友達は目が紅い 5−2 学校の帰り道の河原はるかは携帯電話を開き時間を確認した。 「遅いな…」 もう三十分もここでこうして真喜を待っている。その目的はただ一つ。 ―私と付き合って― この短い文章を幼馴染の少年に伝えるためだ。 「ドキドキしてる。落ち着かなきゃ」 はるかは心臓のあたりを手で押さえた。 その時携帯電話から音楽が鳴った。電話がかかって来たのだ。画面を見ると、あずさからだ。 「もしもし」 『あ、はるか。今どこ?』 「え、河原だけど」 『郵便局の前。わかるよね。今すぐ来て』 「え、どうしとの」 『いいからはやく』 そこで電話は切れた。 はるかは郵便局に向けて走り始めた。 「ねえ、あずさ。これ、どういうこと?」 はるかは震える声で尋ねた。 「はるか…」 はるかとあずさの視線の先、黄色いテープ、自動車、散乱する教科書やノート、アスファルトの上の赤黒い液体。 「どうゆうこと?」 あずさはゆっくりと話し始める。 「小片君…事故に遭ったんだって」 「それで…大丈夫なの?真喜」 あずさは何も答えない。しかしそれが答えとなった。 「そんな…」 はるかはその場に座り込んだ。 私が目を覚ますと、白い天井が見えた。顔を動かすと、カーテンが見える。どうやら保健室のようだ。 しかし、なぜ私がそんなところに居るのだろう?私は記憶の糸をたどる。 二時間目、体育は長距離走だった。私は透かし体調が悪いなと思ってはいたが、たいしたことは無いだろうと思い、授業に参加して走っていて……そこから記憶が無い。 「はるか、気分はどう?」 顔を動かすと、真喜がいた。とても心配してくれたのだろう、顔で分かる。 「真喜…心配してくれたんだ…ありがとう」 真喜は少し照れたように笑った。 「大江橋さん起きた?」 カーテンの隙間から、保健の橋本先生が顔を出した。橋本先生は、ベテランの女性の先生で、私は何故か顔と名前を覚えてもらっている。保健室などめったに行かないのに… 「先生…」 「はい、熱計って」 私は橋本先生から水銀の体温計を受け取ると、体操服の首のところから手を入れて脇に挟む。 「先生…私…どうしたんですか?」 「う〜ん、ただの風邪でしょ。最近疲れてたんじゃない?まあ、体調が悪かったら体育は休みなさいね」 「……はい」 その時、チャイムが鳴るのが聞こえた。 「先生、今のチャイム、何のチャイムですか」 「今のは、四時間目の終わりのチャイムよ」 どうやら二時間も眠っていたらしい。 「ちょっと出てくるけど、大丈夫?」 「はい、大丈夫です」 橋本先生は一瞬笑って、保健室を出て行った。それを見計らって、真喜が言う」 「でもよかった。はるかの目が覚めて」 「真喜、ごめんね。心配かけて」 「大丈夫だよ」 私はこの機会に、前から思っていた事を言ってみようと思う。普段だと絶対口には出来ないことだが、今ならできる気がするのは熱のせいだと思う。 「ねぇ、真喜」 「なに、はるか」 「私…知ってるの。真喜がここに居る理由。あの手紙でしょ?」 「……」 真喜が黙るということは、私が言った事はあたりだ。 「私…真喜に心配してもらわなくても大丈夫になりたいから…カンバッタんだけど…ごめんね、心配ばっかりかけて、でも、真喜には何もしてあげられなくて。私がそんなんだから、真喜が…」 『いつまでたっても成仏できないんでしょ』とはいえなかった。真喜が私の頭に手を乗せて、ゆっくりと髪を撫で始めたからだ。 「大丈夫だよ、大丈夫。はるか」 真喜の手では髪を撫でられる感覚は無い。でも、私は確かに感じた。真喜の手の温かさを。そして私は、そのぬくもりに包まれながら眠りの中に沈んで行った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |