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一目惚れ

身体中に張り巡らされた美しい入墨
それが彼を見た時の最初の印象だった。
見知らぬ島で隣に居た彼はその身体に隙間なく墨を入れていた。



砂浜で気絶していたおれが目を開けるとそこは小さな夏島だった。
それ以外の情報はなく おれは自分が誰かさえも忘れてしまっている。おれのすぐ隣には男が倒れていた。

おれがその場から身体を起こすと程なく呻き声が上り、隣にいた彼が目を覚ました。

「あの…大丈夫ですか?」

おれの問い掛けに彼は ああ、と答えると 「ここは何処だ?」 と尋ねた。
おれにも解らない。そもそも自分が誰なのかも忘れてしまっている。
おれが正直にそう言うと彼は

「待て、……どうやらおれもだ。一時的なものならいいが…」

と頭を抱えた。
きれいな人だ。同性なのに思わず見蕩れてしまう。こんな事態になっているのにおれは不謹慎な程 彼を見てしまう。

「一緒に此処に打ち上げられていた事を考えればおまえとおれは顔見知りの可能性が高いな」

周りの景色を見渡しながら彼は再びおれに目を向けた。
こんなきれいな人と顔見知りだったら絶対に忘れそうにない。だが、おれにも明確な記憶がない以上 はっきりした事は言えなかった。

取り敢えずおれたちは二人で島を一周した。
人は居ない様だが草木は豊かで生き物の気配もする。食べる物にも困りそうにない。
彼は慎重な性格らしく、ひとつひとつの植物や湧き水を手に取って確認していた。
おれは湧き水を先に飲み、問題ないようです と伝えた。

「おまえは悪い奴じゃないようだな」

見た目と反して口調は荒いが彼の口から出ると不思議とそれも好ましい物になる。

「…どうやらあなたに一目惚れしたみたいです」

会ったばかりの彼に思わず気持ちを伝えていた。警戒される事も覚悟したが彼は驚いて目を剥いた後、すぐに笑っておれに手を伸ばした。

「…偶然だな、おれもだ」


その夜、おれは彼に抱かれた。 余りにも性急な気もしたが おれの意識の全ては彼に向いていてそうする事に何の不自然も感じなかった。
身体を繋げた後、湧き水の出ていた近くの泉で互いの身体を洗いながら 其処で再び身体を繋げた。
身体を拭くものがなかったのでおれが着ていたつなぎで水気を拭き取ると彼の背中におれのつなぎと同じかたちの入墨がある。

「あなたの背中におれのつなぎと同じ印が有りました。おれたちはやはり知り合いなのでしょうね」

おれがそう言うと彼は笑って

「只の知り合いじゃねぇだろ。多分 記憶が戻れば恋人だった事を思い出すんじゃねぇか?」

と答えた。
そうだったらいい、彼から離れず ずっと傍に居られる関係ならば。
おれたちはそのまま抱きあって眠った。


翌朝、おれはすっかり記憶を取り戻していた。

なんて事をしてしまったのだろう
尊敬する船長と身体を繋げ、あまつさえ一目惚れなんて告白をした。
記憶を無くしたおれは長年秘めていた想いをあっさり曝してしまい、船長と船員の関係をいとも簡単に壊してしまった。

隣で寝ていた船長を見ると程なく目を覚まし、おれの顔を見て昨日と同じように 笑った。
その目にははっきりと意志が宿っていて彼の記憶も戻っていることを表していた。

「一日ぶりだな、ペンギン。どうやら おれたちは両想いだったようだ」

船長の言葉におれの頭は真っ白になる。
あの夜、嵐の中 船から落ちた船長を追っておれは海に飛び込んだ。船長の身体を支え運よく近くの島に到着した後、力尽きてそのまま砂浜で気を失ったのだ。
「彼さえ助かるなら自分はどうなっても構わない」
長年おれが忠心で隠していたそんな想いを船長はたったひと言で簡単に溶かしてしまった。

つなぎのジョリーロジャーの描かれた部分を破って旗代わりにしていると程なく黄色い潜水艦が姿を表した。おれたちの船、ポーラータング号だ。

「さあ、帰るか。ペンギン」

立ち上がる船長に アイアイ、キャプテン と答えると

「二人きりの時は恋人らしくローと呼べよ」

と耳打ちされ、身体中が赤く染まった。

end





 「 一目惚れ 」

何度でも恋をする二人









"Ropesya" 56さまより投稿頂きました、企画ご参加ありがとうございます!
先日のリレーつながりでまた何かやりましょうねと話していたところ、そういえば昔こういう企画がありまして…と
お誘いしたところさっそく作品をいただきました!この!シチュエーション見たかった!何故かという理由は横においといてw
大変おいしい仕上がりのお話でした。この番外編(?)をちょこっと書けたら書かせていただこうかな、なんて考えています。
いつもフットワーク軽くどんどん作品を生み出してらしてさすがだと毎回感服してます!次回のご参加もお待ちしていますvv


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あきゅろす。
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