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 東を見遣れば、清らかな翠江の流れがあり、その彼方にも草原が広がる。
 そちらには、ちらり、ほらりと朱い旗が翻っていた。
 その旗はここ数ヶ月、蒼瑙(ソウノウ)山脈の南によく出没するようになった賊の物で、紅月仙人と呼ばれる李皓(リコウ)が率いていると言われている。
 李皓とは、その異名の通り、瓏国南部の紅月山脈に住むとされる男で、神話時代の生き残りな上、千年の時を生きているとの伝説があった。
 ただ、姿を見た者はおらず、その存在は伝説の域を出ない。
 この賊の言い草としては、李皓と、彼が所持する“三種の神器”の一つを用いて、この国を改革するのだとか……。
 よく聞く“方便”である。

 孟鐫は都からの達しに従い、私兵を率いて堰との州境まで来たところ、謄蛍の堰軍と合流。匯の北、八十余里の場所で陣を敷いた。
 斥候によれば、賊の本陣は翠江の上流にあり、この場所からさほど遠くない。

「しかし、今まで何故討伐の命が出なかったのでしょう」

 孟鐫は傍らの謄蛍に尋ねた。

「都の中枢に、彼等と共謀しておる人間がいるのではないかね。それと……相手には頭の切れる人物が付いておるようだ」

 謄蛍は彼方の敵陣を指差し、声を低めながら続ける。

「塁を築いた……河は渡らぬつもりだ」

 

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あきゅろす。
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