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『香奈の部屋』


「……。」

それで今日はメグミと二人で映画を見た後にツカサの家に来たんだが…ツカサの態度が何かおかしい。
無言で料理を作ってるツカサが怖い…。

「ど、どうしたんだ?」
「…もう私だけじゃ満足出来ないの?」

包丁を持ったまま振り返るツカサ。
その表情は…無表情。

「な、何を言って…。」
「メグミちゃんと映画見に行ったでしょう?…二人っきりで。」
「!?」

今日のことはツカサには秘密にしてた…いや、秘密と言うよりは言い忘れてただけなんだけど、何故ツカサがそれを…?

「それってデートだよね?浮気だよね?もう私だけじゃ満足出来ないってことだよね?」
「ち、違うって!今日見に行った映画は多分ツカサが見てもつまらないだろうって思ったからさ…。ゲーム関連だったしさ。それに昔からメグミと約束してて…。」
「…信じていいの?」

でも、ツカサは相変わらず無表情。

「言い忘れてたのは謝るよ。でも、事実しか言ってないから。…それに、あいつが俺を好きになるなんてことは絶対無いから。」
「…うん、アキラくんを信じるよ。手を繋いだりもしてなかったみたいだし…でも、次は私も誘ってよ?」

ツカサは笑顔を作り、前を向いて料理を再開する。

「うん、ごめん…。」
「今回は許してあげる。…でもね、今度は無いから。」
「わ、わかった…。」
「…私ね、とても嫉妬深いの。だからね、絶対に浮気は許さないからね。…絶対に。」

包丁が材料を切り刻んでいる音がしていて怖い…。
ツカサの知らない面を初めて見た俺は少し怯えてしまっていた…。



次の日からは昨日のが嘘だったみたいにツカサは元通りで、二人っきりでデートしたわけで、すっかり機嫌は直ってたみたいだ。
それにしても、ここまで嫉妬深いとは思わなかった。
…でもまぁ、それはそれで可愛いかもな。



それから数日後、ツカサは買い物に行ってしまったらしく、すぐに帰ってくるだろうと思って一人でツカサの部屋で待ってることにした。
合い鍵を貰っといてよかったななんて思ってたり。
ツカサにはさっき電話で話したからいいとして、待つのも結構退屈だったりもする。
漫画も無いから、ツカサの部屋にある、普段読まない小説を読んでみることにする。
暇過ぎると人間って興味無いことまで平気で出来るんだな、と思う。
何かいい本がないか探していると、読み古した絵本のような本を見付けた。
本が古い上、随分と愛読されてるみたいだ。
でも、この絵本…どこかで見た気が…。
まぁ、読めばわかるか。
と、1ページに写真が一枚挟まってる。
写真に写ってるのは、本人(多分)とツカサの両親と…ツカサと同い年ぐらいの少年。
…待てよ?
こいつ、どこかで…!?
い、いや、この写真は…!?

「何してるの、アキラくん?」
「!?」

突然後ろから声をかけられて思わず振り返る。
そこには声の主…ツカサが音も無く立っていた。

「…その絵本…その写真…。」
「あ、ご、ごめん、勝手に見ちゃって!」

慌てて絵本を閉じて元あった場所に戻す。

「ううん、いいの。…その絵本ね、昔から大好きだったの。」
「そう…みたいだな…。」
「古くなっちゃったけど…大切な想い出の絵本で捨てられないの。」

随分と読み古されてたからな。
でも、気になるのはそっちじゃない。

「あの写真は一体どうしたんだ…?」
「家族の写真だよ?…昔いた家族の…。」

今まで家族については聞けなかったからな…。
でも、あの写真は…。

「あの写真は…俺も見たことあるんだ…。」
「……。」
「どうして、ツカサがあの写真を…?」

写ってた写真は多分俺だ。
俺の問いに、ツカサは笑みを浮かべる。

「わからないの?簡単で単純なことだよ。アキラくんにでもすぐにわかること。…それとも、ただ理解したくないだけなの?」

ツカサの笑みが怖い…。

「…ツカサ…お前は一体…?」
「本当はもうわかってるんだよね?…ねぇ、お兄ちゃん?」
「!?」

ツカサ…ツカサ!?
そうだ、妹と同じ名前だったって初日に思ってたはずだ!
ここにいるツカサは俺の双子の妹の…!?

「やっと思い出してくれたの?」

あの絵本は…俺達が二人で昔読んでた絵本…。

「…い、いつから知ってたんだ…?」
「最初から。高校で初めて会ったその前からお兄ちゃんのことは知ってたよ?」

…どうして…?

「どうして…?」
「どうして、って?アキラくんだってよく知ってるでしょう?私がお兄ちゃんのことが大好きだってこと。」
「……。」
「昔から大好きだったの。だから、お兄ちゃんを私だけの物にしたかった。恋人同士になりたかった。ただそれだけのことだよ?」

俺のことを…?
だけど、俺達は…。

「兄妹…なのにか?」
「兄妹…だから何なの?好きな気持ちにそんなことは関係無いでしょう?」

ツカサが近付き、手を回して俺を抱き締める。

「……。」
「お兄ちゃんも私のこと好きだよね?愛してくれてるよね?…妹だと知って嫌になった?」
「…どうして今まで隠してたんだ…?」

知ってれば少しは違ったかもしれない…。

「教えてたら恋人になってくれてた?ならないよね?…だから、隠してたの。」
「……。」
「妹を好きにはなれない?道徳的に背徳だから?…でもね、お兄ちゃんだってたくさんいい思いしたでしょう?…私の体で。」
「…それは…。」

知らなかったとは言え、俺はもう妹を…。

「もうお兄ちゃん同罪。だからね…一緒に堕ちよう?私は一生お兄ちゃんだけを愛し続けるから。一生お兄ちゃんだけのものでいるから。…拒否は許さないよ。」

とツカサは耳元で小さく笑う。

「…ごめん、少し考えさせてくれ…。」

両手でツカサを押し離し、急いで家を出る。
あまりにも当然なことで混乱しっぱなしだ。
とにかく、どうすればいいのか考えなくちゃな…。



「んで、私に相談?」

次の日、メグミの家に訪ねた。
何だかんだで付き合いが長い。
何せ、幼なじみだしな。
その分今は誰よりも信頼出来る。

「…どうすればいいのかわからなくてさ…。」
「弱気なんて珍しいね?」
「悪かったな。」

俺だって悩むことぐらいあるさ。

「処女奪っちゃったんでしょ?なら、責任取るしかないんじゃない?」
「だけどさ…。」
「…好きじゃないなら別れちゃってもいいとは思うけど…このままツカサちゃんを見捨てたら、アキラの人間性を疑うよ、私は。」

好きじゃないわけがない。
今でも好きに決まってる。

「ツカサは好きだ。でも…。」
「好きならいいじゃん、別に妹でも。誰も知らないんだから誰も気にしないし。世間体を気にすることもないっしょ?」
「…そうだな…。」

逃げても仕方が無い。
明日ちゃんと話をしよう。

「決まった?」
「助かった。ありがとう、メグミ。」
「これぐらい何でも無いよ。」



そして、次の日…。

「いらっしゃい、アキラくん?」

ツカサの家に入る。
俺の目の前にいるこの少女はツカサなのか妹なのか…。
どちらにしても、ツカサには変わりないのだが…。

「…もう大丈夫なの?」
「そのことについて話があって来たんだ。」

ツカサの表情が変わる。

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あきゅろす。
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