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 果たして、雪解けの水で嵩が増えているとしても、これだけの水で水計など出来るのだろうか。
 左手に流れる濁流を横目に、孟鐫は思案を廻らせた。
 何か、別の意図があるように思えてならない。何か、別の……。
 戦力を裂く事が目的ならば、賊徒のが寡兵である。堰の守備に兵を分けるのは得策とは思えない。
 もし裂く事に成功したとしても、我々の部隊だけなら戦闘に支障は全く以て無いと言い切れる。
 水計が目的でないとすれば、他に何の意味があるのだろう……。

「孟鐫様、空を」

 安葹の声が、孟鐫の耳に入った。
 言われた通りに空を見上げると、いつの間にやら黒い雲が立ち込めている。

「一雨来るかな」

 雨が降れば、また水嵩が増す。あまり好ましい事ではない。

「そうじゃありません。南の空を、ご覧になって下さい」

 孟鐫は木の上にいる安葹の指差す方向へと目を遣った。
 すると如何だろうか。
 しゅるしゅると、竜巻のような細長い物が、黒い雲の中へと吸い込まれて行く姿が見えた。

「黒龍が現れたのです。孟鐫様、見逃してしまわれましたね……」

 安葹は言いながら苦笑している。
 龍などと言った物は滅多に見られる物ではなく、吉兆の前触れとされる事が多い。

 ――我らの吉兆か、それとも……。

 孟鐫は険しい顔で馬を進めた。



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