第二章 3 午前中でテストも終わり、早めの下校。 知哉は光の家に着ていた。 今日は二月十四日、天下のバレンタインデーだ。 「まだかな」 「んー、もういっかな、出してみよっか」 オーブンからチョコレートの焼けた匂いが漂う。 二つ並んだガトーショコラ。あとは冷ますだけ。 残った材料でクッキーを作っていたので、それは二人で食べようかと、冷ましている間こたつに入りこんだ。 「初めてケーキなんて作ったよ」 「オレもチョコレート系のお菓子作んの久しぶりだったから、うまくできてよかったー」 雪がちらつく外をみながらクッキーをほおばる。 「知哉さ、なんで作ろうと思ったの?ほら、バレンタインて、女から男に渡すじゃん」 「ううん、迷ったんだけど、なんか、一応…。それに、外国は男が女に花とか贈るのが習慣だし」 「へー、そうなんだ」 「そう、だからいいかなって。…光、のは、聞かないほうがいい?」 できるだけ自然な流れで、知哉は聞いた。 でも、やっぱり無言になった。 聞かないほうがいい、と聞かないほうがよかったかもしれない。 「…オレだって、迷った」 「うん?」 「迷って、迷って、迷って…たつもりで、結局決まってたのかなーって」 「そっか」 「うん」 にかっと笑う光は、今まで見たことない光だった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |