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臆病なヴァンパイア

「俺は吸血鬼だ」

突然、それも家でくつろいでる最中、なんの前触れもなく告げられ、シャチは目を丸くする。
思わずカレンダーを確認した。ハロウィンには確かに近いが、冗談にしては幼稚というか…彼らしくない事を
言い出したもんだと首を傾げる。
しかし、待ってみても「冗談だ」の一言も出ない。タイミングを逃したのかとも思ったが、それにしては落ち着いている。
うっすら笑さえ浮かべた余裕の、というよりこちらの反応を楽しむかの様な彼に、苦笑いで返してみた。

「なに?ハロウィンパーティーの練習か何か?」

ジョークだと言い出しやすいお膳立てをした。
今なら笑って終われるよと目線で訴える。しかし期待したシャチの脳は次の一言で停止した。

「違う。事実だ」

言ってる意味がわからない。いや、意味自体はわかるが、文明が発達したこんな現代で…百歩譲って幽霊ならばいざ知らず、
友人から吸血鬼と言われて『そうなんだ』と納得できる筈がない。
いやいやいやとひきつった笑いで否定してみる。

「はは、吸血鬼?ローがそんなジョーダン言う奴だとは思わなかったな。あ、もしかしてドッキリ?!だとしてもそれはないよー?」

早口で言う内に脳は冷静さを取り戻してきていた。
そうだよ、俺をちょっとからかってみただけなんだと自己完結に入っていた矢先、すいっと左手を取られる。
ソファに座っていたシャチに覆いかぶさる様に迫ってきたローの目が妖しく光ると、金縛りにあった様にその夜色の瞳に
釘付けになった。
目の前に持ち上げられた指先に、キスをするように唇が近づいて…、

「っい!」

刺が刺さったようなちくりとした痛みを与えた。
指先に滲む赤にさっと血の気が引く。ちろりとわざと舌を出して舐めとる仕草に、見とれながらも先程のカミングアウトが
嘘ではないと分かった瞬間、ぞわりとした恐怖が背後に見えた。

「っ、ロぉ…?」

友人を呼ぶ声が震える。冷笑を浮かべたその顔が、本当に友人のものか自信がなくなっていた。
殺すの?その一言が喉に引っかかって、口から漏れたのは情けなく震えた吐息だけ。
だけどなぜだろう、殺されないと妙な確信があった。それは友人だからという理由ではなく、確実な事実としてシャチは感じていた。
己の状況を理解したシャチに、ローはその体に完全に覆いかぶさりながら耳元で妖しく笑うと息を吹き込む様に言葉をかける。

「…もう何度も血を吸われたのに…この体は慣れないな?」

そこでようやく、思い出した。
前もこの部屋で、こうしてカミングアウトを受けて血を吸われた記憶がはっきりと蘇った。
なぜ忘れていたのか不思議なほど、記憶は鮮明に脳に焼き付いている。
それと同時に吸血されたこと以外も思い出してしまった。
今のように上に乗られ、押さえつけられ、貞操を奪われた事を。
最初の頃こそ抵抗していたくせに、幾度となく抱かれて快感に溺れ、自らねだった事まで全て余すことなく思い出した。
かあっと赤くなる顔と体を見たローは、楽しそうに喉の奥で笑う。

「安心しろ、また気持ちよくしてやる」

そして、何もかもまた忘れさせてやるから。
こそりと囁かれた言葉に、シャチは眉を寄せた。

「…………嫌だ」

反射的に口から漏れた呟きは、紛れもないシャチの本音だ。
首筋に顔を埋めたまま、ローはぴたりと動きを止める。

「忘れたく、ないよ」

怖いけど、ただの餌なのかもしれないけど、それでも、何故か、忘れるのは悲しいと思ってしまったのだ。
今にも泣き出しそうな声で、見た目より広い背中に腕を回しながら切願すると、ぷつりと肩口に肉に食い込む異物を感じた。
否の意味だと感じて、痛みと悲しみを逃がすために服を握り締めると、血を吸うことはせず、舌が小さな傷口を舐め上げた。
びくりと大袈裟なほど身体を跳ねさせたが、ちろちろと楽しむというよりいたわる様な優しい舌使いに困惑する。

「記憶は、隠す」

透明な糸を引きながら離れた薄い唇が告げたのは、奇妙な言い回しで。
見えない顔から言葉の真意を探れないかと、顔を向けるが見えるわけもなく、だけど案外あっさりと答えが返ってきた。

「だから見つけろ。自分で」

大サービスでヒントを残しておいてやるから。

ついと先程つけられた噛み跡を、無骨な指がなぞった。




 臆病なヴァンパイア

必ず思い出すからと、シャチはとびきりの笑顔でローにキスをねだる。
こんな吸血鬼なら怖くないなと、重なった唇の感触を愛しく思いながらこっそり笑うのだった。











カラ色トリ籠、雛奈さまから 吸血鬼企画「血の宴」より吸血鬼パロをいただきました!
カップリングはまだ決めてないと窺っていたので完成品がロシャチで思いがけないプレゼントを頂いた気分でした、
ありがとうございます!私の書いたのはあんなベタなものだったんですが大丈夫だったでしょうか…dkdk
いやもう、これかっこいいですよね!見せていただいた瞬間速攻飾っていいですかと聞いていました。
あ、なので拙宅企画の「両方が記憶喪失」の条件とは違います。でも記憶繋がりで飾らせて下さいとお願い
しました、快諾いただきありがとうございますvv あっ、UP明日にすればロー誕だったのかー! 2013.10.5


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