第二章 4 ほう…と一息ついて、一度だけ立ち止まる。 直樹に気づかれない程度に止まったつもりだったのだが、直樹も立ち止まり、光の顔を覗き込んできた。 「わっ、急に止まるなよなー」 「…光、お前さ」 「ん?」 「いや、…顔色悪い。大丈夫か?」 「え…あ、や、大丈夫だよ?いきなりなんだよー」 目の前にある直樹を直視できずに、光は早足で廊下を歩いた。 何だよ、最近になってびくびくしすぎじゃないか、俺。 別にもう何も無いわけだし、それこそ去年とかは全然大丈夫だったと思うんだけど。 もやもやと光の心の中で言葉が飛び交う。 直樹の声が聞こえ、少しだけ振り返る。 夕日の逆光で顔は見えなかったが、見えなくて良かったとも思った。 「何だよ、早く行くぞ!知哉も幸介も待ってんだから」 何か言いたいのは表情が見えなくても分かった。 何が言いたいのかは分からないけど。 スリッパをひょいっと下駄箱に投げ入れ、校門に向かった。 それはある木染月の日。 013 End [*前へ] [戻る] |