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謄蛍は、姓を史(シ)、名を穿(セン)と言う。
この瓏国を統べる帝の大叔父にあたる人物なのだが、帝の座を狙っているとの流言によって左遷され、今は北方の僻地である堰州の刺史に納まった。
現帝は三代目で、謄蛍は初代帝史茘(シレイ)の弟にあたる。
初代が倒れた時、二代目史安(シアン)が若輩だった為、当時三十路だった謄蛍を帝に担ぎ上げる動きがあったが、本人は固辞し、史安の補佐に徹した。
その史安も四年前に崩御し、再び謄蛍を帝にする動きがあった。
しかし、現帝、史潭(シタン)派だった男がその動きを一蹴し、事態は終息を迎えた。
その一件を静めた男が、角孔(カクコウ)である。
謄蛍自身も、こう幾度となく帝に担ぎ上げられそうになるのにうんざりし、左遷には快く応じた。
孟鐫は部隊の人間に準備をさせながら、時を待った。
孟鐫の出身である村も山沿いにあり、山道ならば得意分野である。
私兵の訓練にも近くの山を使う為、今回の任は孟鐫にとって、功を上げる絶好の機会なのだ。
ただ、二千騎とは言え、半分しか騎馬兵ではないので、二千“騎”と言うのは些か語弊があるのかも知れない。
「さて……帰って、奴らにどやされないようにせねばならん。皆、気を引き締めて行くぞ」
陣の北に部隊全員を集め、孟鐫は剣を持ち上げながら気合いを入れた声を張った。
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