第二章 4 コン、コンコン 四時半を少し過ぎた頃、光は寮の一室の前にいた。 306号室、直樹の部屋である。 ギィと鈍い音を立てながら扉が開く。 「よー」 「おう、悪いな、ここに呼んで」 「幸介んとこで時間つぶしたから、大丈夫。で、話って?」 話があるから、誰にも言わずにこの時間に俺の部屋に来てくれ。 昨晩、直樹からメールが届いた。 なんだろうと不思議に思ったが、用事があるわけでもなかったので了解と返事をした。 直樹は、じっと光を見つめる。 黒い瞳の鋭さに、光は思わず目を逸らしてしまった。 あぁ、この感じ、似ている…。 「光」 そのまま名前を呼ばれ、恐る恐ると顔を上げた。 何故だか声が出なかったので、ゆっくり瞬きをする。それを合図にするように直樹はまた口を開いた。 「今から、お前に好きだと告白する予定でいる。無かったことにしたかったら、すぐに帰ってほしい」 光は、何故だか強張っていた肩の力を深呼吸して緩めた。 直樹の目をもう一度見る。 捕えるような真っ黒な瞳に、どこからか入ってくる夕日の線がすうっと通っている。 吸い込まれそうな目から、やっと自分の中に居座る昔の記憶を取り除くことが出来た。 「…中、入っていい?」 「…散らかってっけど」 促されて、少し遅れてついていく。 何度かいれてもらったことのあるこの部屋は、いかにも学生寮らしい狭苦しさで、床からはじんわりと冷たさを感じた。 小さめの絨毯に腰を下ろすと、直樹は光の真正面に座った。 「で、話って?」 光は、同じ質問をした。 これ以外に、見つかる言葉がなかったからだ。 直樹も、何かを言うでもなく、そのまま続けた。 「光。好きです、転校初日に一目惚れしてました」 いつもの調子だったなら、何言ってんだよの一声で終わっていた。 けれど、さっき見た目は真剣そのもので。 今、光を見ている目も真っ直ぐだった。光が、何も言わずにいると、直樹は一呼吸置いて、また続けようとした。 「付きあっ…」 [*前へ][次へ#] [戻る] |