りたいと思っている。ベル、お前の主だ。」
「…アステート…。」

ベルの主にして恋人とされる爵位大公の魔王…『大魔王』アステート。
現在はウィザードの中に封印されているという。

「彼がいれば或いは…。」

フィルルもアステートの強さはよくわかっている。

「…フィルル、何が何でも彼を探し出してきて。今すぐ!」
「…了解。」

フィルルの姿が掻き消える。

「パール、あんたも今の内から考えといた方がいいわよ?どうやったらルーと戦っても生き延びれるかどうか。」
「生き延びれるかぁ〜?大魔王ベルも落ちたもんだね〜♪答えは簡単。勝てばいいんだから!」

単純かつ正解の一つ。

「怖じ気づいてないみたいね。安心したわ。」
「そう言うベルこそ、本気のルーを前にして真っ先に逃げ出すなんて行為はしないでよね?同じ魔王として恥ずかしいから。」
「どの口がほざいてるのかしら?」

二人のやり取りをリオンはただ見ている。
飽きないこの日常がいつまでも続くことを願いながら。





仮面を着けた騎士…ロンギヌスが並んでいる長き廊下をフィルルは歩いていく。
ここはウィザード達の最重要拠点であり、かつて世界の守護者として導いてきた『真昼の月』アンゼロットの城である。
現在所有者のアンゼロットは他の世界に旅立っており、代わりに赤羽くれはという少女が職務を全うしている。
赤羽くれは…先の『マジカル・ウォーフェア』においてエリスを助け、シャイマールを見事に倒した『下がる男』の幼なじみの少女。
優秀なウィザードであり、能力はとても高い。
彼とは恋仲であるという話もあるが、その真偽は不明。

「失礼する。」

巨大な扉を中に入るフィルル。
部屋には数人のロンギヌスと仕事に追われているくれは。

「はわっ!?びっくりした…!」

フィルルの登場に場の空気が一気に張り詰める。

「突然の来訪、済まない。『世界の守護者』代理に聞きたいことがある。」

フィルルが一歩前へ足を踏み出す。
それと同士にロンギヌスが一斉に武器を向け、フィルルは二歩目を出さずに止まる。
ここにいるロンギヌスなど本来フィルルの敵ではない。
しかし、現在フィルルはウィザードであり、同じウィザード仲間を傷付けるわけにはいかない。

「私に答えられることでいいなら…。」
「では、聞こう。アステートの居場所を?」

率直に問うフィルル。

「はわわ…アステート…?」

対してくれはは首を捻る。

「いや、知らないのならいい。邪魔をした。」

一礼をし、背を向けるフィルル。
そのまま城を後にする。





アステートの居場所は未だに掴めていない。
彼が復活したところでその結果が吉と出るか凶と出るかわからないまま、フィルルは彼を探し続ける。



終わり♪

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あきゅろす。
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