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年上の吸血鬼
食事

彼は人間じゃない。
人のカタチをしているけれど中は化け物と呼ばれる種族。

人間と同じカタチで安心させ、なおかつ美しい容姿で誘う。
そして、血を食らう。

うまくいかないことなど一度もない、容姿で騙せなくても、人間などは操れるのだから。

人間は力などない愚かで繊細な生き物。

それ故、弱く脆い。


吸血鬼の力の全てを使わなくとも簡単に操れる。瞳の力で…


「……動けないんですけど」

「当たり前だ。動けなくした」

迂闊だった。目を合わせた瞬間に彼によって動きをとめられた。

「…本読みたいんだけど」

「‥マイペースすぎて緊張感がまるでない」

「すいませんね。キャーキャー言ってる年でもないので」

溜め息つかれた‥

あたしがつきたいわと言い返したいが、この場の主導権は今彼の方にあるので小さな鬱憤は呑み込んでおいた。

「ゆったりくつろいでる時間がない。血をもらう」

「………」

首に彼の吐息と一緒に白い牙があたる。

緊張感のない自分でもこの時だけは息を呑む。
出会ってから、ほぼ毎日行われるいつもの行為だが、慣れはしないこの感覚。

首の中に入る異物の感覚。血管が一瞬震え、肌がざわめく。


「……っ!」

心拍数があがる。

体中の血が首の方へと集まるのを感じる。
そのあとのことは曖昧。

吸われる瞬間はどんな原理なのかは知らないが極上の快楽を感じ、意識が朦朧となる。



「…っん」

しばらくして、牙が首からぬけた。

「ごちそうさまだった」

僅か数分の吸血行為と野菜などの普通の食事で彼は1日保つらしい。

お陰でこっちも貧血の心配がない、といいたいところだが、最近食事の回数が増えてきてるので少々貧血気味。

この痕も入浴時に染みるのが難点だ。それらを覗けば痕が少し目立つぐらいしか困ったことはない。

「シャワー浴びてくる」

彼はまだ少し寝ぼけているのか、フラフラとした足取りで歩きながらバスルームへと向かっていった。

後ろ姿はまるで人間。

ボサボサとした後頭部を眺めながら私はクスッと笑い、そっと見ていた本に目を戻した。



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あきゅろす。
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