『香奈の部屋』
前半
「お前ってさ、山藤と付き合ってんだろ?」
「…今更そんな話か?」
部活が終わり、帰り支度をしている中、いつもの習慣のように今日も悪友達と話している。
山藤ってのは俺の幼なじみの彼女の名。
姫子って名前だから姫と呼んでるが。
「でなぁ…一つ聞きたいんだけどさ…何で山藤なんかと付き合ってるんだ?うちのエースのお前ならもっと可愛い彼女を…。」
「あ、こら!…お、俺は山藤も可愛いと思うぞ、うん!」
本音を言うやつに対してすぐさまフォローをいれる他の仲間。
「…可愛くない、か。外見で判断してるお前達がそう言うならそうかもな。」
外見は可愛い、と言うよりは彼氏の俺から見ても普通。
その上中身は…。
「しかも、山藤って…オタクなんだろ?」
「…よくわからないが、その類みたいだな。」
オタク…俗に腐女子と言われるものらしい。
姫は昔からそうだったから、俺から見れば大して違和感は無い。
ちなみに俺は全くだ。
スポーツ系のゲームは幾つか持ってるがそれだけ。
「…それに、可愛いやつと付き合っても気が休まらないの嫌だしさ。あいつとなら変な気遣いなんてしなくていいからな。」
癖や好みも知り合ってる仲だし。
姫が嫌がることはしないし、彼女も俺が嫌がることはしてこない。
「なる程〜。俺にも幼なじみがいるが…冷たい…。」
「ツンデレか?」
「リアルのツンデレはツンツンなのかツンデレなのかわからないって。」
俺にはこいつらが何言ってるかがわからんがな。
「…んで、いいのか?いつものように彼女を待たせてるんだろ?」
「だな。じゃあ、行くわ。」
「く〜…ラブラブしやがって!羨ましいぜ、ホントに!」
まぁ、仲間との下らない話を切り上げて姫の元へ向かう。
放課後、姫がいる場所は決まっている。
ここ、パソコンルーム。
高校なのにこんな施設があるこの学校はなかなか凄いと改めて思った。
…ついでに、座ってる席もほぼ決まっている。
だから見付けるのも簡単。
黒髪に眼鏡の少女…それが姫。
地味と言えば地味なんだろうな。
「…部活、終わったの?」
「えっ?お、おう…。」
いつもながら驚かされる。
背中から近付いたのに、こちらを見ずに声をかけてくる。
姫曰く、俺の気配は眠ててもわかるらしい。
どれだけわかりやすいんだ、俺の気配は…?
「んで、今日は何やって…って、えっ?」
パソコンの画面を覗き込んで見ると…そこにはアニメ的な絵の女の子の裸体…。
「お、お前、学校で何やって…!?」
「エロゲー。」
「ってか、未成年…じゃなくてその前に女だろ、お前!?」
こういうのって男性がやるもんなんじゃないのか?
「どんな話かを楽しみたかっただけだから。だから、ここは単なるおまけ。」
よく知らんが、普通はそっちがメインなんじゃないのか?
それにしても…。
「凄い絵だな…。」
「私のを見てるから別に凄くもないでしょう?…声も聞いてみる?」
「い、いや、遠慮しとく…。」
ってか、学校で色々と問題がありそうな発言はやめて欲しいんだけどな。
「ちょっと待ってて。すぐに終わらすから。」
慣れた手つきでパソコンを終了させる姫。
彼女はパソコンが得意らしい。
逆に俺はさっぱり。
これからの時代多少なりとも使えた方がいいとは思うけどさ。
「持つよ。」
「ん、ありがとう。」
荷物を受け取る。
立ち上がった姫の頭は俺の胸元ぐらいしかなく、非常に小柄。
「…何?」
歩きながら問い掛ける姫。
相変わらず、こっちは見てない。
見てるのは俺だけ。
「いや、何でもないんだ。」
そんなに俺の気配ってのはわかりやすいのだろうか?
「…変なの。」
変、か…。
「いやさ…ふと、何で姫と付き合うようになったんだっけと思ってさ。」
「嫌なら別れてもいいんだよ?告白したのは私からだし、付き合ってても私の片想いのままかもしれないし。」
これは…いじけてるのか?
「まさか。お前以外に誰がいるってんだよ?」
髪を撫でる。
姫はこれが好きだったりする。
「…気になってるんだけどさ、どうして眼鏡付けてるんだ?そこまで眼悪くないだろ?」
「眼鏡キャラは萌えない?」
萌えるとか萌えないとかは俺にはよくわからないことなんだが…。
「眼鏡掛けてても可愛いとは思うけどさ…そのさ、素顔も可愛いからさ。」
自分で言ってから何なんだが、少し恥ずかしくなった。
でも、正直言って素顔の姫はかなり可愛い。
「…素顔を見せる相手は一人でいいから。」
不敵な笑顔でこっちを見上げる姫。
そう言えば…姫が人前で笑顔を見せるところを見たことが無い気がする。
だから男性陣にはあまり可愛くないと言われてるのかもな。
無愛想だし。
…まぁ、それがいいって言ってる連中もいるみたいだが。
そして俺は、時折見せるこの笑顔が好きだ。
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