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 謄蛍の陣営には一刻と経たずして戻る事が出来た。
 陣内はやはり、先程安葹が現れたと言っていた黒龍の話題で、やや騒然となっていたが、孟鐫は見向きもせず謄蛍のもとを目指す。

「昂孟鐫、只今帰りました」

 孟鐫は謄蛍を前に、拱手をして畏まる。
 謄蛍は馬上で、川の彼方を眺めていた。

「孟鐫か、大儀であった。対岸の賊徒どもは、現れた黒龍に辟易しておる。叩くのならば、今だな」

 謄蛍は振り返る事なく、目を細めながら遠くの敵影を見詰めている。
 孟鐫はその隣に歩み寄り、同じように視線を彼方へと移した。

「黒龍など……ともかく、敵の策は打ち砕きました。いよいよ、出陣の御命令を」

 ふっと謄蛍は孟鐫の方を向き、にこりと微笑む。

「今回の指揮は、そなたに任せよう。その為に呼び寄せたのだからな」

 言われた孟鐫は目を丸く見開き、あんぐりと口を開いて唖然とした様子を見せた。
 然もありなん。
 孟鐫の兵は二千を越える事は無い。
 対して、謄蛍の預かる兵の数は一万。
 そのような大軍を動かした経験など、無いのだから唖然として当たり前なのだ。

「なに、気負う事は無い。始めから大軍を扱うに、玄人などおらぬよ。私も昔は素人だったのだ」

 

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あきゅろす。
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