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幾度となく

 ちらちらと、雪が降っている。いつまで経っても慣れることのない寒さに震えながら、おれは、……おれたちは、宝探しをしていた。
前日にうっかり置き去りにしてしまった、金色のアクセサリー。それはとても小さなもので、深く積もってしまった雪の中から探し出すのは容易ではない。
 黙々と、ただひたすら雪を掘り進めてどのくらいの時間が経っただろう。指先が赤くなりズキズキと痛みだす。
厚い手袋をして道具を使用していても、やはり長時間雪の中にいるのは辛かった。だがおれたちは、決して泣きごとを言わないと誓っていた。
一度でも嫌だと言ってしまうと、全てがダメになってしまうような気がしたからだ。
「あ、っ!」
 傍に居るのに一度も顔を見合せる事のなかった人物から、突然上がった素っ頓狂な声。その声に驚いたおれは、
ズキリと痛む頭に眉を顰め、目を覚ました。
 息継ぎをするように短く息を吐く。それから瞼を上げると、視界がぼけていた。
「……夢、か」
 僅かながら震えを感じる手を、痛み続ける額に添え、影をつくる。眩しい。そう感じる程度には、今、自分の居る場所は明るかった。
 もう一度瞼を落とし、記憶にない情景を夢に見た事を疑問に思う。しかし、それだけではない。おれは、自分の名を知らなかった。
いや、知らないのではないのだろう。恐らく、思い出せないのだ。
 自分の状況を冷静とまでは言えないが分析をしている時点で、おれはどこかおかしいのだろうと思った。通常ならば、茫然自失としている所だろう。
そうならないのは、先ほどからおかしくなるのではないかという程に、体内がざわついているからだ。
(忌々しいな……)
 思い出せとでも言っているつもりかと、自身に問う。舌打ちをして瞼を上げると、いつの間に陰になっていたのだろう。
オレンジ色の衣服を身にまとった動物が傍に立っていた。
「やっぱり起きてたんだね、キャプテン! ちょっと待ってて、誰か呼んでくる!」
「いや、いい。それよりお前、……海賊か?」
 嬉しそうに笑んで背を向けた動物を呼びとめる。なぜ人語を話せるのか分からないが、コレは海賊なのだろう。衣服の胸元と背につけられたマークは、
どう見ても海賊旗だ、と。そこまで考えてから眉を顰めた。なぜおれは、それを知っているのだろう。
「……そうだよ、おれたちはハートの海賊団。キャプテンが、おれたちのリーダーだよ!」
「そうか。お前、名前は?」
「ベポだよ! おれの名前は、ベポ!」
「ベポ、だな。……他に仲間は?」
「えーとね、」
 恐らく、ベポは自分が「お前」と呼ばれた時点で気づいたのだろう。どうやらおれは、この動物のことをずっと名前で呼んでいたらしいという事が分かった。
ここが、自室なのだということも。
 次々に重ねる質疑に、ベポは一から丁寧に応答してくれている。話をまとめれば、どうやらおれは“死の外科医”という二つ名を持っているらしい。
名はトラファルガー・ロー。悪魔の実を口にし、その力を行使していただけでなく、医療にも長けていると聴かされた。
 それでか、と納得することができた事が二つほどある。一つは体内のざわつきの理由。これは、おれの中にある悪魔の力のせいだろう。
もう一つは目を覚ました時の知識の量。忘れきることができないくらいに詰め込まれていたのかもしれない。いずれにせよ、おれの記憶が
抜け落ちた理由は判明した。生きていることが不思議なほど強く、頭を強打したせいだ。
「後ね、ペンギンも変なんだよ」
「ペンギン?」
 オウム返しをした名を音にした途端、頭が痛んだ。胃袋からなにかが込み上がって来るかのような感覚に、じわりと汗が滲み、思わず掌で口元を覆った。
「キャプテン!?」
「……平気だ、気にするな。それより、そいつはどこにいる」
「え? ペンギンなら、……あっ、ペンギン!」
 上体を捻り、入口の方を見たベポが、いい所に来たなと言いたげに嬉々とした声を上げた。
「あ、っ」
 オレンジのつなぎが視界の端へと移動した途端、ペンギンが小さく声を上げる。おれのクルーだというのにその姿を見るのは初めてで、
だがどこか懐かしくも感じるのは、ベポと色違いのつなぎを着用しているからだろうか。
「……せん、ちょうのピアス」
「あ?」
「いや、あの……それ、昔探してたような気がして、ですね」
「……雪の中でか」
 思わず口にした言葉に、ペンギンの目が大きく開かれた。そして、戸惑ったように苦笑い。
 今更ながら、自分が寝転がったままだという事実に軽く息を吐き、身体を起こす。自然に手を出してきたペンギンに礼を言い、
ついでに目の下を親指の腹でなぞる。
「!? なに、して……」
 息を詰めて体を震わせた彼の様子に、なぜだか心が躍る。
 一歩下がったペンギンを見、自分の指を見つめ直す。そうしてから喉を震わせると、なにも思い出せない状況だと言うのに、至極楽しい気持ちになった。

おわり

2012.9.22









Apple fieldさまより頂きました!先日のフリリクに続いてのプチ企画ご参加ありがとうございました!
ロペン!互いに失っていた記憶が顔を合わせた途端にその一端から蘇っていくのってイイですよねv なんというか、
絆の深さを感じさせて。ハートの面々に限らずですが、こういうクルーの結びつきを題材にしたお話って素敵ですv
短い1場面の中にまとめていただきました!素敵な短編ありがとうございました^^


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あきゅろす。
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